ひそねとまそたん 第7話感想 愛と自由で私らしさの方程式。

この記事は約9分で読めます。
スポンサーリンク

まそたんのおかげで友達ができて、いろんなことがあって、毎日楽しいんだ。

(主観的)あらすじ

 HISONE und MASOTAN もっとらぶらぶ作戦です! 平たくいうと、Dパイたちにいっぺんこっぴどく失恋させるよう仕向けて全員ヤンデレ化してしまおうという話ですハイ。秘密作戦の詳細を聞かされた現場の士気はダダ下がりですが、これも国家のため、大義のためです。巫女は竜のためだけの白い恋人であらねばならぬ。
 とりあえずホレタハレタに無縁そうな絹番をスパイに仕立てて、改めて彼女たちの身辺を観察してみると、まあ何か起きそうで起きなさそうで起きなさそうな雰囲気。なまじ凪が過ぎるがゆえに波立てようにも棹差さりそうな流れが見つかりません。どうしろと。
 唯一お膳立てに成功したひそね-小此木ペアもまた、恋人になる以前にお互い友達になることをこそ望んでしまい。元より自己不信だからこそDパイに選ばれた少女たちです。そういう人間がもともと他人とマトモな人間関係を構築できていたはずもなく、今回の作戦はむしろひそねの人間性を健全化させる結果にしかならないのでした。

 我ながら辛辣な筆調のあらすじだと思いますが、まあ、どう考えても悪手ですよねこの作戦。絹番に恋への興味を持たせてしまうことでミイラ取りがミイラになる展開すらありえたと思います。まあ実際には色恋の片鱗に触れる機会すらなかったわけですが。(星野と財投の距離感すら知覚できないアンテナ感度ですし)
 せめてスパイ役を名緒にやらせるべきだったんですよ。ごらんなさい、サバイバル訓練でハブにされていたにも関わらず、呑みの席ではなぜかナチュラルに真ん中に座らされている彼女の人間力を。星野の件とか日登美の件とか、その場に居合わせた人間次第でいくらかはテコ入れも利いたでしょうに。もったいない。飯干事務次官殿は現場というものを(ひそねたちのアレさを)正しく認識できていらっしゃらないようですな。

白い恋人ブラック

 ちなみに「黒い恋人」は(株)札幌グルメフーズの製品で、トウキビのパフと黒豆が練り込まれたチョコレートバーです。有名な石屋製菓(株)のホワイトチョコレートのラングドシャサンドとは外見からなにからまったくの別物なのでお買い間違いなきよう。あっちはあっちでおいしいんですけどね。
 「白い恋人」のミルクチョコレートバージョンは「白い恋人ブラック」という、もっとキテレツな名称だったりします。(どうでもいい)

 「然り。恋は少女たちを盲目に、OTFへの依存を失わせる。それを防ぐためにはむしろ荒療治が必要なのです。恋を排除し、OTFへの愛だけを純化させる。そう。白い恋人を、黒く染める」
 アホかと。  

 「白い恋人。自分に自信が持てず、心に漠然とした空白を抱く少女。そんな少女が、OTFと共生しているときだけ自身に存在価値を見出す。『自分にはOTFしかいない』――依存という精神状態でこそOTFと真につながりあうことができる」
 「ですが今までのDパイはことごとく躓いてきました。主に」
 「色恋ざただねぇ」

 ここまで分析できていてどうしてそういう対策に行き着くのか。

 そうですね。たしかに新しい恋の芽生えは依存癖を緩和することがあるものです。
 それまで依存対象にしかぶつけられなかった情動を、他のチャンネルにも流すことができるようになるから。欲求不満を充足させる手段が1つから2つに増えるから。

