プリキュアはなぜ変身するのか? 『Yes!プリキュア5』の場合。

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大いなる希望の力! キュアドリーム!
情熱の赤い炎! キュアルージュ!
はじけるレモンの香り! キュアレモネード!
安らぎの緑の大地! キュアミント!
知性の青き泉! キュアアクア!
青いバラは秘密の印! ミルキィローズ!

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このブログはあなたが視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

 有り体にいえば前作『ふたりはプリキュア Splash Star』はマンネリ感が付きまとった影響か、当時としては商業的に順調とはいえませんでした。単体で観ればとてもいい作品なんですけどね。けれど、そういうわけでプリキュアシリーズはここで一旦立て直しを講じる必要に迫られます。
 その結果生まれたのが、本作『Yes!プリキュア5』。プリキュアの大きな特徴のひとつでもあった“ふたり”という人数に縛られず、そしてバディじゃなくなったがゆえに同時変身はやりにくくなり、それぞれ単独変身するようになりました。
 この個別に変身するというスタイルにより、前作ではふたりでひとつの変身する動機があればよかったところ、今作からプリキュアひとりひとりに個別の動機が求められるようになりました。これは本作においてはそこまで意味のある話でもないのですが、後のシリーズにおいてはきわめて重要な意味を持ちます。作品全体のテーマとは別にプリキュアひとりひとりにも個別のテーマを持たせる、プリキュアシリーズ独特の重層的な作劇スタイルを確立することになるんです。

 本作でプリキュアとなる少女たちはみんな“夢”というものを大切にします。お互いの夢を敬愛し、お互いの夢を守りあう互助的な関係が本作のプリキュア像です。夢は友情を深めるきっかけであり、そして夢こそが友情を信じるための強力な根拠でもある、といった感じで描かれます。

夢原のぞみ / キュアドリーム

「夢はとっても大事なものなんだよ。自分がボロボロになっても叶えたい大切なものなんだよ。それをバカにするなんて最低! だから絶対渡さない!」(第1話)

 “夢”が重要な物語でありながら、主人公であるのぞみは自分の夢を持ちません。勉強もスポーツもダメで、どんなことなら自分にもできるのかうまくイメージできなかったからです。しかし、持てずにいるからこそ、彼女は夢というものに人一倍強く憧れています。
 彼女は妖精のココと出会い、彼が“王国再建”というとても立派な夢を持っていることを知りました。彼の夢を守り、一緒に夢を叶えるお手伝いをするために、のぞみは変身します。

 のぞみといえば、歴代の主人公のなかでもひときわ仲間に信頼され、仲間をリードしていった強力なカリスマとしてよく語られていますね。これも彼女の夢を大切に思う性質によるものです。彼女はココだけでなく、すべての人の夢を守るために奮闘しました。そんな彼女の姿に周りの人々も憧れていくんです。
 今思えば彼女はプリキュアとして少々異質な、むしろトラディショナルなヒーロー像に近いキャラクターだったのかもしれません。

夏木りん / キュアルージュ

「怖いよ。こんなの怖いに決まってるじゃない。でも――。でも、本当に怖いのは、本当に怖いのは――のぞみがいなくなること!」(第2話)

 のぞみの幼馴染みであるりんは、のぞみとは対照的に夢見る機会に恵まれた子でした。彼女はスポーツの才能に恵まれ、家業の花屋をよく手伝い、おまけにアクセサリづくりにも強い関心がありました。彼女は様々な夢を抱くことができました。
 けれどその一方で、彼女には少々臆病なところがありました。ドジの多いのぞみを励ましながら、自分の方ものぞみの芯の強さに守られ、いつものぞみを必要としていました。
 りんはのぞみほど誰かの夢を守るための強い動機を持ちません。けれど、みんなの夢を守ろうとするのぞみを助けるためになら、彼女にもプリキュアに変身できるだけの強い思いがありました。彼女は自分の夢を守るためにのぞみと協力する必要がありました。

春日野うらら / キュアレモネード

(回想)「すごいね、うららちゃんは。小さいころから夢があったんだ」「そうだ、うららちゃん。聞きたいことがあるんだよね」「うららちゃん早く早く!」「ひとりじゃないよ。だって私たち、もう友達じゃない!」
「のぞみさん! ・・・のぞみさん。のぞみさん! ――やめて!! のぞみさんを、みんなを放して!」
(第3話)

 うららは女優になる夢を叶えるため、すでに活動をはじめている子でした。けれど芸能活動が忙しくて学校ではうまく友達をつくれずにいました。彼女は夢のためなら仕方ない、と諦めていたのですが、そこにのぞみが現れました。
 のぞみはうららの友達になってくれました。そのうえでうららの夢をすごいと褒めてもくれました。
 だからうららは変身します。孤独な自分を救ってくれた、のぞみを助けるために。

