多田くんは恋をしない 第12話感想 宝石箱に鍵をかけるな。

お世話になったんだから、ちゃんと事情を説明して、お礼を伝えた方がいい。

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(主観的)あらすじ

 ラルセンブルクの地にて多田はテレサの真実を知ります。彼女の本当の名前はテレサ・ドゥ・ラルセンブルク。王家を継ぐ者として、生まれたときから人生のほとんどをあらかじめ定められていた少女でした。
 「無理、してないか」 あまりのことに驚きを隠せない多田はやっと一言だけ言葉をしぼり出しますが、テレサはそもそもどうしようもないことなのだと言葉を返します。もはや多田が彼女のためにできることは何もありません。この旅はまったく無意味なものでした。
 一方、テレサは平静を装った笑顔の裏で悲しみに暮れていました。無理していないなんてウソ。日本にも、多田にも、本当は未練をいっぱい残していました。それに耐えて、王族に生まれた運命に殉じようとしていたのでした。なのに今度はその運命そのものがアレクをも悲しませていることを知ったのです。折り悪く、テレサにとって最大の心残りである多田まで追いかけてきました。
 テレサの心はついに決壊します。本当ならこれから何十年も、ずっと同じ悲しみに耐えつづけなければいけないはずなのに。
 そして多田も。両親の葬式ですら流せなかった涙が、この日ようやく零れだします。

 「美しすぎた人よ」
 この世で一番美しい人といえば、たぶん、きっと、絶対に手の届かないところにいる人です。いわゆる高嶺の花というヤツですね。つまりは、まあ、想い出になってしまった人のことですよ。・・・私たちの手は“絶対に”時間を超越することができないのですから。
 地球の裏側だって想い出ほど遠くはないでしょう。3000カラットのダイヤモンドだって想い出ほど美しくはないでしょう。それらは“絶対に”手が届かないというわけではありませんから。想い出と違って。

 多田はよくやってくれました。
 これで必要な過程はすべて整いました。

ラルセンブルク

 現地語での綴りは「Larusembourg」
 「bourg」とは城郭都市のことです。蛮族や敵国から身を守るため、昔のヨーロッパでは一部の重要都市をまるごと全部城壁で囲んでいたんですね。そして都市が城壁で守られると、必然として所属する国家からも独立性が高まります。そんなわけで、ヨーロッパでは昔から小さな都市国家がポコポコ生まれる土壌がありました。
 ラルセンブルクもそういった流れで成立した小国のひとつなんでしょうね――とか、どっかのタイミングで語ろうとしていたのをすっかり忘れていましたよ。

 うん、語らなくてよかったね。
 そもそもラルセンブルクは単純にルクセンブルクをモデルにしていたようです。
 ルクセンブルクはフランス、ドイツ、ベルギーに囲まれた立地の国です。だからラルセンブルクも住所表記がフランス式で、テレサの会食相手がベルギー王族なんですね。ホットチョコレートスプーンが名物なのも同じ理由か。
 多田のバス乗車中のシーンでいくつか地名が現れますが、これもRamich→Remich(レミヒ)、Bandweiler→Sandweiler(サンドワイウレ)、Trieel→Trier(トリーア)など、ルクセンブルクの実在の地名をもじったものとなっています。Folfermillenはちょっと自信がないですが、ボックフェルゼンあたりが元ネタですかね?
 となると、空港のモデルはフィンデル空港、多田が見てまわった屋台市はギョーム市場、伊集院が観光していた洞窟は大砲で有名なボック要塞ってところでしょうか。
 ちなみに空港でホットチョコレートスプーンが1個3.8ユーロ(480円くらい)とバカ高いお値段で売られていましたが、これもルクセンブルクがモデルならむべなるかな。裕福な国なので物価も高いらしいんです。私なんてこないだカフェランテで200円のおつとめ品を買ったときですら高いと思ったんだけどな・・・。しかもメニュー表を見た感じ、アレさらにコーヒー代も別に取るっぽいんですよね。ひええ。

 うん。このあたりの情報、もちろん物語には一切関係ないんですけどね!

「大福は大福です」

 テレサはずっと後ろめたさを感じていました。
 「私はHINAさんも本当の長谷川さんの一部だと思いますよ。大福は大福です。おいしい!」(第4話)
 委員長にアドバイスを贈ったときも、自分のことを棚に上げてと悩んでいましたっけ。
 打ち明けたからってどうなるものでもないので、結局黙ったままでいたのですが。

 それが、今になって。
 「多田、くん・・・」
 一番辛いタイミングで、一番言いにくい秘密を話さなければならなくなってしまいました。
 せっかく会えた多田に悲しい気持ちで向き合わなければならなくなりました。
 再会を楽しみにしてくれていただろう多田の気持ちを裏切らなければならなくなってしまいました。
 けれど仕方ありません。
 「一度後悔したことは二度と繰り返さないようにすればいいんじゃないかな」(第8話)
 だって、テレサはまだこのことを後悔せずにいたんですから。
 きっと話せば後悔してしまうだろうことをズルズル先延ばしにして、逃げていたんですから。

 時すでに遅し。
 テレサは大福を落としてしまいます。
 多田がそれを見つけて拾ってくれます。
 でも。
 「大福は大福です」(第4話)
 あのときテレサが委員長に言って見せたように、割ったって、落としたって、大福はいつでもおいしい大福のままのはずなのに。
 多田が拾った大福は、誰かの口に入ることなく片付けられてしまいます。

