サニーボーイ 第3話考察 フリーズ事件はなぜ起きて、なぜ解決されなければならなかったのか。

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お互い様でしょ。

「下駄を履いたネコ」

気になったポイント

中学生

 今さら気付いたんですが、長良たち中学生だったんですね。私のなかで中学生のイメージはプリキュアなので、なんとなく無条件に高校生だと思い込んでいました。この時期だと精神的にまだ小学生同然のはずの1年生が画面に映らなかったのも理由の一端。公式サイトによると漂流したのが「36名のクラスメイト」だそうなので、そもそも登場人物全員中学3年生なのでしょう。
 全員3年生ならまあ、進学という節目にあたって、子どもと大人との境界線上で漠然とした不安を抱えていることに変わりありません。キャラクター解釈に大幅な修正を加える必要はなさそうです。

能力リスト

 明星が発案し、はやとがまとめているらしい各生徒の能力データ。考察にはやとの嗜好が色濃く反映されている。つまりは実用性よりも戦闘力とカッコよさ最優遇。ランクだの属性だの強度だのを真面目に受け取る意味はないだろう。どうせいつか黒歴史ノートと化す。

はやとの能力【ET】

 指先がライトのように光る。誰が見ても明らかにしょうもない能力だが、本人は満足そう。
 おそらく彼は自分の置かれた現状にさほど強い不満がないのだろう。彼はコミュニケーション強者で人間関係に不自由している様子もなさそうだし、それでいて趣味はオタク気味で誰にも邪魔されず自己完結できる。今の自分を変えたいと思うことがないからこそ、何者にも変わることがないのだと思われる。

その他大勢の無能力者

 瑞穂が漂流前から早くも能力に目覚めていたことを考えると、単純にまだ能力に目覚めていないだけの可能性はある。
 はやとがほとんど役に立たない能力に目覚めたことから考えると、単純に能力を獲得しなければならない差し迫った情動がないだけの可能性もある。
 たぶん後者。彼らは瑞穂の物資で養われ、ラジダニのつくった経済システムで管理されている現状においてすら、大して不満を抱いていないようだ。

朝風の性格

 スカして孤高ぶっているくせに周りに対して妙に攻撃的。自分の実力をアピールしすぎ。ありていにいって、自分に対しても周りに対しても他人からの評価というものを気にしすぎているきらいがある。そういう自縄自縛な価値観が彼の生きかたを余計に窮屈にしているのだろう。

視聴覚室で発見された「この世界」への扉

 室内の暗幕を全て広げる、という条件を満たすことで「この世界」へ転移できる。他の場所では何かをくぐることが転移の条件だったので変則的といえば変則的。
 転移先の「この世界」は元の視聴覚室で壁だったところも含めて全面暗幕に覆われ、机も消えていた。床材は視聴覚室と同じ。

 なお、暗幕と床材は一連のフリーズ事件で転移した先の世界とも一致している。フリーズ事件解決後は視聴覚室の「この世界」へ扉も消滅していたことから、2つは同じ世界だったものと考えられる。

明星にだけ聞こえる声

 視聴者にはまるでナレーションのように聞こえる。スタッフロール上のキャスト名は「ヴォイス」。
 明星には漂流前から聞こえていたらしい。【HOPE】の能力とはおそらく別の存在。たまに明星以外の生徒も聞こえたようなリアクションを取ることがあるが、詳細不明。

瑞穂が長良にイライラしている横で、長良が見つけてくれた猫を他の猫が丁寧に舐めてあげているシーン

 すっごい象徴的でいいよね!

考察1:事前状況

 生徒たちにとって第2話から今話にかけて起きた最も大きな変化は、仮想通貨HYO-RYU-COINの流通がスタートしたことでした。

 前話まで、労働といえば生徒会役員やラジダニといった独自の目的意識を持つ生徒、もしくは長良など自然と仕事を押しつけられてしまう貧乏クジ体質の生徒だけが行うものでした。
 この世界の基本ルールとして、生徒たちは飢餓やケガなど生命の危機に脅かされることがないため、普通のサバイバルなら真っ先に取り組まなければならない食糧調達や安全確保、道具製作などの労働をほぼ必要としなかったからです。もちろんおいしいご飯は食べたいでしょうし、個室と柔らかいベッドで寝たい気持ちもあるでしょうが、最悪飲まず食わずでそこらに雑魚寝でも彼らは生きていくことができました。
 だからやる気のある生徒、なんとなく義務感を抱いてしまう生徒だけが自主的に働くかたちになっていました。大半の生徒は遊び呆けていても何も困ることがありませんでした。

