・・・いい子だ。そうだ、命はみんなのものだ。
今話のパーティメンバー
トレサ(バトルジョブ:盗賊)
オフィーリア(バトルジョブ:なし)
アーフェン(バトルジョブ:なし)
ハンイット(バトルジョブ:なし)
オープニングロール(=妄想)
「トレサ。私、スティルスノウへ行くわ」
トレサは置いていかれてしまいました。
ずっと一緒にいられると思っていた旅の仲間に。
トレサに向けて一言だけ声をかけたプリムロゼは、そのままひとりで酒場を出て行きました。
あまりに唐突なお別れだったせいでトレサの頭はごにゃごにゃになって、一拍だけ追いかけようとするのに遅れてしまいました。
我に返って慌てて追いかけるも、どうやらプリムロゼは迷いも躊躇もせずにまっすぐ街を出て行ったようで、ほんの一拍の遅れは永遠に取り戻すことができませんでした。
旅の荷も持たず他の仲間も放ってひとり街を出て行くわけにも行かず、どうしようもなくなって、トレサは一旦酒場に戻りました。
どうやら入れ違いになっていたらしいアーフェンが待っていました。
「悪い、トレサ。急いで西の方角にある森へ行きたい。隊商が魔物に襲われて全滅したらしい。もしかしたら間に合わないかもしれないが、できることならひとりでも多く命を救いたい。・・・トレサ?」
「・・・わかった。それなら、急がないとね。うん。急がないと。行こう、アーフェン。テリオンも、オフィーリアさんも」
心に整理がつかないまま、トレサは黒き森と呼ばれる地へ出発しました。
(主観的)あらすじ
ハンイットは黒き森の狩人でした。今では稀少となった魔物を使役する業を身につけ、雪豹・リンデとともに狩人たちの隠れ里を守っていました。
彼女は実直な人物でした。常に村のことを考え、日々若い狩人たちに稽古をつけてやり、森に厄介なはぐれ者が迷い込んだときは率先して狩りにあたっていました。
彼女は森の一部でした。生も死も自然の営みの一部として捉えていました。生きることは己が糧としてきた他の命たちに対して責任を負うことであり、死ぬことは森に棲まう者たちを生かし育むための糧になることだと考えていました。
そういう教えを授けてくれた人を、彼女はもう1年も待ちつづけています。
高名な狩人・ザンター。ハンイットの師。魔狼・ハーゲンを従える魔物使い。飄々とした態度の遊び人。それでいて周囲からの信頼篤く、今回も聖火騎士団からの依頼で“赤目”という魔物を狩るために森を出ていました。
筆無精の師匠は1度しか手紙を寄越しませんでしたが、便りのないのは良い便りと信じ、ハンイットは師匠の帰りを待ちつづけていました。
しかしある日、師匠の相棒であるハーゲンが1匹だけで村に帰ってきました。ひどく怯え、混乱している様子でした。
これは師匠に何かあったに違いない。ハンイットは待ちつづけることを止め、自分の方から師匠を探しに行くために旅立ちます。
ギザルマ狩りって、ただハンイットの死生観を紹介するためだけにあるエピソードなので、物語の流れとしては必ずしも言及する必要がないのよね。・・・と、思ってあらすじからばっさり省略したら、今度は自分のロールプレイログとつながらなくなったという。まあいいさ。
体験版のころからハンイットはアーフェンと絡ませると面白くなりそうだなあと思っていました。
それこそ死生観が根底から全然違っているので。
だからハンイットを仲間にしに行くときは絶対アーフェンを連れていこうと決めていました。トレサ起点で南回りのルートを選んだのは8割くらいこのためでした。
・・・なんか脳内プリムロゼがいきなりシリアス展開をはじめちゃったせいで、今回そのあたりの話をする余裕がなくなっちゃいましたけどね! だいたい全部方向音痴が悪い。
守破離の守
ハンイットは師匠のことが大好きなんですね。
「珍しい。師匠が素直に時間がかかると言うとは。“赤目”とはそれほど手強い獲物なのか。それともこれはただの寄り道の口実・・・?」
「いや、たしかにいいかげんで調子が良くて軽い人だが、やると言ったことは必ずやり遂げる。――そういう人だ」
「ああ。そうだな、リンデ。私は師匠に任されたとおり、村の狩人の役目を全うするのみだ」
彼女は師匠のことを信じていました。
狩人の腕を。言の誠実さを。言いつけの正しさを。そして、いつか必ず帰ってきてくれることを。
いいかげんで調子が良くて軽いけれど、絶対に信じられる人だと思っていました。
それから1年経ちました。
ハンイットはそれでも師匠を信じて待ちつづけました。
たとえ便りが来なくとも。たとえ師匠らしくない長丁場だとしても。たとえ時折不安に駆られようとも。
それでも、これまで師匠は正しくて、師匠の教えを守ってさえいれば無事に暮らすことができていました。だから、今回もきっとそう。
「草を食べる獣を、肉を食べる獣が食べる。その肉を食べる獣も、より強い獣の糧となる。そして、強き獣も死ねば他の獣たちの命をつなぐ糧となる――森に棲まう者みんながつながっているんだ」
「いいか、ハンイット。俺たち狩人は命を狩るのが生業だ。だから絶対に忘れるな。どんなときでも絶対に生きぬけ。それが生き残った者の責務だ」