 別にね。人間なんてものは新しい恋を見つけたからって即座に既存の恋人への愛情を失うものではないんですよ。そこまで一途な生きものじゃないです。じゃなきゃ何年もバレずに浮気していられる人間がいるものか。じゃなきゃ二股とか三股とかできる人間がいるものか。ねえ。
 もっと極論を言うなら、もし同時にひとりの人しか愛せないとしたら、友達を10人とか100人とかつくれるわけがないでしょうよ。友情と愛情って、そんなに明確に区別できるものですかね?
 「オスカー! うはは、ひっさしぶりー! 元気してたー?」(第3話)
 たとえばフォレストとまそたんだって、フォレストに夫ができて、まそたんにひそねがついていてなお、友人としては今も関係良好じゃないですか。

 前提が間違っているんです。
 恋は依存心を失わせるのではありません。新しい人間関係を増やすことで、結果として1関係性あたりの依存を希釈するだけです。
 おわかりでしょうか。
 もしある人間の特定の相手への依存心だけを固着したいと考えるなら、それは恋への失望を仕組むだけでは達成されません。まして既存の人間関係にテコ入れしようだなんて愚の骨頂。

 「リリコスが誘ってくれるなんて珍しいですね! 星野さんも来てくれて嬉しいねえひとみん」
 「華の舞もそうなんですけど、友達と一緒に過ごす経験今までなくって。無人島での訓練もなんだかキャンプみたいで楽しかったんです」
 「ただそれだけで毎日がこんなにキラキラするんだなあって、なんだか不思議で。泣けてきちゃったんです」

 それは、ただひたすらに善いものなんです。誰かと1対1の重たいつながりひとつに寄りかかるのではなく、たくさんの人との軽やかなつながりに身を置くのって。大変なこともありますし、メンドクサイこともありますし、なにより自分というものを確立しないと自分がどこにいるのか見失っちゃうこともあるのですが。
 でも、それはたったひとりに全体重を預けて依存するよりか、心が軽くなるものなんです。

 だから、たとえ後で失望させるのが目的であったとしても、今の人間関係を維持したまま新しい人間関係を構築するのでは、依存心の固着は絶対に達成されません。
 それでは一時的にでも依存対象を1人から2人以上に増やすことになり、軽やかな心の在り方を学ばせてしまいます。依存するよりももっと居心地のいい環境があることを教えてしまいます。

 やるならね。むしろ逆に、悪評でもバラまいて基地内で完全に孤立させて、ついでに短期的にOTFとの接触もシャットアウトして、依存対象0人の恐怖を心に植え付けたほうがいいのよね。そうすれば0人よりずっと楽な、1人との関係性にだけしがみつくようになるから。(黒)
 1→2→1ではなく、1→0→1の方が、1の価値はより骨身に染みる。(ドス黒)

どうかその人生があなたにしかできないものでありますように

 「決まったレールがあったから、自分が本当にやりたいこととか考えることもなかった」
 プラス
 「小此木さんは、すごくまそたん好きじゃないですか!」
 イコール。

 「課せられた使命と自らの意志のふたつが混ざりあって、ここに小此木・・・ええっと、お名前・・・? ――ここに小此木榛人が爆誕した!」

 ああ・・・すっごいひそねらしい、ステキな考え方。
 これは横着者の発想です。
 自分にしかできないことがはじめから目の前にあって、しかもそれに立派に満足できるなんて、なんて幸せなことなんでしょう。
 自力で探す方が偉いなんて考え方もありますが、そんなの非合理を尊ぶハングリー信仰です。探す人は探す必要があるから探しているだけです。探すこと自体を目的として探したがる人なんてまずいません。探さなくて済むならむしろその方が幸せは増すはず。

 「自分にしかできない何か。私にしかできないもの・・・なんて」(第1話)
 ひそねは自分にしかできない何かを求めて航空自衛隊に入隊しました。
 そのくらい突き抜けた行動をしなければ、自分の探しものは見つからないと考えたからです。そのくらい、平凡な日常に生きる平凡な自分に無力感を感じていたからです。