 ええ。
 大福は大福です。
 テレサ・ワーグナーもテレサ・ドゥ・ラルセンブルクも、どちらもテレサであることには変わりありません。
 でも。
 「ラルセンブルク家では代々成人になる前に見聞を広めるため国を出る習わしがあるんです。それで私は留学先に日本を選びました。それから多田くんたちと出会って・・・。あの素晴らしい経験のおかげで、私はとても成長することができました。心から感謝しています。・・・あの日々が続けばと思いましたが――楽しさのあまり、自分の責務を忘れそうになりました。だから逃げ帰ってきたのです。・・・ただ、思いのままに好きに生きていくというわけにはいかないのです。そのことをお話しすることができないまま・・・本当に申し訳ありませんでした・・・」
 せっかくの機会なのに話すのは自分ばかり。
 多田は何も言ってくれません。当然です。今さらになって打ち明けた秘密を飲み込んでくれるには時間が必要でしょう。
 わざわざこんなところまで追いかけてきてくれたからには、きっと彼にだって伝えたかった言葉はあるでしょうに。テレサのもたらした動揺がそれを言う機会を潰してしまいました。
 息苦しい時間が横たわっています。
 食べてもらえない大福は、はたして大福なのでしょうか。

 後悔。
 けれど、今さら後悔したところで次にどんな機会で生かせるというのでしょう。

「俺っていっつもそうだ」

 「多田、くん・・・」
 やっと会えたと思ったのに、愛しい人は多田の顔を見てかえって暗い顔になりました。

 「俺はずっと腹を立てていたんだ。テレサが突然いなくなったのはなぜなんだ。なんで、何も言わずに・・・。俺っていっつもそうだ。大切に思っている人が突然いなくなる。だけど、いくら考えていても仕方がない。答えはもう聞けない。だから・・・だから、心のなかから全部締め出したんだ」(第11話)
 両親。テレサ。繰り返してしまった後悔を二度と繰り返さないために、多田はラルセンブルクへ飛び立ちました。ニガテな飛行機を乗り越えて。ガラにもなく異国を冒険して。やっと彼女の元へたどり着きました。
 それが後悔した意味。後悔することで獲得できる強さ。
 多田がテレサに伝え、テレサが多田に贈りかえしてくれた言葉は、こういうことのためにありました。

 なのに、現実は――。
 「ラルセンブルク家では代々成人になる前に――」
 テレサは悲しそうな顔で、多田の力ではどうにもならないことを淡々と打ち明けます。
 これが、多田の聞きたかった答え。
 これが、多田が後悔を乗り越えようとしたことの結果。
 「無理、してないか」
 それでも自分にできることを探して食い下がる多田に、
 「すべてはもう、生まれたときから決まっていたことなのです」
 テレサはどうしようもないことなのだとはっきり告げます。
 愛しい人がどんどん遠くなっていきます。

 「どこに行くんだよ」
 「僕は何もできなかったよ」
 「美しすぎた人よ」
(エンディングテーマ『ラブソング』)
 両親の葬式ですら流れることのなかった多田の涙。
 後悔の先に待っていたものは、後悔でした。

 後悔。
 後悔しても何も変えられないなら、後悔したことの意味って何だったんでしょう。

「僕は、笑顔の君が好きなんだけどな・・・」

 今話で描かれたことはそれでおしまいです。
 後悔に突き動かされた多田の努力は、テレサにも、多田自身にも、新たな後悔しか生みませんでした。

 そう。
 多田は後悔をつくったんです。

 たしかに今回多田の行動がもたらしたことといえば、ひたすら悲しい結果ばかりでした。
 けれど、ではこのことがなければふたりは幸せになれたでしょうか。
 多田と同じ時間を過ごして以来、以前より無邪気に笑えなくなってしまっていたテレサは。
 テレサと同じ時間を過ごして以来、以前よりさらに仏頂面が増えてしまっていた多田は。

 想い出は美しいものです。
 きっといつだって、どんな目の前の現実よりも輝いて見えることでしょう。
 そんな美しいものを持っているはずのあなたが、どうして今、くすんでしまっているんですか。

 想い出を今の自分から切り離してしまうのは悲しいことです。
 それは過去の自分を否定するようなものです。
 それがどんなに尊いものであっても、美しすぎて今の自分には似つかわしくないと思えても、それでも、それが今の自分には関係ないものだと考えてしまうのは悲しいことです。そうして遠ざけてしまっていては、あなたは今後永遠にあの日々のように笑って生きることができなくなるでしょう。
 誰がそんなことを望むものか。

 「戻れたらいいけど、戻れないからな」
 「一度後悔したことは二度と繰り返さないようにすればいいんじゃないかな」
 「それが、後悔した意味なんだと思う」
(第8話)

 だから、過去は現在と未来のために生かされなければなりません。
 “後悔”として。
 たとえ後悔することに意味を感じなくたって。
 たとえ後悔を生かした先に新たな後悔が生じてしまったって。
 それでも、あの輝かしい日々を過ごしたあなたほど美しい人は、この世のどこにもいないのですから。
 「テレサ。僕は、笑顔の君が好きなんだけどな・・・」

 多田とテレサは再び後悔しました。
 それを生かしてこれからの人生を想い出に負けないくらい輝かしく彩ることができるかどうか、あとはふたりそれぞれの努力次第です。

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