 その自堕落な生活様式をHYO-RYU-COINは破壊しました。
 みんな瑞穂の【ニャマゾン】で供給される物資を欲しがったからです。飲まず食わず雑魚寝でも生きられるとはいえ、やっぱりいい生活はしたい。物資は当初無償で配布されていたのですが、前話での炎上事件を経て、仮想通貨による交換方式が採用されることになりました。
 これにより、全ての生徒が何かしらの労働を行って、物資を買うための資金を自分の手で稼がなければならなくなりました。働くことが全生徒にとっての当たり前に変わりました。

 島で一般生徒向けに募集された役務は主に土木と建築だったようです。いわゆるホワイトカラーな仕事はただでさえ需要が少ないうえ、生徒会役員やラジダニらが先行独占していたので仕方ないですね。
 土木・建築への従事には当然、ある程度集団行動への適性が要求されます。陰気だったりオタク気質だったりする生徒にとってはさぞかし居心地が悪かったことでしょう。
 なお、集団行動が苦手という意味では不良生徒たちも当てはまるはずですが、彼らの場合は「NO CATS ALLOWED」、そもそも【ニャマゾン】の恩恵を拒否することで居心地悪い生活からうまく逃げていたようです。再三書いていますが、【ニャマゾン】なしでも生きられるっちゃ生きられる状況なわけですから。

 【ニャマゾン】なしでも生きられるっちゃ生きられるわけですが、不良以外の大半の生徒は普通に労働することを自ら選びました。
 だって、みんな働いているからです。
 現実世界における生活保護みたいなものですね。働かずとも生きていける選択肢が存在するにしても、働くのが当然のムードのなかで安易に生活保護を受けるのはいささか世間体がよろしくないわけで。そういうズルい生きかたを堂々選べたのは不良生徒たちだけだったわけですね。

 「恵まれたやつはいいよな。バカみたいだよ、本当に。いいようにこき使われるだけで」

 「ここじゃ自分の好きなことだけに時間を使えるんだ」

 「働きたくない。ここがいい」

 そんなわけで、当初は誰も働いていなかったはずにもかかわらず、しかも生きるだけなら実際には働く必要なんてなかったにもかかわらず、HYO-RYU-COINの出現によって「働きたくないならどこか別世界へ逃げるしかない」という実体のない強迫観念が自然と浸透しはじめたのが今話の状況だったわけです。

 ちなみに、本来なら【ニャマゾン】物資の購入に対価なんて必要ありませんでした。
 あれは瑞穂の「周りがタダで自分の能力を利用しているのが面白くない」という思いが、この世界の「所有権を認められていない物品を持つと自然発火する」ルールと噛み合ってしまっているだけです。瑞穂がみんなに無償配布していいと思ってくれさえしたら、HYO-RYU-COINとの交換なんていう面倒なだけの手続きはしなくてもよかったはずでした。そもそも瑞穂自身はいくらHYO-RYU-COINを稼いでも使い道がないわけですし。
 その真相を正しく理解しているのは、現状彼女からオゴリを受けたことがある長良だけ。だから長良は彼女のことを性格が悪いと言ったわけですね。

考察2: 逃避先の世界について

 「これは瑞穂の考えなんだけど、被害者は皆変わり者で、周りの人間から嫌われていた。なので、この事件の原因は“仲間はずれ”にあるのではないか」

 中間報告時点の瑞穂の見立ては半分正解、半分思い込みといったところ。
 瑞穂は誰かが能力を悪用して行ったイジメだと考えていましたが、実際には行き場を失った生徒たちが自主的に別世界へ逃避したというのが真相でした。
 瑞穂の場合はそもそも学校のなかに居場所がなくて当たり前の生活をしていたので、行き場を失うという感覚が理解できなかったのでしょう。真相を知ったあとですらも彼らには冷たく当たりました。その点、長良はそういうところに共感できる精神性なので、瑞穂と激しく衝突することになります。

