
楽器ひとつひとつの個性が合わさって、想像を超えた、ステキな音が奏でられるんだ。

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(主観的)あらすじ
お仕事体験ツアー第一弾! 今日ははぐくみフードフェスティバル会場でウエイトレスに挑戦です! 急いでいるお客さんへのオススメは? もっと早くお食事を届けるためには? さあやとほまれは自分の特技を生かして大活躍! けれど賑やかな会場でしょんぼりしているのがひとりだけ。何も特技がないはなは何もできずにいました。
みんな違う個性を持っている。その人にしかできない役割がある。そうはいうけれど、じゃあ何の特技もない自分は何なんだろう。何もできない。何にもなれない。はなの心はついに挫けてしまいます。
折り悪くクライアス社の襲撃。プリキュアに変身することすらできなくなったはなを庇って、はぐたんの秘められた力が発現します。その代償としてはぐたんは目を覚まさなくなってしまうのですが・・・。
「なんでもできる、なんでもなれる」 そう謳いながらも、実際にはまだ何もできずにいる子どもたちを描く物語、『HUGっと!プリキュア』。今回のお話ははなの個人的な問題でもありますが、同時に物語全体として取り組むべきテーマでもあります。
・・・というわけでガッツリ尺を使って前後編。今話だけで見るとどうしてもちょっぴり暗いお話でしたね。
はなとさあや、ほまれの違いはどこにあるのでしょう。たとえばさあやたちが初めてプリキュアに変身できたとき、彼女たちの傍にははながいてくれました。いつもはなの応援がありました。では、はなの場合は?
なにもできない、なににもなれない。
「吹奏楽はね、いろんな楽器でハーモニーをつくるんだよ。ひとつの楽器だけじゃなくて、いろんな楽器の音がある。楽器ひとつひとつの個性が合わさって、想像を超えた、ステキな音が奏でられるんだ」
「野乃さんは野乃さんにしか出せない音を思いっきり奏でればいいんじゃないかな」
プリキュアという物語は割とスパルタです。キレイなお題目を唱えながら、そのくせ簡単には実現できないようあえてはしごを外しに掛かります。東堂いづみはだいたいいつもドSです。
「みんな輝く才能を持っているのに、私には何もない」
はなの弱音を受けて示されたアドバイスが上記のものです。何のフォローにもなっていません。「野乃さんにしか出せない音」も何も、そもそも才能がないつってんだろ。
それもこのセリフ、ひなせ君が迂闊に吐いた的外れな助言って位置づけですらありませんからね。
「与えられたことをやるだけじゃなくて、自分で工夫するのも大事なんだなって」
「お客様に頼られるって、すごく嬉しいなって思いました」
はなの羨む“輝く才能”の持ち主たちは、その活躍は自分たちで工夫したおかげだと語ります。要は「何ができるか」ではなく「何をしたいか」を考えた成果だと。
あなたの個性は具体的にこれこれこういうところですよ、みたいなお優しいアドバイスをする気がまるでありません。“才能”なんて言葉に甘えんな、活躍できる舞台は自分で見つけろ、との強硬な姿勢です。鬼か。
ミライパッドははなに当たり前のウエイトレスの衣装を与えませんでした。
自分にできること、自分のやりたいことがある程度固まりつつあるさあややほまれと違って、はなには確たる未来像がないからです。
優しくて賢くて、相手のために自分が何をしてやれるかを考えることのできるさあや。
特別な才能があって機転も利いて、誰にもマネできないことを誰よりも上手くできるほまれ。
そんな彼女たちなら、たとえ周りのみんなと同じ舞台に立ったとしても、少なくとも自分だけの個性を発揮することはできるでしょう。
けれど、はなはそうじゃありませんでした。
もしはなに普通のウエイトレスの衣装が与えられていたとしたら、きっと彼女は今回ほど苦しい思いをしなくて済んだでしょう。当たり前に仕事をして、当たり前に感謝されて。どこにでもいるごく普通のウエイトレスとして、きっとその個性は周りの輝きに埋没してしまっていたことでしょう。
それはそれで、果たして本当にはなの望む「大人っぽいイケてるお姉さん」の姿だったでしょうか?