凶暴な外様の獣が森を荒らしても、やはり師匠の教えは正しく当てはめることができました。
師匠の教えを受けたハンイットが生きているかぎり、ハンイットは森の秩序を守りつづけることができます。理から外れた者が現れても、理の内側へ戻してやることができます。
余談ですが、元来森とはそういうものでした。
獣は狩人に管理され、樹木は木こりに管理され、地盤すらも土方によって管理され、おおよそ人里近くの森で人の手の加えられていないところはありませんでした。森とは“自然”のものではありませんでした。
人の手の届かない森は神様の領域として自然のまま置かれていましたが、実際のところ、獣と草木がより多く繁栄していたのは人の手の入った森の方でした。“自然”の森はむしろ実りが少なく、あげく土砂崩れや山火事といった災害の温床ですらありました。だからこそ人の力の及ばない、理不尽な神様が荒れ狂う領域として畏怖されてきたのですが。
有史以来、森を豊かにしてきたのは常に人でした。人のいる森にはたくさんの動物や植物が集まりました。人の英知によって秩序が守られていたからです。
元来、人は森とともに生きる一員であり、同時に管理者でした。
・・・本当に余談だな。
「お前の命を糧とさせてもらう。全てを奪いはしない。お前もこの森の糧となる。そうやって、他の命をつないでいくのだ。・・・いい子だ。そうだ、命はみんなのものだ」
ハンイットが生きているかぎり森の秩序は守られます。もしハンイットがいなければギザルマの蛮行は止まらず、森は弱っていったことでしょう。
さて。では、ザンター師匠がいなくなってしまったら? そのとき、ハンイットの胸に息づいている彼の教えはどうなるでしょうか。
ハンイットは師匠の教えを守りつづけてきました。だって、師匠はいつだって正しかったからです。
師匠への信頼がそっくりそのまま教えの正しさを保障してくれていました。
・・・もし帰ってくると言っていた師匠が帰って来なかったら、ハンイットはそれでも彼の教えを信じられるのでしょうか?
「師匠が危険な状況にある。それは間違いない。・・・ならば、助けなければ。師匠は私にとって唯一の――」
ハンイットは師匠を助けるために旅立ちます。
師匠を助け、教えを守り、自らの依って立つ理の確かさを信じるために、旅立ちます。
エンディングロール(=妄想おかわり)
「・・・いいなあ」
旅支度をするハンイットを見ながら、小柄な商人の少女が不思議なため息をつきました。が、どうやら彼女にとって相当に迂闊な言葉だったらしく、すぐに頭を振ってハンイットに謝罪してきました。
「ごめんなさい!」
「いったいどうした。わけがわからないぞ。・・・ひょっとして、お前も帰りを待っている者がいるのか?」
「いえ。・・・そういうわけではないんですけれど」
そう言いながら、少女はまたひとつため息をつきました。当たらずとも遠からず、といったところでしょうか。
「会いたい人がいるなら会いに行った方がいい、のかもしれない。私は1年待ったが会えなかった」
そう。師匠は帰ってきませんでした。だから探しに行くと決めました。
「でも私・・・置いていかれたし」
「・・・もしかして。トレサさん、あの女性のかたに嫌われたと思って、だからずっと落ち込んでいるんですか?」
もうひとり傍にいた、聖火教会の女が得心したように言いました。
「嫌われては、ないと思う・・・。だって、プリムロゼさんが何をしに行ったのか、私知っているもん。私なんかじゃ入っていけない大切なこと。プリムロゼさん、すごく重たいものを抱えているから、それで――」
「違いますよ、トレサさん。だって、あのかたはトレサさんが来るまで出発を待っていらっしゃったじゃないですか。私はあのかたのことをよく知りませんが、たぶん、その気持ちならわかります。たぶん、ですけどね」
ふと、ハンイットの脳裏に1年前の何気ないやりとりが思い起こされました。
「ふむ。やはり事情はよくわからないが――私の師匠も村を出る前に似たようなことを言っていたな。『かわいい弟子の顔を見てから出発しようと思ってな』だったか。まったく、気恥ずかしいことだ」
だが、その言葉を嬉しいとも思ったものだ。ハンイットは小さく笑いました。
「しかし、なるほど。私はもっと早くに出発した方がよかったのかもしれないな。いや、出発してもよかった、ということなんだろうな・・・」
「さて。トレサといったか。ささやきの森の異変に駆けつけてくれた礼もしたい。あまり遠回りになりすぎないようなら私も手伝おう。同じ“置いていかれた”者同士だしな」
もっと早くに出発してもよかったのかもしれないが、不思議なものだ。待っていたからこそ出会えた縁もある。これはこれでよかったのかもしれないと、ハンイットはそう考えることにしました。
「トレサ。お前はどうしたい?」
ハンイットのよく鍛えられた右手がトレサの前に差し出されました。
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