 それに比べたら、小此木のなんと恵まれていることか。まるで生まれついてのヒーローみたいです。
 ここで嫉妬には転化しないあたりがまた、根っから自己中心的思考なひそねらしいところですね。良くも悪くもゴーイングマイウェイで他人への興味が薄い。

 ひそねにしてみればその程度のことでしかありません。
 ただ、いつものように思ったことを口さがなくマジレスしただけ。
 けれどたったこれだけで彼女の生き方はまた少し好転しました。
 小此木は彼女に感謝し、彼女との友情を深めました。
 ひそねをひそねとして認めてくれる人が、まそたんの他にひとり増えました。

 このとき小此木に言ってあげられた言葉は、きっと世界でただひとりきっと世界でただこの瞬間、ひそねにしか口にする機会を与えられない、“ひそねにしかできない何か”でした。

 「ああ、クソ! 絵留ちゃんマジかっこいいわ! チクショウ、負けてらんねえ」
 「うーん、おいしそうに食べますねえ。フトモモみたい。ちょっと撫でてもいいですか?」

 その偶然誰かに与えられた好印象は、きっとOTFにだけ依存していては得られなかったもので、そしてきっとそれらも“あなたにしかできない何か”でした。

 「だから、悩みながらもそれを見つけた甘粕さんは――」
 心が空虚だという少女たちは、その空虚さ、それを埋めたいと願う渇望ゆえに、他人とはどこか違う視点や行動力を持っています。自力で探し求めることに大した価値はないかもしれませんが、しかしそれができるあなたという人物は魅力的です。
 たとえそれ以外にどれほどのダメダメを積み上げていたとしても、あなただけが持つ魅力は、それでも、ちゃんとそこにありました。

 「やっぱさ、自分にしかできないって何か? 探したいじゃん」
 「あんた美大志望だっけ? いいなー目標見えてて」
 「4年間で見つかるといいんだけどさ、まだ何していいかわかんないし」
 「大丈夫! 目標なんてどんなところにだってあるって。すべては自分次第っていうか?」
(第1話)

 あなたたちがOTFに求めている“何か”は、むしろたくさんの人とのつながりのなかにこそあります。
 それは本来どこにでもあるもので、けれど平凡な人間には相当がんばらなければなかなか見つからないもので、けれど見つけてみれば、それは案外身近なところにあったりもするものです。ブルーバード。まそたんと同じ色をしていて、まそたんみたいに翼で空を飛ぶソレは。

 だから歴代のDパイたちはみんな中途で脱落していったのだと思います。
 まそたんたちに愛されることで自信をつけて、その調子で他の人との関係性に飛び込んでみたら自分の本当に求めていたものが見つかって、だから。
 だからフォレストも、まそたんに選ばれなくなってからもなお彼のことを好きでいられるんだと思います。彼らは、すごく優しくて、大きいから。

 「お任せください。必ず、最後に愛は勝ちますので」
 ええ。今日ひそねたちが幸せな気持ちになれたのは、たしかにまそたんたちに愛されたおかげでした。大きな愛を受けながら、それでも自由であることを認めてもらえていたからでした。
 「まそたんのおかげで友達ができて、いろんなことがあって、毎日楽しいんだ。ありがとね、まそたん」
 どうかその心が、青空をまっすぐ飛んでいく飛行機のように、いつまでもいつまでも自由でありますように。

 それにしてもアレですね。
 前回あれだけひそねたちを束縛する方向に誘導していた飯干事務次官が、今回は逆に依存からの解放を促すことになってしまうなんて。少なくともひそねの件は確実にあのしょうもない命令のおかげですよ。
 ずっとそのままのウカツなあなたでいてください。(煽り)

よろしければ感想を聞かせてください

    記事の長さはどうでしたか?

    文章は読みやすかったですか?

    当てはまるものを選んでください。

    コメント

    スポンサーリンク
    タイトルとURLをコピーしました