「はぐたん。私ね、大きくなったらなんでもできる、なんにでもなれるって思ってたの。なのに何も、なにもできないよ・・・」
現在と未来は連続しています。今日できないことが明日いきなりできるようになるなんてことはありません。今この瞬間の野乃はなに野乃はなにしか出せない音色が存在しないのならば、ああ、そうとも、未来は無限大なんかじゃない。
「はな。まだアンタは大人になる階段を上る途中や。それはどういうことかっちゅうと・・・」
「なにもできねえってことは、これからなんでもできる可能性があるってことだ」
ワケ知り顔で大人ぶってる連中は平然とキレイゴトを宣いますが、子どもをナメるな。はなは本当のことを知っています。実体験としてとっくに理解しています。
昔のはなが無邪気に信じていた輝く未来は、大きくなった今も訪れてくれることがありませんでした。現在と未来は連続していて、そして過去と現在も連続しています。だから、イケてない野乃はなは現在も過去も、どうせ未来でも、ずっとイケてないままに決まってる。
なにもできない、なににもなれない。
未来に可能性なんてない。
輝く未来なんてもう信じない。
それでも、可能性は無限大。
どうしてさあややほまれにだけ輝く才能があって、はなにはないのでしょう。
そんなのズルいじゃないですか。不公平じゃないですか。
ふたりには“できる”ことがあって、それを活用して“したい”ことにつなげられているのに、そうして輝いているのに。はなだけが“したい”に挑戦する権利すら与えられない。
そんなの理不尽じゃないですか。どうして。
私は“才能”という言葉が嫌いです。
「バイバイ、子どもっぽいはな。大人っぽいイケてるお姉さんに――、へんしーん!」(第1話)
第1話のあの日、はなの瞳は希望を映して輝いていました。大人っぽい前髪目指していっぱい髪を伸ばして、やっと夢が叶うと、ワクワクしながら自分ではさみを入れました。
結果はあなたもご存じの通り。朝のそよ風が“大人っぽい前髪”を描いたページをそっと隠しました。
あのときはなは言っていましたね。
「バイバイ、子どもっぽいはな」
「元気だけが取り柄のお茶目なはなとはもう言わせないんだから!」(第1話)
けれど前髪を切りすぎた彼女は結局そこから脱却することができず、そして――、そんな元気でお茶目なはなだからこそ、彼女はさあややほまれと友達になることができました。
望もうと望むまいと、それは立派なあなたの個性です。
「あふくておいひいたこ焼きください!」
笑われてしまったと、はなは泣きました。何もできないと、自分を情けなく思いました。
そうじゃありません。笑われてしまっただなんてとんでもない。その道化っぷりはたこ焼き屋のヘンクツオヤジには絶対にできない、はなだからこそできた個性の輝きでした。何もできないだなんてとんでもない。あと少しだけ耐え忍んでその場に留まっていたら、はなは思いもよらないステキな光景を見ることができたはずでした。
はなにははなにしか奏でられない音色がちゃんとあったんです。ただ、カッコ悪いと目を背けていただけで。
そうですね。確かに「大人っぽいイケてるお姉さん」にはあまり似つかわしくない性質かもしれません。大人っぽくなりたいのならいつかは卒業しなければいけないかもしれませんね。
ですが、その子どもっぽさ、お茶目さがもたらした、この結果はどうでしょう。
あなたはたくさんのお客さんを呼び込んで、立派にウエイトレスの仕事を果たしました。アツアツのおいしいたこ焼きを食べてたくさんの人が笑顔になれる、そんな直近のステキな未来をつくりあげました。
この結果は「大人っぽいイケてるお姉さん」として望ましくないものでしょうか?
