プラネット・ウィズ 第4話感想 竜はただのトカゲだが――。

誰がバカだ! あれははるちゃんだ。竜じゃない。

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(主観的)あらすじ

 ネビュラウェポンを撃破した熊代晴美は間髪入れずネビュラソルジャーとの決闘に挑みます。得意の柔道の身のこなしで果敢に攻めたてますが、敵も然るもの、左腕、右腕と続けざまに砕かれ、晴美は窮地に追い込まれます。
 けれど、負けるわけにはいかないのです。晴美が念じると念動装甲が再構築され、再び仕切りなおし。しかしそこまでしても晴美の力はまだ届きません。一瞬の隙を突かれ、今度は胴に必殺の一撃が叩き込まれようとします。それでも、それでも、それでも負けるわけにはいかないのです。晴美は。美羽のカタキを取るまでは。絶対に。
 絶え間なき暴力への渇望は晴美のサイキックを伝わって小瓶の竜の力を増幅し、晴美そのものを竜の姿へと変貌させるのでした。敵味方の別なく破壊しつくそうとする晴美。彼女を止めるため宗矢とグランドパラディンが共闘関係を結びますが、それでもなお手に負えません。
 暴走する晴美を止めることができたのは唯一、美羽でした。晴美の無事を願う美羽の思いは銀子の助けを借りて、宗矢と先生の力を借りて、そして彼女のサイキックを伝わって、果たして竜のなかで苦しむ晴美の心にまで届きました。竜は消滅しました。
 美羽と晴美はグランドパラディンを辞し、さらに2名もその活動目的に著しい疑念を抱くこととなり、かの組織は崩壊の一途を辿ります。

 “我らの伝説は言う。竜はただのトカゲだが、空を飛ばねばならぬから、空を飛ぶ。火を吹かねばならぬから、火を吹く。最強でなければならぬから最強なのだと。トカゲは、全ての不可能を可能にしても、やらねばならぬことがあったのだろう。”(某ガンパレ)
 晴美は竜になりました。人の身では願いを叶えるのにどうしても力が足りなかったからです。竜にならなければ、どうしても願いを叶えられなかったからです。
 晴美の願いとは何だったでしょうか。
 美羽のカタキ討ち?
 ・・・いいえ。

その復讐 / その妄執

 晴美はネビュラソルジャーに復讐しなければなりませんでした。
 彼が美羽の大切にしていた力を壊したからです。彼が美羽の縋っていた自信を壊したからです。彼が大好きだった美羽の笑顔を壊したからです。
 晴美は笑ってくれる美羽が好きでした。
 昔から身体が大きくて、男の子よりも力も強かった、こんな自分なんかとは全然違っていたから。お姫さまみたいだったから。なのに、こんな自分と友達になってくれたから。
 その美羽を傷つけて、落ち込ませて、笑えなくしたネビュラソルジャーを、晴美は絶対に許すことができませんでした。
 絶対に、自分が彼よりも強いことを証明しなければなりませんでした。

 だから、戦います。
 再戦するまで自分の生活の全てを鍛錬に費やし、幻像の見せる幸せな光景を気にも留めず、仲間たちとの協調すらも振りきって、憎きネビュラソルジャーに決闘を挑みます。
 けれど、そこまで万全に備えてすら、彼女の力はネビュラソルジャーに及びませんでした。
 「両手、潰した! あとはド真ん中ぶち抜いて終わりだ!」

 だから、諦めないことにしました。
 「まだ、やれます!」
 勝たなければならないのなら勝てばいいんです。負けられないのなら負けなければいいんです。腕が足りないのなら生やせばいいんです。力が足りないのなら、強くなればいいんです。
 たったそれだけの話です。
 どうせ目の前にたったひとつしか選択肢がありえないのなら、自分のすべてをそのひとつのために賭けてしまえばいいだけです。むしろそれ以外に何ができるというのでしょうか。
 「先生! 先生もあれできない!?」
 「『無茶言うニャ』と先生は仰っている!」

 普通の人はそこまでしません。だからこそ、今の晴美の必死さは強烈なアドバンテージとなりえます。

 だから。
 「隙あり! どぉりゃぁぁ!!」
 「しまっ・・・!」

 もしそこまでしても力及ばないなんてことがあったとしたら。
 いいえ。
 「私は、美羽ちゃんの前では負けない!!」
 だから、諦めなければいいんです。
 勝てばいいんです。負けなければいいんです。強くなればいいんです。そうすれば力及ばないなんてことは絶対にありえません。
 勝てばいいんです。負けなければいいんです。強くなればいいんです。強くなればいいんです。強くなればいいんです。
 強くなれば。たったひとつのことさえやりとおせば、晴美の願いは叶うんです。

 ・・・晴美の願いって何でしたっけ?

