ひそねとまそたん 第6話感想 少女の白を侵食せんとする、その無垢なる毒よ。

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心が躍った。胸が高鳴って、パイロットにこだわっていた自分を忘れるくらい、ただ、楽しかった。

(主観的)あらすじ

 すっかりサバイバル生活に親しんでいるひそねたちを尻目に、星野はひとり黙々とイカダでの脱出に挑みます。それはあまりに無謀で、OTFにも優しくなくて、ひそねたちにはどうしても正しいこととは思えないのだけれど。それでもどうしてか、彼女のことがかわいそうに思えてしまうのでした。
 嵐の夜、とある事故で身動きが取れなくなった星野は、彼女のOTFが鳴り響かせるアフターバーナーの轟音によって命を救われます。その代償として今度はOTFの方が命の危機に瀕することになるのですが・・・、OTFへの愛に目覚めた星野のおかげで彼は一命を取り留めるのでした。ふたりはようやくパートナーになれたのでした。
 今回の訓練の目的は全て達成。ひそねたちは笑顔で基地に帰投します。

 ええい、主人公を素直に信頼させてくれないタイプの物語はこれだから! そのままならなさが面白いのだけれど!
 斯くして星野はOTFへの愛に目覚め、ひそねたちも友情を深めて大団円を迎えます。爽やかに。健やかに。既定路線で。明らかにヤバげな方向へ突き進みつつ。・・・助けてジョアおばさん。助けて乳酸菌シロタ株。キウイを皮ごと食べるのはニュージーランド流の食べ方だそうですが、ぶっちゃけあのお毛々な皮は人間の胃液で溶けないので腸閉塞のリスクがあるそうです。お医者さん的には非推奨だと聞きました。

私がここにいる意味

 「バカげてる! 私はOTFの世話をするために空自に入ったんじゃない!」
 「Dパイに満足している君たちにはわからないだろう。女がファイターパイロットを目指すのがどういうことなのか」
 「それでもがんばってこれたのは、絶対にF-2パイロットになるって思いがあったからだ」
 「どうしてなんだ! 必死にやってきたのに、どうしてコイツなんだ!」
 「私は! 本物のF-2に! 乗りたかったんだ!!」

 ああ――。
 別に好きなタイプのキャラでもないのにどうしてこんなに星野のことが気になるのか、やっとわかった気がします。
 彼女は、最初の頃のひそねに似ていたんですね。
 ご丁寧に第1話を連想させる高校卒業のカットなんぞ見せよってからに。

 別にね、ひそねは星野のように意識高い系ではなかったですよ。
 彼女のように努力家だったわけでも。
 まして彼女のように明確な夢を持ってるわけでもありませんでした。
 ただ――
 「自分にしかできない何か。私にしかできないもの・・・なんて」(第1話)
 道理を圧してまで我が身を突き動かす、どうしようもない衝動だけがありました。
 愛国心に燃えていたわけでもミリタリ趣味があったわけでもなく、ただ、広い空を飛びまわる飛行機を見上げて、たったそれだけの理由から、自衛隊員というちょっと変わった進路に飛び込みました。
 自分にしかできない何かがどこかにあるものならやってみたいと、淡い憧れだけを胸に抱いて。
 ひそねという少女は、たったそれだけの曖昧な気持ちで自分を変えるための行動をとれる心性の持ち主でした。

 子どものころに見上げたF-2への憧れひとつでファーストペンギンを志すことができた星野は、なるほど、そういうところがひそねそっくり。

 イカダづくり。
 同僚との協調を放棄して。
 与えられたパートナーもガン無視して。
 手のひらに痛々しいマメをたくさんこしらえて。
 成功率度外視でわざわざ嵐の海にこぎ出す大バカ者で。

 明らかになにもかも間違えていて、明らかになにもかもいけ好かなくて、けれどその根底に強い願いがあることだけは伝わってくるからこそ、私は彼女のことを好きになったのかもしれません。
 「どうしてかな。星野さんのことも、なんだかかわいそうに見えるんだ」