そんなはずがありませんよね。
だっていつもの野乃はなは、みんなを応援したいと願う、元気のプリキュアなんですから。
はなにはさあやのようにたくさんの気づかいができる才能はありません。
はなにはほまれのように器用にカッコよくふるまえる才能はありません。
だからはなは自分には輝く才能がないと思い込んでしまいました。
けれど、それは目の前の事実から目を背けているだけです。
あなたの周りにはいつも笑顔があふれていました。大抵ドジして失敗して、狙ってつくった笑顔ではなかったのだけれど。けれど事実として、あなたにはみんなを笑顔にできるステキな個性があるんです。
なにもできない? なににもなれない?
いいえ。あなたはあなた自身には想像も及ばないような、輝く未来の可能性をちゃんと持っています。
子どもっぽさが美点になる場合もあること、知らなかったでしょう?
お茶目が美点になる場合もあること、知らなかったでしょう?
今のあなたのあなたらしさを否定してはいけません。どんなにカッコ悪く見えたって、それはときに思いもよらないかたちで未来の可能性をつくることがあるんです。
お花屋さんの職業体験をしたことがありましたね。
あれはあなたにとって無駄な経験だったでしょうか。将来お花屋さんになるのでなければ、あのとき学んだことのすべてが無意味だったでしょうか。
さあややほまれと友達になりましたね。将来目指すものはそれぞれまるで違うはずなのに。彼女たちと過ごす日々はあなたの思い描く未来にとって無益だったでしょうか。
未来は無限大。なんでもできる、なんでもなれる。
だって、未来は現在から連続しているんですから当然です。あなたのなかにはあなたがまだ気づいていない無数の可能性が眠っているからです。
“子どもっぽくてお茶目なはな”の持つ可能性は“大人っぽいイケてるお姉さんのはな”と無関係ではありません。それらはあなたの思いもよらないかたちで密接につながっています。現在のあなたの全ては、未来のあらゆるあなたにとって一切無駄じゃありません。
だから、あなたは絶対になんでもできる、なんでもなれる。いつかはね。
エール
「さあやちゃん勇気あるよ! だって、誰かに優しくするってすっごく勇気の要ることだもん!」(第2話)
さあやが自分のアスパワワと出会えたとき、彼女の傍にははなの応援がありました。
「ほまれちゃん、私まだよくわかんないけど、でも、負けないで! 負けちゃダメ!」(第4話)
ほまれが自分のアスパワワと出会えたとき、彼女の傍にははなの応援がありました。
では、はなの場合は?
「ここで逃げたらカッコ悪い。そんなの、私のなりたい“野乃はな”じゃない!」(第1話)
あのときはなは自分の応援に励まされていました。目の前に降ってきた巨大なガレキに足をすくませ、怖ろしい怪物の姿に手を震わせながらも、自分にフレフレしてひとりで立ち上がりました。
はなはそういう強い子でした。
さあややほまれはそこまで強くはなれない子たちでした。
前を向くためにはなの応援を必要としました。
自分では信じられなかった輝く未来を、はなが代わりに信じてくれたから、それでやっと彼女たちは輝く未来を抱きしめてプリキュアに変身することができました。
だったら。
自分で自分を応援できるはなですら挫けてしまったのなら。
「はな。大丈夫だよ」
「はな。顔を上げて」
今度ははなに代わって、さあやとほまれがはなの輝く未来を信じてあげればいい。
「何もできないんじゃない」
「何をやるかだよ」
はなが自分には何もできないと思い込んでいたって、そんなの関係ない。何かをしようと思ってくれさえすれば、結果があとからついてきます。
だって、ふたりははなの未来が輝いていることを信じているんですから。
残念ながら今話だけではまだはなを再起させるところまで届きませんでした。
ですが、問題ありません。さあやとほまれがはなの未来を信じてくれるかぎり。
輝く未来を信じてくれる人がいるかぎり、それは事実です。あなたはいつか必ずなんでもできるようになるし、なんにでもなれるようになる。
だって、あなたは彼女たちの言うことなら信じられるでしょう? だったら、それは絶対に事実です。
フレフレ。
その信頼はキレイゴトの夢物語を事実へと変えていきます。
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