なるほど。飽くなき欲求、というわけか。君たちはより良く、より高くと願っている。
けっして満足しない クリス
第7話 動き始める刻
Lead Character:がんばったひと
ノア
Major Happening:大きなできごと
ノア覚醒
ノアのサイドイベントは恩師であり友人でもあった人との再会。ともに過ごした数年間で充分ノアの人格形成に影響を与えていたはずだが、それでも飽き足らず、自分の全てを徹底的に継承させるためメビウスになってもう一度現れた。ストーカーかな?
セナ覚醒
セナのサイドイベントはもう一度シャナイアと向きあう機会。基本的にセナ自身がまず自己完結型なのでなかなか他人の心を揺り動かす言葉は出てこないのだが、それでもゴンドウという通訳係を通してなんとか思いは伝わったと信じよう。正直、セナもゴンドウもシャナイアも、この3人とも不器用すぎて大好きだ。
Sub Questions:小さなできごと
モニカ覚醒
モニカの覚醒イベントでは、独断専行で危険な鹵獲作戦に出たウロボロス候補生たちを救出しに行くことに。とはいえ暴走とはいえ彼らなりにシティーの役に立ちたくて決行したこと。事情を聴取するうち司令官から母親の顔に変わっていたモニカに対して、候補生のひとりから予想外の告白が叩きつけられる! いや、ホントいい顔していた。痛快だった。
ミヤビ覚醒
ミヤビの覚醒イベントの舞台はシティーで行われる料理大会。なお優勝したのはマナナ。イベントの難度を跳ね上げたのもマナナ。チャノポン出されちゃったら許すしかない。
争いを好まない兵士が戦争から解放されたら何を望むのかを十全に描いたイベントだったと思う。日常系アニメっぽいというか。プリキュアっぽいというか。どんな平凡な営みにも切々とした願いはあるし、努力もある。でもそれだとゲームにはならないからありがとうマナナ。
オリジン
融合しつつあった2つの世界の全情報を収め、融合後の世界で再生できるようにしたシステム。すなわちノアの方舟。あるいは『ゼノブレイドクロス』でいうところの“セントラルライフ”と同等の存在。
ブルーブラッド同様、アイオニオンの人々もオリジンに格納されている元情報から乖離した存在になりつつあるようだ。
ウロボロスストーン
オリジンの構成物質と女王ニアのコアクリスタルが接触することで生成される。要するにウロボロスの正体は異世界人同士が、『ゼノブレイド2』でいうところの“同調”を果たした状態だと思われる。
本来ブレイドの同調はトリニティプロセッサが生物の心の情報を収集するために行っていたものであるため、同等のことをしているウロボロスもインタリンクした者同士で記憶を共有することになる。
終の剣
オリジンの構成物質と女王メリアの心が接触することで生成される。つまりその正体は“モナド”(の依り代)。因果律を決定できる力。『ゼノブレイド』世界においては2柱の神が強力なモナドで因果律を支配していたが、同時に人間ひとりひとりも生まれつきモナドを持っていたため、神の支配から脱することさえできれば誰もが自由に自分の未来を決めることができた。
外見こそノポンの手で刀状に鍛えられているが、モナド自体はあくまで心の力。シュルクと同様、ノアも自覚していなかっただけで本当は抜くまでもなく常に力を発揮させていた。抜刀は自覚を促すきっかけにすぎない。
黒い霧
2つの異なる存在が長時間インタリンクしつづけたとき発生し、放置していると消滅現象を引き起こす。拒絶反応みたいな。・・・自分で惹かれあっておいて厄介な!
リンカー
「な、んで・・・。私が・・・? メビウスだよ? ゴンドウ・・・」
終の剣でもなければ傷つかないはずのメビウスのコアが、ただの人間であるゴンドウの一撃で破壊されました。膿のように吹き出る黒い霧。
ずっとひとりぼっちだと思っていました。
誰も自分の気持ちなど理解してくれないと。
だって、家族ですらそうだったのに。
「本当にそうか? いたんじゃないのか、お前にだって――」
なのに、半ば確信しているような口ぶりで、ゴンドウがそんなことを言います。
ゴンドウこそ自分がどんな気持ちでいたか少しも理解してくれなかったはずなのに。
事実、ひとりだけ。短い人生を振りかえってみれば亡くなったお父さんだけ、自分の本当の気持ちをわかってくれていました。
そんなことたった今まで忘れていたけれど。
どうしてゴンドウにはわかったんだろう?
