プラネット・ウィズ 第5話感想 愛の進化種族 < 黒井宗也 <<< 高天原のぞみ

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何も悔いることはない。

(主観的)あらすじ

 宗矢の記憶が戻っていたことが高天原のぞみにバレました。その気付きに至った推理を滔々と述べられた宗矢は焦って逃げだしましたが、のぞみに追いすがられました。しかし彼女はこのことで宗矢を追い詰めたいわけではありませんでした。彼女にとってもっと大切なことは宗矢が明日も変わらず学校に来てくれることで、そのために彼女は宗矢が打ち明けてくれたいくつかの突拍子もない真実も素直に受け入れ、信じようとしてくれるのでした。
 ネビュラウェポンに負けた根津屋はまるで心の火が消えたように人が変わっていました。邪鬼眼的言動はすっかり鳴りを鎮め、卒業後も入り浸っていたオカルト研究会との縁をすっぱり切り、そしてどこか遠くの町へ引っ越すのだそうです。あれだけ熱狂していた宗矢の記憶喪失への興味もきれいさっぱり失せたようで、未練なさそうに爽やかに去っていきました。
 銀子が言うには、ネビュラウェポンは人の願いを充足させる夢を見せるのだそうです。それによって満たされた心は何かを求めることをやめ、人としての進歩を止めてしまうのだと。
 組織として瓦解しつつあるグランドパラディンのなかで、龍造寺岳蔵は変わらず息子・龍造寺隆のために戦いつづけていました。息子に人望がないのはわかっていました。だからこそ、彼は何があっても肉親の自分だけは息子の味方でありつづけようと誓っていたのでした。亡き妻の幻像を前に彼は己が悔恨を確認し、しかし傷つきはしませんでした。ネビュラウェポン破壊後は間髪入れずネビュラソルジャーを倒しに向かいます。
 一方その息子・竜造寺隆は、これまで秘書として置いていた白石こがねがネビュラ封印派の手の者であることを明かされ、封印派のトップ・閣下とたったひとりで対峙していたのでした。

 白石こがねがキグルミ族の操者=サイキックだということは、同じ立ち位置にいる銀子も当然そうなんでしょうね。先生の元々の操者は銀子で、しかし今はその立場に宗矢を置いていると。サイキック能力は明らかに銀子の方が使いこなしているので、キーとなっているのはやはり“闘争心”の方ということなのでしょう。はて? 彼らは「力ではなく愛の進化を望んでいる」はずでは?

前置き(愛の進化種族について思うこと)

 「シリウスが滅びたのは私が彼らを救えなかったからだ」
 「違う! 彼らは闘争心の赴くままに、力の進化を遂げたからだ。ああなる前に封印すべきだった」
 「封印された種族は進化の道を閉ざされる。それは愛の進化種族の選択として正しいのか?」
 「・・・滅びるよりは、悲しくないさ」
(第3話)

 惑星シリウスの滅亡を前に、ネビュラ穏健派の先生は自滅する人々を救えぬ自分の無力を痛感しました。
 惑星シリウスの滅亡を前に、ネビュラ封印派の閣下は力の進化を止めるべきだったと確信しました。
 先生は封印派を批判しました。惑星の進化の道そのものを閉ざすことは、愛の進化を選んだ自分たちを否定するようなものだからです。
 閣下は穏健派を批判しました。何もできないからといって惑星が滅んでいく様を見守るだけでは、あまりに悲しすぎるからです。
 先生は穏健派として、地球という惑星の愛の進化の可能性を守ることにしました。惑星そのものが滅んでしまうリスクがあることを承知のうえで。
 閣下は封印派として、地球という惑星が滅ぶ悲しい運命を防ぐことにしました。この惑星に生きる人々を愛の進化種族の同胞にできない悲しみを承知のうえで。
 彼らは別々の道を歩みはじめました。元は同じ愛の進化の道を選んだネビュラの同志だというのに。

 どうして彼らの進む道はふたつに分かたれてしまったのでしょうか?
 決まっています。彼らは両方を選ぶことができなかったからです。惑星シリウスの存続と愛の進化、その両方を望んだときは、どちらも得られずに失敗してしまったからです。
 だから、せめてと、今度はどちらか片方だけを選ぶことにしたわけです。それぞれに。