 逃避先となった世界は以前長良が学校の視聴覚室で見つけた「この世界」のひとつ。
 四方を暗幕で覆われただけの閉じた環境で、中はいくつかの個室に分かれていました。また、いかなる理由によるものか、行き場を失った生徒たちの暇つぶしに適したアイテムが都合よく供給される仕組みにもなっているようでした。
 これがどういうわけか島のどこからでもアクセス可能になっていたようでした。アクセスするための要件はおそらく、「この島から逃げだしたい」と願うこと。
 HYO-RYU-COIN流通前は働きたくなければ働かなくても許される環境だったため、今回問題になったこの別世界へアクセスできるルールがいつの間にか世界に追加されたものなのか、それとも密かに最初から存在していたのかはわかりません。

 逃避先の「この世界」では四方を遮るものが暗幕だけなので、部屋を移動しようと思えばいくらでも自由に移動できました。ただし、フリーズ事件でこの世界にやってきた生徒たちはそもそもひとりになりたかった人物ばかりだったため、彼らは自分に宛がわれた部屋の外がどうなっているのかという興味すら持たず引きこもっていたようです。部屋と部屋とを実際に渡ってみたのは長良たちだけでした。

 なお、この逃避先の世界が長良が校舎内で見つけた「この世界」のひとつであるという事実はきわめて重要な要素です。

 「ここ最近長良くんによって発見された扉。学校内で偶然発見されたそれは、様々な『この世界』へと通じていた。しかし、それらの世界は皆一様に想像を絶する空間で、僕ら人間の生存を拒絶している」(第2話)

 逃避先の世界も「この世界」のひとつであるのなら、本来人間の生存に適していないはずだからです。なのに、フリーズ事件の生徒たちはこの世界のなかで数日間を過ごしている。
 そもそも長良たちが視聴覚室からアクセスしたときも、この世界だけは特に危険な様子は描かれていませんでした。
 ならば、この世界の“人間の生存に適していない”要素はどこにあったのか。そこを考えてみる価値はあります。

考察3: なぜ事件は解決されなければならなかったのか

 「何か事件に巻き込まれたのかもしれないし、このフリーズ事件についても調べないと。誰か」
 「俺ら、時間も特別な能力もないからなあ」
 「そうよね・・・」

 これについてははっきりしていますね。
 生徒会長であるポニーの意志です。
 他の生徒は全員非協力的ですし、同じ生徒会役員のキャップですら興味なさげな態度で長良たちの報告を聞いていました。
 というか、ポニー自身も真相解明より生徒たちの労働のほうを優先順位高く見ているあたり、そこまでこの事件を深刻に捉えている印象ではありません。

 じゃあなんで解決したがっているのかと。何を思ってひとりであんなキーキー喚いていたのかと。

 「いや。このまま元に戻ったら、絶対俺らの責任になるよ」
 「責任?」
 「先生にさ、『お前ら生徒会の監督不行き届きだ』って。もしそれが内申に響いたら、俺――」
第1話)

 これが理由です。
 ここまでの生徒会役員たちの行動原理は基本的に全部こんな感じです。

 要は責任逃れ。
 最低限の義務は果たしたというポーズ。
 そういうのをつくっておきたいだけ。

 というか、この物語の登場人物、希(※ もしかしたらラジダニも)以外全員責任逃れベースで物事を判断しています。
 だから誰も彼もみんな新しいことに消極的。ほどほどの現状維持で満足しちゃう。むしろ現状維持にこそ必死になっちゃう。
 そのくせ校内SNSでは鼻息荒く他人の責任問題を訴える。絶対自分には火の粉が降りかからないってわかってるから。

 島が居心地悪くて別世界へ逃避した生徒たちにしてみたらいい迷惑ですね。
 どうせ自分たちを本気で必要としてくれている仲間なんていないのに、勝手な都合で強制的に連れ戻されるなんて。

 だから今話の事件解決は今ひとつスッキリしません。
 一番の当事者であるはずの失踪者たちが事件解決後どんな思いでいるのか一切語らせてくれません。
 ただなんとなく、とりあえず、クラスメイトたちの輪のなかへ帰っていったことだけ描かれるだけ。

 「これで無事事件も解決ね」

考察4: 結局誰が、何を解決したのか

 じゃあ結局今話の物語は、誰の、どんなことが問題として取り沙汰されていたのか?

