プリキュアはなぜ変身するのか? 『ハートキャッチプリキュア!』の場合。

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大地に咲く一輪の花! キュアブロッサム!
海風に揺れる一輪の花! キュアマリン!
陽の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン!
月光に冴える一輪の花! キュアムーンライト!

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このブログはあなたがこの作品を視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

 みんなの心を守る『ハートキャッチプリキュア!』。
 本作はプリキュアシリーズであると同時に『おジャ魔女どれみ』シリーズの作風を継承した作品でもありました。ビジュアルも前作から大きく印象を変えて、馬越デザインの(ちんちくりんで)かわいらしい姿に。
 当時スーパーのお菓子売り場でたまたま食玩パッケージを見かけたときは(何事か!?)(私の知ってるプリキュアと違う!?)と、エラく驚かされたものです。私がプリキュアを観るようになったきっかけでした。
 本作は日常描写とバトルをひと続きにつないだ作品でした。プリキュアシリーズは以前からもそういう傾向を持ってはいたのですが、“人の心から怪物が生み出される”という、設定レベルからの連続性をつくりだしたのは本作が初めてでした。

 また、「プリキュアに変身すること」に対する考え方も本作は独特でした。本作におけるプリキュアは“怪物と戦う戦士”という従来のヒーロー像だけでなく、“かわいい衣装を着た女の子の憧れ”としての要素を強く打ち出しました。
 本作の変身バンクはひとつひとつの尺が非常に長いです。演出の手の込みようもおそらくは歴代で最高クラス。そしてなんといっても、満面の笑顔で楽しそうに変身する姿が鮮烈でした。(キュアムーンライトを除く)
 本作より前のプリキュアはみんな凜々しいイメージでした。変身中に笑顔を見せることなんてほとんどありませんでした。それが、現在のように笑いながら変身するプリキュアも現れはじめたのは本作からです。この作品は以後のプリキュアのあり方をちょっとだけ変えた、エポックメイキングのひとつでした。

花咲つぼみ / キュアブロッサム

「くだらなくありません! えりかさんの悩みを利用してそんな魔物を暴れさせるなんて、ひどすぎます! わ、私、堪忍袋の緒が切れました!!」(第1話)

 変身バンクの凝りようにも表れていますが、本作はプリキュアに変身すること自体を非常に大切にしています。このため、この時期のプリキュアには珍しく、つぼみの初変身はまず純粋にヒーロー然とした動機で果たされます。
 この先つぼみが描いていくことになる物語って実はもうちょっと違うところに重点が置かれているんですよね。ですが、そこに本格的にフォーカスが置かれるのはもう少し後になってからです。このときはただヒーローに変身するだけ。強くかわいく変身して、妖精たちにいっぱい祝福してもらいます。

来海えりか / キュアマリン

「つぼみはみんなのためにプリキュアしてるのね? 私、プリキュアやるわ。ホントのホンキよ! 私だってみんなの心を守りたいもん!」(第3話)

 えりかのときもつぼみと同様です。憧れのプリキュアに変身して、颯爽登場、ピンチの仲間を助けて大活躍します。このときのえりかの姿は文句なしに強くかわいく、そしてカッコいいものでした。(キュアマリンの単独変身バンクサイコー!!)

コンビ結成

「また迷惑かけて・・・。やっぱり私ダメなんです。マリンはもっと強い子と組んだ方がいいんです!」
「もしかしてそのことで『別の子』とか言って悩んでたの? そうだったんだ。・・・もう! ちゃんと言ってよ! 言ってくれないとわかんないよ」
「――私たちは最弱なんかじゃない! 最高のコンビなのよ!」
(第4話)

 つぼみは臆病で情けないままチェンジできずにいる自分が嫌いでした。やたらめったら自己肯定感の弱い子でした。
 えりかはみんなに認めてもらえずにいるカッコ悪い自分がイヤでした。ズイズイ自分を推そうとしすぎて周りの空気を読めずにいました。

 ふたりは変身します。プリキュアに変身して、プリキュアに変身したのにちっとも変われていない自分を思い知ります。それが、彼女たちにとっての本当のスタートラインでした。
 『ハートキャッチプリキュア!』とはそういう物語です。彼女たちにとって最大の敵は“嫌いな自分”でした。

妙堂院いつき / キュアサンシャイン

「ポプリは渡さない! 力が無くたって守ってみせる。ポプリも、お兄様も、僕は大切なみんなを守ってみせる!」
「お兄様。お兄様の心の光は私が取り戻します。そして願わくば、太陽のようにみんなの心を見守る光になりたい。私の名前は――陽の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン!」
(第23話)

 いつきは大好きなお兄さんのため、病弱な彼の代役を務めるように日々を過ごしてきました。男性の服を着て、道場を継ぐべく強くなって、本当は大好きだったかわいいものを我慢して。決してお兄さんにそういう生き方を求められたわけではなかったのですが、彼にたくさん優しくしてもらったから、いつきはその恩に報いたくて自ら厳しく生きることを選んでいました。
 要するに、彼女は自分が一方的に暖かなものを受け取ってばかりいたのが許せなかったんですね。だから彼女は変身します。・・・「太陽のようにみんなの心を見守る光になりたい」と言いつつも「陽の光浴びる一輪の花」でもある、矛盾した存在に。

 それはそれとしてキュアサンシャインの変身バンクのえげつなさよ。やはり黄色。

月影ゆり / キュアムーンライト

「君は命をかけて人間の心の花を守るプリキュアの任務の重さを誰よりも理解していた。だからすべてを自分で引き受け、ひとりで戦おうとしたんだ。『誰も傷ついてほしくない、傷つくのは自分ひとりでいい』ってね。君は優しいんだ。僕はわかっていたよ。――自分を認めるんだよ、ムーンライト。自分の優しさを。仲間への思いやりを」
「勇気。愛。友情。優しさ。悲しみ。喜び。たくさんの気持ち。みんなの心。――私は戦う。みんなの心のために!」
(第33話)

 ゆりは敗残者でした。つぼみたちがプリキュアになるより以前に敵に敗れ、変身する力を失っていました。彼女は敗北を知る先人としていつもつぼみたちに厳しい言葉を投げかけていましたが、その一方でつぼみたちを守るためなら生身で戦うことも厭わない人物でもありました。
 彼女が再び変身することになるのはその矛盾を自認したときです。自分が本当は何をしたいと思っていたのかを見つめなおせば、彼女はもう今のまま、敗残者のままではいられませんでした。

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