 さて。もしあなたが彼らの立場だったらどちらを選びますか?
 穏健派。封印派。
 進化の可能性。惑星の存続。
 どちらを守って、どちらを諦めるか。

 律儀に選んでくれたあなたに聞きます。
 ――その選択に、あなたは満足できましたか? (ドヤッ)

二者択一の選択肢

 まあそんなわけでして。
 プリキュア脳の私としては穏健派も封印派も支持できません。
 こういう場合、プリキュアはどちらも選ばないからです。大人が子どもたちのために描いたキレイゴトの物語は、どちらかを諦めるだなんてしみったれた選択を良しとしないからです。子どもたちのためのヒーローはいつだって、そんな選択肢を強いる方がおかしいと、理不尽な出題者自体をぶん殴りに行くものだからです。

 なあ、おい。竜よ。
 「だが戻ってどうする」
 「はるちゃんに届くまでひたすら呼びかけます!」
 「やれやれ、マンガだな」
 「でも、虎居さんも好きでしょ。そういうマンガ!」
(第4話)
 マンガみたいな手段に屈した理不尽よ。

 だからキレイゴトを支持する私としてはネビュラの選択についてこう考えます。
 どちらかしか選べないのは、彼らが弱いせいではないか?

 「やっぱり! 記憶!」
 高天原のぞみはいつの間にか宗矢の記憶が戻っていたことについて知りたいと思いました。
 興味本位でした。
 けれど、その興味がもたらした結果は彼女にとって望ましいものではありませんでした。
 宗矢が逃げだしました。
 「待って! ・・・あ。ごめん!」
 のぞみには宗矢の記憶についての興味の他に、もうひとつ望みがありました。宗矢に毎日学校に来てほしい。
 けれど、彼女自身がそれが叶う可能性を壊してしまいました。記憶について触れられたくない様子の宗矢はこうして逃げだしてしまい、明日からはのぞみを警戒して学校にも来てくれなくなってしまうかもしれません。
 それは、イヤでした。
 だから。
 のぞみは宗矢にタックルをぶちかましました。

 だってそうするしかないじゃないですか。
 宗矢のことをもっと知りたいと思っていたことは本当で、それでいて宗矢に明日も学校に来てほしいというのも本当でした。その二者択一の選択肢をのぞみは選ぶことができなくて、というかその瞬間になるまで選択肢だと気付くことすらできなくて、なのに両方とものぞみが本当に望んでいたことなんですから。
 だから、彼女は諦めないことにしました。
 「その、ごめん! ・・・ごめん。興味本位に根掘り葉掘り勘ぐったりして。秘密にする必要があるんだよね。それなのに、私・・・。本当ごめん。黒井くんがまた学校に来なくなったらどうしようって思って。ついタックルまで」
 その力押しの結果は。

 一方、根津屋先輩はたくさんのものをいっぺんに失いました。ヒーローとしての力。生まれ育った町。家業の酒屋。オカルト研究会。記憶喪失とかいうカッコよすぎる属性を持った新しい友人。カッコつけのために借りていたドグラ・マグラ。邪鬼眼的言動。
 彼と彼の家族にそれらを守る力が足りていなかったからです。
 そうして心に秘めていた火を吹き消されてしまった彼は、諦めることを躊躇しなくなりました。
 まるで惑星シリウスを失ってしまったネビュラのワンニャンのように。
 彼は妹を安心させることを何よりも優先して選び、そのために自分が今まで大切にしていたものことごとくを諦めて、それで満足するようになりました。

 そして宗矢。
 「学校どうだった?」
 「まあまあ」
 「『もしよかったら地球に永住してもいいニャ』と、先生は仰っている」
 「・・・全部。全部復讐が終わってからだ」
(第3話)
 今、目の前に“穏やかな日常”と“復讐に邁進すること”の2つの道が掲げられている彼は。
 「――あの一発で世間は凍りついたね。・・・そしたら学校も閉鎖。みんなバラバラ。せっかく廃部を免れたオカ研もおしまいだ」
 “山にゃんこ様砲撃事件”によって、改めてそのふたつが二者択一の選択肢であったことを認識させられます。
 「えっ・・・。まあ、仕方ないか・・・」
 今さら仕方ないじゃありませんか。だってあのとき宗矢は復讐の方を選んだんですから。この穏やかな時間がどんなに居心地のいいものだとしても、宗矢は復讐を選ぶために自分でこちらを諦めたんです。