ひとつだけ。もしかしたら、ひとつだけ。思い当たることがありました。
「ねえ――。あんた、嫌いだろ? 名前。なんで、壊さない?」
「壊せるかよ。この名前があるから、いつでもあいつを近くに感じられる。あいつがつけてくれた名だからな。お前の得意と一緒だよ」
ああ、そうだったんだ。
いつもは自分の母親を「クソ女」呼ばわりしているゴンドウなのに、そういえば今日は停止している母親に「おふくろ」と呼びかけていました。
「母さん! なれたよ、ウロボロス候補!」
「・・・順位は? 序列だよ。知らされただろ」
「は、8位だけど――」
「予備兵かい。ウロボロスになれるのは6人。そこに入れなきゃ8位も100位も同じ。長老六家のひとつ、リイドの本家なんだよ、うちは」
シティーを襲撃しておきながら、シャナイアは誰ひとり殺していませんでした。
メビウスの異能をもってすれば簡単にできたことなのに。
いっそ空気の流れを止めてしまえばまとめて殺せたはずなのに。
殺せたはずのなかにはあの酷い母親だっていたのに。
目の前にいるのは自分の娘だというのに、それなのに慈悲をもらえるとは少しも思っていない様子。娘よりも信じられるといわんばかりに始祖の像に縋りつき、恐怖に顔を歪ませる最低な人。
そんな醜態を見下ろしてなお、シャナイアには殺すことができませんでした。
「いいなあ、それ――」
ゴンドウが愛おしそうにしているそれは、シャナイアが自分の得意を破り捨ててでも手に入れたかった、必死にもがいてほんの少しでもこちらを見てほしかった、遠くて遠くてしかたない存在。
「その目だよ、その目! ずっと私を見てたその目! なんでこうなんだよ。なんでいつも、私はこっちにいる――!」(第6話)
ゴンドウにこちらを見られていると、なんだかいつもくやしい思いが胸を焦がしていました。
理由は明白。
「あんたはいいよね、ゴンドウ。英雄ゲルニカを祖父に持ち、母親はシティーの長老モニカ。で、あんた自身はウロボロス候補筆頭。・・・私の望みなんかあんたにわかるわけないだろ」(第5話)
明白だと思っていたのに、なのに、ゴンドウは。
「これおまえんとこの親父だろ? んで、こっちはウチのクソジジイか。そっくりじゃねーか。うまいもんだな」
「憧れか? ・・・別になんなくたっていいんじゃねーか? ジジイたちはジジイたち。お前はお前だろ。ジジイたちにゃこんな芸当できっこない。それがお前だろ」
「怖えか? また負けたらもう居場所は無くなるもんなあ」
ゴンドウはこうも逐一的確に、シャナイアの心の一番柔らかいところを見つけて、つついてくる。
「――なら、埋められねえな。てめえと私の差はな」
メビウスのコアを割られてようやくシャナイアにもわかりました。
自分とこの人の差が、ほんのわずかなものでしかなかったことに。
この人こそが世界で一番自分に近しい存在だったことに。
まるでインタリンクしたかのように、記憶を共有したかのように、お互いの思っていることが手に取るようにわかる、――はずでした。きっと、本来なら。
「ヴァンダム家は恵まれてるからってか? ああそうさ。リイド家とは違ったからなあ」
「恵まれてるってのは自覚してらあ。・・・だからくやしいんだよ」
ほんの少しの違い。たったそれだけのことに目を奪われて、もっと大きなことに気付けなかったせいで――。
「セナってとっても自分に厳しいよね。だから今の自分に満足できなくて、足りないって思っちゃう。でもね、私にとっては充分だった。たぶん、みんなにとっても」(第5話)
ところで、これはセナのサイドイベントです。セナが主役の物語です。
セナは誰よりも克己心の強い人物。向き合うべきは常に自分自身であり、誰にからかわれようと我が道を行く歩みを止めません。ただ、誰かの力にはなりたい。自分が誰かの役に立てる人間だということを実感したい。そういう人物です。
「そんなに世界が嫌なら、なんで自分で壊そうとしないの? 変えようとしないの?」
「だからぶっ壊してやるって言って――」
「壊しかたが違うよ! 変わるの。自分が。そうすれば世界のほうから壊れていく。変わっていくの」