 そりゃあもちろん長良の気持ちの問題です。

 「これは、この世界の仕組みによって起こった現象。“仲間はずれ外し”はこの世界のルール。彼らは引きこもっていたんじゃなくて、本当はみんな――」

 だってこの事件、最終的に長良の気持ちを満足させるかたちで解決したわけだし。

 長良は別世界へ逃避した彼らが本心から引きこもることを望んでいたのか、本当は帰りたがっていたのか、確認を取ったわけではありません。
 ただ、共感しただけです。“長良が彼らの立場だったらどう思うか”想像してみただけです。
 もしかしたら盛大に勘違いしているかも知れません。もちろん大正解、本音を的確に突いていたかもしれません。

 どちらなのかは現時点ではまだわかりませんし、そこはそもそも大した問題じゃないんです。

 今回の事件、誰も失踪した彼らのことを心配していませんでした。
 責任逃れしたい生徒会役員以外、当事者すらも含めて、事件の解決を望んでなんかいませんでした。

 なのに解決しました。

 誰が? 長良が。
 どうして? 長良が解決すべきだと考えたから。

 「朝風に頼んでムリヤリ引っぱり出せばいいでしょ。それで解決よ」
 「本人たちは出たくないって言ってるんだから」
 「じゃあ、金かモノで釣る」
 「それじゃダメだよ」
 「あーもう! もっと使えるやつだと思ってたけど勘違いだ!」

 「本人がそれでいいなら放っとけよって話だろ!」
 「それがダメなんだ! お前も! あいつらも! ぶつからないとわかんないことがあんだよ!」

 「・・・ああ、そっか。わかった。だから君は今回の捜査をやるって言ったんだ。自分の無能さを知るために。自分もただの引きこもりだったくせに、漂流前から超能力使えてたとか嘘ついて見栄張ってさ。モノも対価なくあげれんのに、どんだけ性格悪いんだ」

 そこが、今回長良がこだわったポイントで、今回どうしても納得できなかったポイントでした。

 どうやら長良は心優しい善良な人物のようです。
 漂流前からひとりで過ごす時間をつくることを好んでいた彼には、引きこもりたいと思う他の生徒たちの気持ちが理解できるようです。尊重してあげたいと思っていたようです。
 自分は瑞穂から無償でモノを受け取れる立場にいるのに、他の生徒たちも同じようになっていないと納得できないようです。せっかく自分だけ特別によくしてくれた瑞穂にむしろ苛立っていたようです。

 そんな彼が、根本的には瑞穂のワガママの犠牲者である異世界の引きこもりたちを、力尽くで引っぱり出しました。

 そういえば、あの世界も「この世界」のひとつ。“人間の生存に適していない”はずの世界。なのに一見普通に生存できてしまう世界。
 瑞穂や希との交流を通して、ちゃんと気付いたんですね。あの世界もまた、本当に“人間の生存に適していない”世界であることに。

 きっかけは希の一言。たった一言。

 「こっちは長良がいないと何も始まらないんだから」

 ただ、自分が必要とされていると知れたこと。たったそれだけのことが今回の事件を解決する理由になりえました。
 だって、あの引きこもりだった瑞穂もついさっき今の自分とまったく同じ思いを吐露してくれてたんです。「ぶつからないとわかんないことがあんだよ!」って。
 本当にそうでした。朝風からの又聞きや、瑞穂からの印象論、自分でもそのとおりだと思い込んでいた自己完結思考。――全然、そんなことありませんでした。
 たった一言、周りの人の何気ないたった一言が心を救ってくれる瞬間もあるんだってことを知りました。

 暗幕に覆われた「この世界」は確かに“人間の生存に適していない”世界でした。
 だって、あそこにひとりで引きこもっていたら、いつまでたっても自分の心が死んだままだ。

 「これは、この世界の仕組みによって起こった現象。“仲間はずれ外し”はこの世界のルール。彼らは引きこもっていたんじゃなくて、本当はみんな――」

 今回の事件を解決したのは長良です。
 事件を解決させるべきだと思ったのは長良です。
 誰も引きこもりたくて引きこもっているんじゃないと確信したのは長良です。
 本当の気持ちは別にあるんだと信じたのは長良です。

 今回の事件は、長良が、長良のために解決しました。

 ・・・それにしてもまあ、事件が起こる前からそういう意味で“人間の生存に適していない”世界への扉を見つけてしまうというのは。なんというか、つくづく本当に。

 「本心はさ、なかなか言えないものなんだよ」

 わかっちゃいましたが、なかなか面倒くさいお年頃ですね。

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