 こうして、晴美は竜になりました。

衝動だけが奔流する

 どうして晴美はここまでしてネビュラソルジャーを倒さなければいけないんでしたっけ?
 美羽のカタキ討ちのためです。
 じゃあ、どうして美羽のカタキを討てば、美羽のためになるんでしたっけ?
 これは美羽の小瓶を取り戻すための戦いではありません。
 これは美羽に頼まれて始めた戦いですらありません。
 もし晴美がネビュラソルジャーに勝ったとしても、美羽は何も取り戻すことがないでしょう。少なくとも晴美はそういう何か具体的な利益のために戦っているわけではありません。

 いいえ。いいえ。いいえ。
 晴美は知っているんです。
 自分が勝てば、美羽は笑ってくれると。
 「わ、私、美羽ちゃんのカタキを取るから!」
 「・・・階級違うじゃん」
 「う・・・。でも、取る! 優勝する!」
 「・・・優勝?」

 遠いいつか。晴美は勢いに任せて意味のない約束をしました。試合に負けて落ち込んでいた美羽を励ますために。階級が違うから直接カタキを取ってやれるわけでもないのに、どうしてか美羽は“優勝”と聞いて興味を持ったようでした。だから晴美は彼女を元気づけるために約束を果たすことにしました。
 「一本! それまで」
 「・・・あはは。すっごい! 本当に優勝しちゃった!」

 それで、美羽はあのとき笑ってくれました。

 晴美が勝てば美羽は笑ってくれるんです。
 ネビュラソルジャーへのカタキ討ちにはちゃんと意味があります。
 ネビュラソルジャーに勝てば美羽の笑顔は取り戻せるんです。
 「私は、美羽ちゃんの前では負けない!!」
 だから晴美は諦めません。
 美羽にもう一度笑ってもらうには、晴美が強くなりさえすればいいんです。

 ・・・と、まあ、そんな理屈で彼女は強くなろうとして竜に行きついたわけですが。
 納得できますか? これ。
 私は全然。

 だって、普段の晴美を見るかぎり、彼女は本来戦いを好まない気質でしょう?
 幻像に映し出された理想はお姫さまになることでした。美羽王子に守られる側になることでした。この子は強い自分をむしろ毛嫌いしていたはずでした。
 それから、美羽の幻像は、晴美と同じ体格になって、晴美に勝利するというものでした。
 美羽が晴美の強さに憧れていたことは確かです。けれど、彼女の理想はそんな強い晴美と並び立つことにこそありました。だからヒーローの力を得てあんなに喜んでいたんじゃないですか。だから小瓶を奪われてあんなに絶望していたんじゃないですか。その力のおかげで胸を張って晴美の隣に立てていたから。

 美羽のためだといって、美羽を置いてひとりでどんどん強くなってどうしようというんですか。
 しかも自分自身は強くなりたくないくせに。
 いったい誰のために力を求めているんですか。
 カタキ討ち? ええ、けっこうなことでしょう。そこまではいいとしましょう。
 ではネビュラソルジャーを倒したあと、晴美は強くなった自分をどうするつもりだったんでしょうね。

 竜になった晴美は暴走しました。
 だって、何のために強くなりたいのか自分でもわかっていないんですもん。
 だって、強い自分が嫌いなくせに強くなろうとしたんですもん。
 美羽を笑顔にしたいという願いのために、なぜかこんな迂遠で、自分でも好ましく思わない選択肢をわざわざ選んじゃったんですもん。
 強くなればどうにかなるとばかり盲信して、強くなればどうなるのかをまったく考えていなかったんです。
 そりゃあ、行きつく先には“強さ”しか残りませんよ。

 晴美は本当に強くなるしかなかったんでしょうか?