処刑場ではランツの言葉ひとつで世界のありようがガラッと変わって見えました。
ミオに比べて自分は全然ダメだと思っていたけれど、ちゃんと向きあってみたらミオは昔からずっと自分をすごいと言ってくれていた。
それに気付けなかったのは、そもそも自分が誰かに認められたくて努力を続けてきたわけじゃなかったから。あくまで自分が自分を認められるかどうかだけが問題だったから。
自分が変われば世界も変わる。
見かたを変えれば世界は反転する。
シャナイアには、どうか、自分と同じ感動を分かちあってほしかった――。
「幻に終わるかどうかは自分次第。無様に足掻いて生きていくしかないんだ。最後には笑いあえると信じてな」
「・・・シャナイアは、笑えたのかな」
「次は大丈夫さ」
メビウスとなった者は再生されないんだそうです。だからゴンドウの言葉はただの気休め。
だけど、ゴンドウの言葉だから信じられます。ゴンドウはもうひとりのシャナイア、誰よりも彼女の気持ちをわかってあげられる、最大の理解者なんですから。
ゴンドウが大丈夫だというのなら、死に際した瞬間のシャナイアはきっと、セナと同じ感動に出会えていたのでしょう。
足るを知らない旋律
「私におくらせてください」
1000年前、10年の寿命を生き延びた兵士たちはその罰として軍務長に殺されていました。
その不幸を救ったのがクリス。アイオニオンに成人の儀をつくった最初の人でした。
時は流れ、大勢の兵士が永遠とも思える無数の転生を繰り返し、今生のクリスはノアにおくりびとを教える教官になっていました。
やがて成人の儀を間近に控えたクリスは――、あえて死地へ赴き、自ら成人を迎えられる可能性を絶つことになります。
どうしてそれができたのかは語られません。ユーニやメビウス・ディーのように過去生を夢に見たのかもしれません。成人の儀でおくられた命が再生されないことをどこかで知ったのかもしれません。あるいは何度転生を繰り返しても変わらない彼の本質がそうさせたのかもしれません。
いずれにせよクリスは、過去生の自分が救済のためにつくった成人の儀を、自らの意志で拒絶したのでした。
「彼は満足していたんだと思う。『ここまで生きられた』『戦えた』『命を全うできた』『みんなのために』 ・・・それは、とても悲しいことだ」
「成人するとは何だい? 命の刻限を迎えること? 戦いをくぐり抜け生き残ること? それで消えていくことが、本当に彼にとっての満足だったのだろうか。あの笑顔は本物だったのだろうか。僕には――、泣いているように見えた。終わりの姿を選ぶことができなかったんじゃないかってね」
いかなるきっかけがあったのか、クリスはそのような思いを抱くに至り、成人の儀を拒絶したわけです。
自らの終わりの姿を、自らの意志で選ぶために。
「君たちはより良く、より高くと願っている」
「願ってはダメなのか?」
「ダメではない。それは人の本質だからね。だけど君たちは知らない。知らなくてはならない。――足るを知る、ということを」
さて。そんなクリスがノアに言うわけです。「足るを知れ」と。
妙な話です。彼は成人の儀を迎える当人が晴れやかな顔をしていても「本当に彼にとっての満足だったのだろうか」と疑う人なのに。10年を生きぬいた同胞の最後が処刑ということが忍びなくて成人の儀をつくり、しかも自分自身はその成人の儀にすら疑問を持ったような人なのに。
よりにもよってあなたがそれを言うのか。
「足るを知れ」と言った理由を続けてクリスは説明します。
曰わく、ノアの言い分は勝者の論理だと。弱者は置き去りにされると。そこまではいいでしょう。
曰わく、女王が語る世界再生の可能性は疑わしい。確証がない。もし女王が間違っていて、世界が消滅してしまうとしても、命をかけられるのか。その失敗の責任は誰が取るのか。
くだらない詭弁です。
それは「勝者の論理」への反論たりえない。仮に進む先が過ちの道ゆきだったとして、そこに勝者は存在しない。強い者も弱い者も等しく死ぬだけ。むしろ停滞した現状こそが勝者と敗者を二分しているわけで。
