プリキュアはなぜ変身するのか? 『スイートプリキュア』の場合。

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このブログはあなたが視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

 『スイートプリキュア』は、まるで輪唱のような作風でした。
 この物語は不幸なすれ違いと絆の再生を描きました。響と奏、ハミィとセイレーン、アフロデュテ女王とメフィスト。それも、3回も同じ物語を繰り返しました。人物や立場こそ毎回違っていましたが、やっていることといえば全部すれ違いと再生です。この物語は繰り返すことにこそ意味がありました。
 ごく普通の中学生、未来を担う歌姫、ひとつの世界を治める王家。あるいは、どこにでもいる中学生に、敵組織の幹部、敵組織の首魁。同じことを繰り返しながら、物語の規模だけが大きくなっていきました。それに合わせて、「2人の組曲」、「3人の組曲」、「4人の組曲」。プリキュアの人数まで増えていきました。
 何のために? それは、この世のあらゆる悲しみがすべて同じ根底から生まれていたことを知るために。
 同じ物語を3回繰り返して規模が最高潮に達したところで、この輪唱は最後に小さく収束します。ノイズ。人と人とのあいだですらない、誰もの心それぞれのなかに存在する最小のすれ違いに絆を橋渡すために。この根底の悲しみを受け入れるためにこそ3回の輪唱がありました。2人で足りず、3人で足りず、4人でもまだ足りず、「みんなの組曲」を紡ぐことが必要だったんです。

 というわけで、『スイートプリキュア』における変身の描きかたはオンリーワンです。4人とも同じひとつの理由で変身しますし、この方式は現在までのところ唯一この作品でしか用いられていません。あらゆる意味でオンリーワン。

北条響 / キュアメロディ南野奏 / キュアリズム

「やめて! そのレコードは・・・!」
「奏・・・。あれは、あのレコードは――私たちふたりの想い出が詰まった大切なレコードよ」
「響」
「奏」
「あの大切なレコードを」「あんな怪物にするなんて」「絶対に許せない!!」
(第1話)

 響と奏は昔からの友達同士なのですが、最近はどうにもギクシャクしていました。というのも、中学校の入学式の日は待ち合わせてふたり同時に校門をくぐろうと約束していたのに、その約束が果たされなかったからです。
 実はちょっとした勘違いのすれ違いだったんですけどね。でも、たったそれだけの理由で1年以上もギクシャクしていたんですからすれ違いもバカにできたものではありません。

 響と奏は仲よしだったころの想い出のレコードを取り戻すため変身します。ふたりとも本当は仲直りしたがっていたんです。けれどお互い自分は悪くないと思っていたせいで、余計な意地を張りあってしまっていたんですよね。変身は良いきっかけでした。
 ただ、きっかけはきっかけ。一緒に変身したからってそれだけで元どおり仲直りというわけにはいきません。ちっとも息が揃わず、緒戦は惨敗でした。変身できただけではどうにもなりませんでした。ふたりが想い出のレコードを取り戻すためには、結局まずは仲直りする必要がありました。

黒川エレン / キュアビート

「ハミィ・・・。もう嫌。やめて。やめて! もうこれ以上ハミィを悲しませないで!」(第21話)
「私は、私は・・・。守りたい。私が今まで壊してきたもの。友情とか。愛情とか。信じる心。そう、心の絆を。私はもう二度と壊したくない! そのための力が、その資格がこの私にあるというのなら! 私はプリキュアになりたい!!」
(第23話)

 響と奏がそうだったように、エレン(セイレーン)もまた、昔はハミィと大の仲よしでした。仲違いするきっかけとなった出来事が不幸なすれ違いだったことも響たちと同じ。
 敵方マイナーランドの歌姫としてたくさんの悪事をはたらいてきたエレン。しかしその戦いのなかで親友ハミィを人質にすることになってしまった彼女は嘆き悲しみ、親友を守らなければという強い衝動によって初めての変身を果たします。

 変身を果たしたあとも彼女の苦悩は続きます。罪の意識が消えません。かといって元の組織にも戻れません。けれどそんな彼女の思いとはウラハラに、被害を被ったハミィや街の人たちは何のわだかまりもなく彼女を受け入れてくれたのです。一緒にいられることを純粋に喜んでくれたのです。
 こうして彼女がプリキュアとして戦う理由は定まりました。以後、エレンは過去を清算するためではなく、自分を受け入れてくれたみんなを守るためにプリキュアの力を望みます。

調辺アコ / キュアミューズ

「このままじゃパパとママがケンカしちゃう! 私が・・・私がなんとかしなきゃ!」(第36話)
「私はたとえ悪に操られているパパでも守りたかった。でも、みんなが大切なことを教えてくれたの。私がパパを守りたいと思うなら、パパを操る悪の心とも戦わなければならない。たとえそれがどんな辛い戦いになっても乗り越えなければならない。それがパパを本当に守るということだから!」(第35話)

 響たちとは違い、アコは仲違いの当事者ではありませんでした。仲違いしたのは両親で、優しい彼女は両親ふたりともを守るためにプリキュアの力を得ました。
 しかし、力を手にしても彼女ひとりの力では何も変えられませんでした。ときにプリキュアを助け、ときには反対にメフィストを庇い、彼女はコウモリのように立場を変えてその場の戦闘を収めることしかできませんでした。

 しょっちゅうケンカしている響たちと交流を重ねるうち、やがてアコは気づきます。自分はただ両親が傷つくことだけを恐れていたのではなく、仲違いしたふたりが不幸になっていくのがイヤだったのだと。
 いよいよ目の前で夫婦ゲンカが勃発しそうになり、彼女はふたりの間に立って変身します。家族がすれ違っていくことを悲しむ自分の思いを伝えるために。悪に支配されてしまった父親の心にその思いを届かせるためには、プリキュアの力が必要でした。

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