そして幻像へと還る

 「――届いてるよ。サイキックを“心を伝えるために”使う。それが愛の進化への道さ」
 そういえばひょっとして銀子ってサイキッカーなんでしょうか。普段から何気なくテレパシーを使ったり空中浮遊したりしていますけど。
 まあそれはいずれわかるとして。

 「説得!? 相手は竜だぞ、無理だバカ!」
 「誰がバカだ! あれははるちゃんだ。竜じゃない」

 晴美を竜から――強さへの妄執から解放してやることができるのは美羽だけでした。
 だって晴美が竜になったのは美羽のためですから。
 それでいて美羽は晴美が竜になることを実は望んでいなかったわけですから。
 誤解も誤解。盛大な勘違い。思い込み。
 一度当人同士で話しあえば、むしろこんなの簡単に解決できる問題です。

 「美羽、ちゃん。――私、昔から大きくて。男の子より強くて。・・・怖がられてた。美羽ちゃんは私のこと、平気?」
 恐るべき竜の巨体に生身で飛び込んできた親友に向かってまだこんなことを言います。基本的にアホの子です。ヌケています。コンプレックスを抱いている人は往々にして視野が狭くなりがちです。
 「怖いわけないじゃん。はるちゃん、こんなにかわいいのに」
 コンプレックスを抱いていたのは美羽も同じ。だから彼女はあんなにも強さにばかり固執していました。親友の晴美と並び立てる人間になりたくて。・・・晴美は別に強さなんて求めていなかったのにね。
 「ありがとう・・・。美羽ちゃんは、強いね」
 美羽は晴美ともっと仲よくなるために強さを求めました。
 晴美は美羽の笑顔を取り戻すために強さを求めました。
 それってつまり、手段は“強さ”じゃなくてもよかったんですよね、本当は。
 彼女たちの本当の願いは“強さ”とは全然関係ないところにありました。

 自分で自分の望みを叶えるための最も効率のいい手段といえば、それはまあおそらく、自分のすべてをひとつの願いのためだけに一点集中させることです。
 けれどそんなのろくなもんじゃない。
 「弱くてもいいんだよ」(第2話)
 「誰もあなたを恐れていないよ」(第3話)
 ひとつのものばかり見つめていたら、こんな簡単な事実にすら気付けなくなってしまいます。
 願いを叶える手段なんて本当はひとつじゃないのに。

 「たぶん、私たちはもう戦わない」
 こうして美羽と晴美は愛の信徒となり、力を封印されました。
 美羽は胸を張って晴美と並び立てる自信を獲得し、晴美は美羽にかわいいと言ってもらえる自信を獲得しました。
 ふたりは今の自分に満足し、これ以上の力を必要としなくなりました。
 ネビュラ封印派の見せた幻像が現実のものとなったわけですね。

 もっとも、このあたりの描写を劇中でどう評価するかは制作者の価値観にも依るところであって、順当にこれを善いこととするか、ここからまたひっくり返して印象を反転させるか、どちらの展開もありえるんですけどね。
 ただ、個人的にはここまで完成しきったふたりの関係からこれ以上の「愛の進化」が望めるかというと、ちょっと怪しい気がするんですよね。わだかまりのなくなった親友同士では心を伝えるためにわざわざサイキックを使うまでもないというか。

 これ、龍造寺の理想にも同じことがいえるんですよ。
 「真の平和だ。侵略者駆逐の後、正義感の統一。価値観の統一。道徳の統一。倫理の統一。それらを――」
 「サイキックによる武力によって成す、か。世界征服じゃねえか」

 全人類の思想的統一。もしそれが成し遂げられたとしたなら、もはや私たちは誰とも対立せずに済むようになることでしょう。
 きっと私たちは力の進化を希求する必要がなくなります。そして同時に、愛の進化も。
 だってそうでしょう? 私もあなたも思想的に同一なら、あえて心を伝えあう意味なんて無いじゃないですか。
 それ、地球規模での進化の“封印”ということになりませんかね。
 竜造寺自身はネビュラと敵対しているつもりであったとしても。

 「私、強く・・・強くなりたいんです。ごめんなさい、私、戻ります!」
 「・・・。よし。俺も一緒に戻る。行こう、君は強くなれる」
 「なります!」

 私はやっぱり、こういう欠けた人たちが自分らしくなろうとがんばりつづける姿の方が好きだなあ。
 悪趣味といったらそれまでだけれど。

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