第一、そもそも仮定に仮定を重ねた空想は議論の俎上にのぼりえない。そんなものを議論する意味はない。語り手に都合のいい前提条件だけを並べた時点で、これが現実の課題に対処するための問答ではないことを自ら認めてしまっている。
私たちプレイヤーが知ることのできるクリスの人物像はきわめて断片的ですが、それでもこの無様な詭弁を本気で語るような人物ではないことくらいはわかります。彼はもっと強欲な人だ。
「俺はそれでもいいと思ってる」
だから、私なんかよりもはるかに深く彼の人となりを知っているノアはあっさり見破ります。
そして、彼がこの問答で本当に求めている答えを示します。
「今わかったんだ。あのときの君がなんで笑ったのか。『ここでいい』、あの言葉の意味が。『まだ行くのか』と君は俺に聞いた。今、答えるよ」
「聞かせてくれ」
「行くさ。どこまでも。最後の瞬間を大切にするために。最後を迎えたそのとき、一生を振りかえって笑えればそれでいい」
それは10年の先の処刑に抗い、成人の儀に抗い、当人の満足にすら抗おうとしてきた、クリスの強欲を引き継いだ言葉。
「足るを知る」を踏み越えた先にしかないであろう、今より少しだけ良い未来を夢見る理想。
「選べないがゆえに人は壊れていく。もがいて、苦しんで、答えの出ない霧のなかで足掻くんだ。答えの出せない世界なんて間違ってるよ。偽りの死しかない世界なら、無いほうがマシだ」
そしてそれは、むしろ敗者の幸福をこそ祈る切なる思い。
小さな幸せだけで自分を慰めようとする弱い人々に、充分に大きな幸せを掴む権利を与えようと。
エゴです。
だって、ゲルニカ、エセルやカムナビ、エム、ヨラン、シャナイア、そして今目の前にいるクリス。ノアがその死を惜しんだ多くの人たちは、満足して死んでいったんですから。
ノアは彼らが“もっと”幸せに死ねたんだと言っているわけです。彼らではなく、ただ、自分がそう思うからと。“もっと”良い世界で生きられたなら、“もっと”彼ららしく、“もっと”希望に満ちた生を全うできたはずだと。
もっとです。もっと、もっと。
もっと良いところへ。もっと高いところまで。
クリスは「責任」と言いました。世界が再生されなかったとき、誰が責任を取るのかと。
その責任を自分が取れるようになるために、進むんです。
これまでノアたちが解放してきたコロニーは、それぞれ大きな変革を余儀なくされ、悩み、苦しんできました。
それまでは執政官が各コロニーの方針を定めていたからです。良くも悪くも執政官が独断で決めていたことを、今度は自分たちの責任で選ばなくてはならなかったからです。
責任とはすなわち、権利。
悩み。苦しみ。霧のなかで足掻きつづけたいくつものコロニーは、やがて自分なりの答えを見いだしていきました。笑えるようになりました。
自分の人生の責任を自分が持てるようになって初めて、人は自分らしく生きる権利を得ます。
クリスは人が持てる選択肢を増やす人物でした。
1000年前は1つしかなかった人生の終焉を2つに、それでも飽き足らず3つに。それでも彼は満足しませんでした。
だから彼は今ここにいます。ノアに伝えるために。「足るを知る」ということの意味を。その悲しさを。
自分の全部を引き継いで、自分が救いたかった人たちみんなの命運を預けて、勝者だけではない、みんながもっと幸せに生きられる未来を、託すために。
「記憶は潰えても思いは残る。思いを旋律に乗せれば届く。――以前、君にも話したことがあったよね」
「彼らは、希望だ。かつての君たち、ウロボロスたちの思いの結晶なんだ。それはけっして潰えはしない」
「行け、ノア。その調べに思いを乗せて――」
ここに、主人公・ノアの思想はついに完成を見ました。
魔剣ラッキーセブンよりも鋭く尖ったそのエゴイズムは、救いを望む者も望まない者も等しく慈しみ、全ての命にとってのより良い未来を目指し突き進んでいきます。
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