 だから、仕方ない。

「何も悔いることはない」

 そんなわけがあるものか。

 「い、一閃!? 遅れてやってきた光の戦士の爪が、巨大物体を一閃! 町は、町は守られました!」
 今話、宗矢は諦めていたもう片方に手を伸ばす機会を得ました。
 「――あ。あとひとつ、これ最後。・・・町を守ってくれてありがとう!」
 のぞみが、宗矢はそういう人だと決めてくれたからです。
 「え。ま、守ってないけど・・・?」
 「守ったよ。こないだ守ったじゃん、暴走した竜から町を。彼女は宗矢くんが侵略者だとは思わないんだね」

 彼女は宗矢に興味がありました。転校してきたときからずっと興味を持っていました。学校に溶け込もうとしない宗矢を放っておけなくて、なにかと世話を焼いて、たくさん心配して、いつも一緒にいようとしました。仲よくなりたいと思ってくれました。おそらくは地球に生きる他の誰よりも。
 だからこそ、宗矢が記憶を取り戻していたことに最初に気付いたのは彼女でした。
 彼女は宗矢が何と戦ってきたかを知りません。彼女は宗矢が何のために戦ってきたかを知りません。
 けれど彼女は知っています。彼はヘソ曲がりのフリして、本当は素直で優しいんだということ。穏やかな時間を喜んでくれて、街が壊されたら悲しいと思ってくれること。
 誰よりも宗矢に興味を持っていて、誰よりも宗矢を見ていて、誰よりも宗矢のことをよく知っているはずの彼女が、まるでマンガのヒーローを見るようなキラキラした目で宗矢に言うのです。
 「町を守ってくれてありがとう!」
 だったらそれは、きっと正しい。

 のぞみは二者択一の選択肢を迫られたとき、ふたつともを諦めなかった人物です。
 宗矢のことをもっとたくさん知ること。宗矢に明日も学校に来てくれることを約束させること。
 彼女は思いきってタックルして、その両方ともをつかみ取りました。

 そんな彼女が宗矢に味方してくれるんです。
 だったら宗矢も彼女と同じことができてもいい気がするじゃないですか。
 「仕方ない」と諦めてないで、目の前にあるふたつを両方ともつかんでみたっていいじゃないですか。
 「――俺は俺が味方したい人の味方で、俺が倒したいやつの敵だ!」

 そういう力押しのワガママができるのが地球人で、シリウス人で、力の進化です。
 強くなれば諦めずにすみます。だって、そもそも諦める必要が生じるのは自分の力に限界があるからです。
 だからみんな力を求めます。虎居のように強い後悔がある人や、美羽のように劣等感がある人、根津屋のように満たされずにいる人、晴美のようにやらなければならないことがある人ならなおさら。
 どうしても諦めたくないことがあるのなら、諦めずに強くなればいいんです。
 たとえば晴美はカタキを倒すことを諦めなかったから“竜”と呼ばれるほどに強くなりました。
 たとえばのぞみは目の前のことを諦めたくなかったから宗矢に追いすがり、彼の口を開かせました。

 たとえば宗矢は気に入りはじめていた友人や日常を守るために、復讐者でありながら同時に、町を守るヒーローにもなりました。

 愛の進化種族であるネビュラの先生や閣下には無い概念です。
 彼らは諦める種族です。
 きっと、だからなんでしょうね。先生が宗矢を必要としているのは。
 先生もこれ以上悲しい光景は見たくないから、結局“愛の進化”も“惑星の存続”も両方諦めたくないから、だから、宗矢の持つ可能性に縋ったんでしょうね。
 「あの子の力は有用だ。ネビュラ加入種族にはない、あの子の闘争心とサイキックが私の力を増幅してくれる」(第3話)
 どんな困難にも諦めずに食らいつく意志のことを“闘争心”といいます。

 さて。
 「勇気がほしい。あそこに飛び込む勇気が。――兄ちゃん。・・・うおおおお!!」
 「力を貸してくれ、栄子!!」

 はたして宗矢の闘争心は龍造寺岳蔵に届くのでしょうか。
 あちらはあちらで何かとんでもない“悔い”を抱えている様子ですが・・・。おう、いったいあの光景の誰に何があったら「何も悔いることはない」なんて話になるんだよコンチクショウ。

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