 完全に余談になりますが、キュアレモネードといえば「あざとい」の話を避けては通れませんね。放送当時、実は私はまだプリキュアに興味を持っていなかったのですが、そんな私にすら彼女の評判は良く聞こえていました。
 保護欲をくすぐる外見。健気なだけじゃなくとぼけたところもあるキャラクター。異様に出来がいい変身バンク。そして「はじけるレモンの香り!」というよくわからない口上。彼女が登場したこの年、「あざとい」という日本語に新たな語義が発生しました。「あざとい」といえば“かわいい”。「あざとい」といえば“黄色”。少なくともアニメオタクたちの間ではそういうことになりました。昔は黄色といえば力持ちのカレー好きだったのにね。
 以降、プリキュアシリーズとしてもキュアパイン、キュアサンシャイン、キュアミューズ、キュアピースなど、何年にもわたって「あざとい」の可能性を追求していくことになります。(余談長いな)

秋元こまち / キュアミント

「夢原さんは私の夢を笑わずに聞いてくれた。応援すると言ってくれた。私も、彼女の夢を応援したい!」(第4話)

 こまちは読書好きが高じて自分でも小説を書くようになった子でした。けれどなかなか評価されず、小説家になることは諦めた方がいいかもしれないと悩んでいました。
 それを、のぞみは熱っぽい語気で応援してくれました。こまちにとってそれはとても元気の湧くことでした。そののぞみの今やりたいことがプリキュアとしてココの夢を叶えることだったので、今度はこまちの方からも彼女を手伝ってあげたいという気持ちが湧きあがるのでした。

 この出会いは他のプリキュアの仲間や、同じ読書家であり評論の適性もあったナッツとの出会いにつながり、やがてこまちの夢を大成させていくことになります。

水無月かれん / キュアアクア

「力なんか無くったって、みんなを助けたいと思う気持ちは私も同じだから。それに、みんなといるととっても楽しいの。プリキュアになれなくてもみんなと一緒にいたい。みんなの力になりたいの!」(第6話)

 かれんは抑制的な子でした。忙しく世界を飛び回る両親に気を使って、幼いころから我慢することに慣れてしまっていました。その性向は中学生になっても変わらず、最も近しい人ですら数年来彼女の心からの笑顔を見ていませんでした。
 かれんはプリキュア史上でも数少ない、初変身に失敗したプリキュアです。彼女は「私がやらなきゃダメみたい」と、諦めにも似た義務感から変身しようとしますが、プリキュアの力に拒絶されてしまいます。本作におけるプリキュアの力の源は“夢”です。心から願わなければプリキュアになることはできないんです。

 彼女はこの事件を理由にプリキュアになることを諦め、せっかく仲よくなりかけていたのぞみたちとも距離を置こうとします。けれど、のぞみの方は諦めませんでした。なれる、なれないではなく、なってほしいという一心で、かれんに声をかけつづけました。
 本当はのぞみたちと一緒にいたいと思っていたのはかれんも同じ。かれんが自分のなかの思いに素直になったとき、今度こそ変身は成功します。彼女にとっての“夢”とはそんなにもささやかで、なのに自分ではどうしても得がたいものだったわけです。

復帰

「シロップは私の手紙がとっても大切なものだって信じてくれた。だから私もシロップのこと、信じるよ! ――あなたはローズパクトを手に入れるためなら平気でシロップを傷つけるような人よ。自分のワガママで人を傷つけるなんて絶対に許さない! 私たちはキュアローズガーデンに行くって決めたの! フローラさんと約束したんだもん!」GoGo!第1話)

 ひとつの戦いが終わったあと、のぞみたちはプリキュアの力を一度返却しました。けれど目の前に助けを必要とする人が現れたとき、彼女たちは新たな力を得て再びプリキュアに変身します。
 有り体にいえば『ふたりはプリキュア Max Heart』のときと同様、物語のテーマが少しシフトしたんですね。物語の重心を以前より友情や絆に寄せて、新しく「約束」というキーワードを据えるようになりました。

美々野くるみ / ミルキィローズ

「大切なものほど失いやすいのよ。本当に大切に思うなら、自分でしっかり守らなくてはダメよ」(GoGo!第10話)
「さっきプリキュアが言ってたとおり、力は強い者のところに集まるのではないわ。力というのは、たくさんの思いや願いから生まれるものなの!」
(GoGo!第11話)

 くるみは青いバラから不思議な力を授かって変身できるようになりました。初変身に至るまでの経緯はざっくりとしか語られません。ただ、彼女は力を授かるずっと前から、もし強くなれたら何をしたいのか心に決めていました。
 彼女は元々ココとナッツに仕えるお世話役見習いでした。彼女は仕える主たちを心から敬愛していましたが、自分がまだまだ未熟なうえ、そもそもココたちが自立した人物だったため、なかなか思うように役目を果たせずにいました。
 だから、力を得た彼女は真っ先にココたちの元へ向かいます。今度こそ彼らの助けとなるために。

 ちなみにこの子、登場したばかりのころはのぞみやココたちにすら正体を隠そうとしていました。それは生来のお調子者な性格によるところが大きかったんですが、それを抜きにしても、やっぱり嬉しかったんでしょうね。ずっと願いつづけてきた夢が叶ったようなものですから。はしゃいでいたんでしょうね。
 いい笑顔で笑うんですよ、この子。晴れ晴れとした感じだったり、やたら邪悪だったり。

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