 「私たち、少しは親しくなれたんじゃないかなって。そろそろ名字呼びから脱却してもいいんじゃないかなって」
 「TACネーム呼びはやめてください。仕事とプライベートは分けたい派なので。リリコスと呼んでください」

 ひそねたちは――かつて自分がどんな思いでまそたんたちのパートナーになることを選んだのか、覚えているでしょうか。
 大好きな彼らの傍にいる居心地の良さに溺れて、自分がどんな人間だったか、何者になりたかったのかを、忘れてしまってはいないでしょうか。
 ・・・だからさ、むしろ今こそまさに仕事中なんですってば。

精神の自由

 「そっかあ。だからケンさん、ずっと戦闘機の姿のままなんですね。ケンさんは星野さんの『ファーストペンギンになりたい』って思いに応えたいんですよ。だからこそずーっと戦闘機のままでいるんです」
 そんな理屈の種明かしによって、まあ、星野は絆されるわけです。
 なんでこう、珍しく私の予想が当たったときに限って、そのもたらす結果が私にとって嬉しくない方向へと進んでしまうのか。(考察がヌルいからです)

 そこにはたしかに絆がありました。白い恋人を娶るにふさわしく、OTFなる存在はどうやら誠意と愛情にあふれる素晴らしい殿方なのだと思います。彼らに裏の表情があるとは考えられませんし、考えたくありません。彼らはかわいらしく、しかも逞しい。私は彼らの善性たることを信じます。
 飯干事務次官が不穏な企みごとをするような何かがあるとしたら、その所在は彼らと人間との間に結ばれた古い契約の方にこそあるのでしょう。
 星野が自分のパートナーに「ノーマ」と呼びかける姿は感動的ですし、それに応えて自由な空(あるいは海)を舞う彼の飛翔はただただ美しいばかり。本当にステキなパートナーシップだと、うらやましくすら思います。

 ただ。
 「はじめてノーマに飲み込まれて飛んだとき、最初は戸惑った。だけど――心が躍った。胸が高鳴って、パイロットにこだわっていた自分を忘れるくらい、ただ、楽しかった」
 ただ、彼女にそういうことだけは言ってほしくなかったなと。
 そういうところだけは受け入れてほしくなかったなと、どうしても悲しく思うのです。
 彼女にとってパートナーを受け入れることがどんなに安息を得られるものか、その表情を見ているだけで痛いほど伝わってくるだけに。なおさらに。

 「つまり“白い恋人”とは、心に白を、空白を持つ少女のこと」
 「適性テストでしたかな。“自分を好きになれない”、“不完全だと思っている”」
(第5話)
 今の自分に満足できないからこそ、彼女は努力に努力を重ね、遠い夢を追い求めて、結果としてこうして彼にも出会えたのだというのに。
 彼の方も彼女のそういうところを気に入って、最大限に心を砕いてくれていた様子だったのに。

 「OTFはパイロットに求めるのです。身体の自由を手放す代わりに、精神の自由を差し出せと」(第5話)
 なのにどうして、彼女の最も彼女らしいところ――夢。こだわり。“自分にしかできない何か”。――そういった大切なものを、彼女は忘れてしまわねばならないのでしょうか。

 「そうだ。君はF-2じゃない。こんな私でもまだ飛んでくれるのか。ありがとう、ノーマ」
 それは、本当に星野が胸に抱いていた夢だったでしょうか。
 自分がファーストペンギンとなって空を飛ぶのではなく、自分を愛してくれるパートナーが自分の代わりにがんばってくれることに身を委ねることが。

 「彼とひとつとなり、彼とともに飛ぶ。それだけが私の生まれてきた意味」
 そんなバカげた話があるものか。
 この物語の出発点はもっと別のところにあったはずです。
 「自分にしかできない何か。私にしかできないもの・・・なんて」(1話)
 自分を好きになれずにいた少女たちは、だからこそ好きになれる自分に変わろうとして、彼らと出会う日まで懸命にもがいてきたはずなのに。

 その辛苦を取り除いて、その渇望を取り除いて、勝手に出発点をねじ曲げるな。

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