前の人に未練たらたらって、私がそういうのに耐えられるメンタルあると思ったら大間違いだよ!
(主観的)あらすじ
いよいよ平常の飛行訓練に合流することになったひそね。けれど飛行隊はいかにもな男社会だし、まそたんはまそたんで何を言いたいのかよくわからないし、ついでに自分も無自覚にケンカを売ってまわるし、相変わらず苦労しています。
そんな日々のなか、ひそねは自分の前任の“フォレスト”という人物の存在を知ります。ちなみにフォレストというのはTACネームです。すでに除隊しているようですが、彼女はひそねと違って隊内でうまく立ち回り、そして何よりまそたんによく懐かれていたようでした。ひそねにとっては特に後者が問題です。ひそねの名前には特に関心を示さないまそたんが、フォレストの名を聞くとまるで飼い主の匂いを嗅ぎつけた仔犬のように熱心に周りを見回すのです。私を選んでくれたのはこの子なのに!
航空祭にかこつけて顔を見せに来たフォレストとまそたんの前で、ひそねは胸のわだかまりを爆発させます。言いたいこと、不満なこと、嫉妬したこと、何でもかんでも好き勝手にぶちまけていると、どういうわけかまそたんはひそねを受け入れてくれました。まそたんの今のパイロットはやっぱりひそねでした。
フォレストから“ヒソネ”というTACネームも賜り、ひそねは上機嫌でまそたんと語らいます。
ものすごくひそねらしいエピソード。あるいはものすごく女の子女の子したエピソード。
まそたんに選んでもらえました。それが嬉しくて、気持ちに応えたいと思いました。けれどそんな関係、まるで亭主関白です。ひそねはそんな受動的で一方的な関係を居心地よく思うほどおしとやかな人間ではありません。ひそねはフツーにメンドクサくて我が強くて自分が誰よりも特別でありたい、今どきの女の子です。いっそ“女の子”ではなく“女子”といった方が感覚的にニュアンスが伝わるか。
ただ甘い言葉で口説かれるだけでは足りません。自分からどんどん相手にぶつかっていって、本当に自分だけが特別なんだという実感をつかまないと。ええい、メンドクサイやつ! 夫婦ゲンカは犬も食わねえ!
今、他の女のコト見てたでしょ
「そういうの、新入りへの洗礼のつもりなんでしょうけど、セクハラ入っちゃってるのはどうかと思います!」
気がつけば第1話の頃とは打って変わって、放言癖を自重することがほとんどなくなりました。ちょっと頭に血が上ったらサクッと吐き出すスタイルに変わりました。そのくせクライマックスの長広舌だけはちっとも短くも狭くもなっていないのだけれど。
なかなか大したダメっ子ぶりですが、これも多少はひそねが“特別な自分”として自信をつけてきた証拠。この私ならこのくらい許してもらえるだろうという安心感が彼女の口をゆるゆるに開かせます。
第2話みたいに増長丸出しなことは言っていないから許せ。
「そっか。私が正規のDパイになってしまったから。補欠として輝ける場所を見つけた名緒さん、尊敬します!」
※ ただし名緒相手の場合を除く。
正規だとか補欠だとか以前に、機密しか扱っていないOTF飛行班じゃ航空祭に出展できるネタがないって言ってんだろ。他人事だと思ってないでお前も何か探せ。(当日になって機動飛行を披露することにはなったけれど)
けれどその自信はあくまで自分だけがまそたんに選んでもらえたという特別感に由来するもので。
「森山さん。フォレスト。甘粕。・・・ほ、ほう」
自分よりももっと特別な人物がいるという事実は、ひそねの高々と伸ばした鼻っ柱を根元からポッキリ折られかねない一大事なのであります。
なまじ他の人はろくに興味を示さないからなおさらね。
自分のパートナーだけが未練たらたらだと腹立つよね。
「ホント誰なんだろ。森山さんって」
そいつはそんなにイイ女なのか。(ちょっと違う)
私のことなんてどうでもいいんだ
「オスカー! うはは、ひっさしぶりー! 元気してたー?」
件の元カノ(だから違う)はオバさんでした。
ふくよかで、遠慮がなくて、賑やかで、そりゃあもうどこからどう見ても超オバさんでした。女を捨てた女以上の女の敵はいません。どこをどうしたらコイツに勝ったことになるのか皆目見当がつきません。
「この子、今日みたいに人が大勢いると機嫌損ねるでしょ? さっきも8格から鳴き声聞こえてさー」
そのくせちゃっかり深い仲だった証拠だけは次々並べてきやがる。
どうしようもなくてハラワタが煮えくりかえります。おのれ。
「・・・えてください。飲み込んでもらう方法、知ってるなら教えてください!」
「直属の先輩として私に教える義務があるはずです!」
ないけどね。除隊してるし。
けど噛みつかずにはいられません。まそたんがかわいいドラゴンだからそういう絵面に見えないだけで、これはもうドロドロの三角関係です。昼ドラ展開です。寝取り寝取られのサツバツバトル開始です。
まあ、ちんちくりんがひとりだけ暴走しているって意味では昼ドラは昼ドラでもコメディものの空気ですけどね。(どっちだよ)
「まそたんもまそたんだよ! おとうふはダメなのにオスカーはいいっていうのか!」
おとうふと呼ばれるのを嫌がっていた印象はありませんが。
「だいたい尾長さんの機体のことだって、あのときもうちょっとわかりやすく教えてくれれば対処のしようが・・・」
ついさっきまで理解してあげられなかった自分の方に負い目に感じていたはずですが。
ですが、そんな些末な事実は今のひそねにとってどうでもいいことです。重要なのはただひとつ。
このヤロウは私よりもオバさんを選びやがった!
