プリキュアはなぜ変身するのか? 『フレッシュプリキュア!』の場合。

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ピンクのハートは愛ある印! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!
ブルーのハートは希望の印! 摘みたてフレッシュ! キュアベリー!
イエローハートは祈りの印! 取れたてフレッシュ! キュアパイン!
真っ赤なハートは幸せの印! 熟れたてフレッシュ! キュアパッション!

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このブログはあなたがこの作品を視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

 この時期、プリキュアの生みの親である鷲尾プロデューサーをはじめとして、プリキュア製作スタッフが大きく入れ替わりました。梅澤プロデューサーのもとで一新された制作陣の第1作目が、本作『フレッシュプリキュア!』となります。
 新たな製作体制のもと、本作はプリキュアシリーズ初の試みを多数盛り込まれることになりました。それらはおおむね好評を博し、そのうちのいくつかは現在にも続く新たな伝統としてシリーズに刻まれることになります。
 たとえば敵を許し、救済する物語。中盤で新たなプリキュアが加入する展開。1年間で完結することを前提とした統一感あるストーリー展開。――などなど。

 本作は「本当の幸せ」をテーマに描かれます。
 幸せとは何か。人の幸せとはどこにあるのか。そういう素朴な問いに、たとえば人類史上最大のベストセラーを著した先人は「いついかなるときも愛と希望と祈りの3つは人とともにありつづける」と説いたそうです。そしてそれらを大切に守りつづけた先に幸せがあると。
 ありふれた三つ葉のクローバーに葉っぱをもうひとつ増やすと、花言葉は「幸せ」。

桃園ラブ / キュアピーチ

「あなたファンの子? どうしてこんなに必死になって私を助けてくれるの?」
「だって、ミユキさんのダンスがもう一度見たいからです!」
(第1話)

 前作の夢原のぞみは、自分で持てずにいた夢というものに憧れる気持ちから出発し、みんなの夢を守りたいという願いに行き着きました。本作の主人公である桃園ラブの考え方も一見彼女とよく似ているようにみえますが、その実、ちょっと違うところを志向しています。
 ラブが他人を助けようとするのは、それが自分自身の幸せにもつながると信じているからです。
 彼女は日常のなかに隠れた小さな幸せを見つける天才です。ちょっとした親切を受けては幸せを感じ、誰かが笑顔になれば幸せを受け取り、誰かに憧れては胸の内に幸せな気持ちを湧きあがらせる。そういう子です。
 周りのみんなが幸せであればあるほど、ラブもまた幸せです。

 だから、彼女はどんな危険のただ中においても誰かを助けにいくことができました。そして力及ばずいよいよ危険を避けられなくなったなら、そのときは是が非でも変身しなくてはなりませんでした。誰かの幸せを守りとおすために。そうして自分の幸せをゲットするために。
 そういうラブだからこそ、のちにせつなの心をも救うこともできたんですよね。ぶつかりあう悲しみを厭わず、逃げず、諦めず。何を乗り越えてでもいつかはみんなで幸せになれると信じる彼女だからこそ。

蒼野美希 / キュアベリー

「諦めないで! 医者になる夢があるんでしょう。だったら、最後の最後まで希望を捨てちゃダメ!」(第2話)

 「私、カンペキ!」が口癖の美希は、実際に優秀な人物でした。元々能力高く、誇り高く、夢も高く、挫けそうなときも自分を鼓舞して努力できる、実際に完璧にほど近い少女でした。「ベリーソードは囮よ!」とか「ウイングガンダムみたいな翼」とか、よくわからないところで伝説をつくる希有な才能までありましたっけ。
 そんな彼女ですが、いかにもプライドが高そうな印象とは裏腹、彼女の優れた実力はいつも他人のために揮われていました。彼女は根っからのお人好し。あるときは自分の夢を叶えるチャンスを蹴ってまで友達のピンチに駆けつけることすらありました。彼女は優しさまで完璧な女の子でした。

 美希のはじめての変身は弟を守るために行われました。医者になるという立派な夢を志していた弟は、しかし生来の病弱に負い目を感じていて、変に自信なさそうにしていました。だから美希は彼を信じて応援しました。彼以上に彼の実力を信じてあげました。怪物の引き起こす事件に巻き込まれ、生命の危機に晒されながらも、彼を守ることを決して諦めようとしませんでした。
 彼女はその優しさを貫きとおすために、変身する必要がありました。

山吹祈里 / キュアパイン

「誰かお願い! ・・・誰も聞いてくれない。私がやらなくちゃ。自分を信じて。私を信じて!」(第3話)

 祈里は引っ込み思案な子でした。心のなかには前に踏み出してみたい気持ちがあるのだけれど、色々と気にして尻込みしては後悔してばかりいました。本当は思いやり深く、度胸も据わった子のはずなのに、まず彼女自身が自分のそういう美点を抑圧してしまっていました。

 けれど、知人の飼い犬が怪物にされてしまったとき、このときばかりは彼女も尻込みしてはいられませんでした。
 最初は引き下がろうとしました。自分にはどうすることもできないと思って、誰かに頼ろうとしました。けれど周りの誰もが逃げることに必死で、ひとりとして彼女を助けてくれる人はいませんでした。だから、祈里だけは引き下がるわけにはいきませんでした。あの飼い犬のことばかりは後悔したくありませんでした。
 恐ろしい怪物の姿になってしまった飼い犬を前にして、彼女は一歩も引きませんでした。これ以上彼を暴れさせないために。プリキュアに彼を傷つけさせないために。自分のその願いを叶えるため、祈里はどうしても自分で変身しなければなりませんでした。

東せつな / キュアパッション

「はじめて会ったあの日、『幸せが訪れる』などとデタラメな占いを真に受けては喜び! その後も些細なことで幸せを手に入れたと言ってははしゃぎ! 罠にかけようとしているのに微塵も疑うそぶりを見せず! いつもいつもバカみたいに笑っているお前が、うらやましいと思った! ・・・うらやましいと、思ったんだ」(第23話)
「私、あんなに楽しい気持ちになったの初めてだった。家族がいて、みんなでおしゃべりをして、ご飯を食べて。すごく幸せな時間だった。それを・・・それを奪う権利なんて誰にもないわ!」(第24話)

 せつなは管理国家ラビリンス――いわゆるディストピアの生まれで、そもそも幸せの何たるかを理解していませんでした。初めはプリキュアの敵として現れ、ラブたちと何度も拳を交えることになりました。
 しかし同時に、せつなは素直で真面目な人物でもありました。ラブたちを観察するうち、彼女たちがいつも嬉しそうに笑っていることに気づき、それがどうやら彼女たちの守ろうとしている幸せというものらしいと学び、やがて彼女たちの思いを正しく理解するほどになりました。

 彼女は文字どおり生まれ変わります。過酷な運命が待ち受けていようと、そこから脱するために大変な奇跡を必要としようと、それでも彼女はまず変わらなければどうしようもありませんでした。
 それはラブたちから受け取った幸せに報いるために。教わった幸せを噛みしめるために。新たに生まれつつある幸せを慈しむために。そして、自分が不幸にしてしまった人々や、ラビリンスの同胞たちとも一緒に、いつかみんなで幸せになるために。
 幸せになりたいと思った時点で、彼女は変身せずにはいられませんでした。

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