私だけを選んでくれていたと思っていたのに!
そう思ったからこそ私もその気になってあげたのに!
フォレスト > ひそね >>>>> 名緒さんってことか! コンチクショウ!
私のこと全然わかってないよね
こういうときの男性のリアクションはだいたいいつもワンパターンです。
「ギャッ! なんで!?」
「なんでだろうねー」
とりあえず抱きしめたら解決すると思ってる。
でも実際、ある程度は解決しちゃう。
だって今ひそねが一番欲しいものは、まそたんにとっての“特別”は自分なんだという、確かな手応えなんですから。
けど全部は納得してあげません。
どうして自分が“特別”なのかを証明してくれるまでは納得してあげません。
具体的に何を求めているのかといえば、自分がまそたんのために何をしてあげられるのかって話ですよ。
まそたんはひそねを選びました。
OTFはDパイがいなければ空を飛べないからです。
ですが誰でもいいわけではありません。
まそたんは先任の名緒ではなく、あえてえり好みしてひそねを選んでくれました。
けれど実際はひそね以外にも、フォレストでもよかったというのです。
ならば、ひそねが“特別”であるためには、単に空を飛べるだけでは足りません。そんなのフォレストにもできていたことです。そういえば前話も名緒と一緒に飛んでいました。ひそねがお願いしたことだけど。
飛べるだけではひそねは“自分にしかできない何か”を見つけることができません。
もっと何か欲しい。
薄ぼんやりしたハグだけではなく、もっと、自分がいるからこそふたりで成せる何かが。
ひそねの感情の大爆発は続きます。
「森山さんだったらいいの!? フォレストとなら飛べる!? 前の人に未練たらたらって、私がそういうのに耐えられるメンタルあると思ったら大間違いだよ! こんなマジレッサーで人に迷惑ばっかりかける人間を“君が”選んだんでしょ! 『やります』って言っちゃったんだから責任取ってよ! そりゃまそたんが取れる責任って何だって話だからどうでもいいんだろうけど、ホントにそれでいいの!?」
どこからツッコめばいいのやら。とりあえずひそねに浮気を許す器量があるとはまそたんも思っていまい。この子第1話から今まで徹頭徹尾自分の都合しか言ってねえ。
けれど、そうとも。
まそたんはひそねを選びました。でもひそねがDパイになったのは、ひそねが自分の意志でその思いに応えたからです。
まそたんがひそねを選んだように、ひそねもまそたんを選んでくれたんです。
ひそねは昭和のガンコ親父の3歩後ろを楚々としてついて歩くような、そんなおしとやかな人間ではありません。もっとメンドクサくて我が強くて特別になりたい、今どきの女の子です。
だから、これからもパートナーを気取るつもりなら、まそたんの方にも一定の努力が必要になるはずです。自分の都合だけではなく、ひそねの都合も叶えてやるために。
「まそたんはいいのかもしれないけど、私がどうなるか想像してみて! このままみんなの前へすごすご帰って私がどんな顔しなきゃいけないか想像してみて!」
それは徹頭徹尾ひそねの個人的な都合。道理も理屈も関係なく、説得にすらなっておらず、ひたすらワガママだけをぶちまけてばかりです。
けれど、そうとも。
まそたんはひそねを選びました。選んだ以上は、そうとも。
「イヤでしょ!?」
イヤです。自分にとって“特別”な人が悲しい顔をするのは。そんなの誰だってイヤです。
だから、特別なあなたのためならば、道理も理屈も蹴っ飛ばして、説得されてしまいます。ワガママでも何でも聞いてやろうという気になってしまいます。
まそたんは元来臆病者の引きこもりです。衆目にさらされるのが苦手で、ずっと岐阜基地のプールのなかに隠れて暮らしてきました。
けれど、ひそねがお願いするなら話は別です。
そんな自分の弱気をぶっとばしてでも、まそたんは飛ばなければなりません。本来の自分にはできないことだって、自分にしかできないというなら、やらなければならないというのなら、やるしかありません。
自分の都合よりも優先されるべき“特別”な人の願いならば。
「だからお願い、まそたん! 飛んでくれー!!」
このフライトは紛れもなくひそねの“自分にしかできない何か”。
そしてまそたんにとっても“自分にしかできない何か”でした。
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