さよなら、アリアナ。
今話のパーティメンバー
トレサ(バトルジョブ:盗賊)
プリムロゼ(バトルジョブ:神官)
ハンイット(バトルジョブ:なし)
オフィーリア(バトルジョブ:なし)
オープニングロール(=妄想)
トレサはプリムロゼを追いかけてスティルスノウの村にたどり着きました。
おそらくプリムロゼは父親のカタキを討つためにこの村に来ているはず。トレサは知っているかぎりの情報を旅の仲間に打ち明け、助力を願いました。仲間たちはそれぞれに情報収集にあたり、そしてテリオンが彼女のカタキ――左腕にカラスの入れ墨がある男の所在を突き止めました。
かの男は“黒曜館”という娼館の支配人をしているそうです。ならば、プリムロゼも必ずそこに現れるはず。
娼館行きの秘密の馬車はすでに村を出たあとでした。プリムロゼの所在はまだつかめていません。彼女の身を案じるなら、次の便など待ってはいられませんでした。ハンイットの魔物たちに馬車の匂いを辿らせ、雪の降り積もる夜、トレサたちは黒曜館にたどり着きました。
娼館のなかはすでに騒然としていて、あちこちから男性客の怒号や娼婦たちの悲鳴が飛び交っていました。・・・どうやら、急いで正解だったようです。
「プリムロゼさん! プリムロゼさん――!!」
彼女の性格からすると返事をくれる可能性は低いように思えましたが、それでも叫ばずにはいられませんでした。
娼館の奥にいたひとりの娼婦がトレサに向かって何か言いながら、奥まったところにある大きな扉を指差しました。
(主観的)あらすじ
プリムロゼは劇場支配人から得た手がかりをたどり、雪深き小さな村・スティルスノウに来ていました。さほど裕福そうには見えない寒村ながら、村の中心に舞台付きの大きな酒場が建てられているのが不思議でした。
プリムロゼはその酒場の舞台を借りて得意の踊りを披露し、酔客たちからの歓心を得ながら左腕の男の情報を探りました。求めていた情報が手に入らず落胆しましたが、酔客たちが解散したころ、ひとりの女性がプリムロゼの所に近寄ってきました。プリムロゼはその顔に覚えがありました。彼女はアリアナ。プリムロゼの生家・エゼルアート家に勤めていた侍女でした。
ひとしきり再会を喜びあったあと、プリムロゼは彼女にも左腕の男について聞いてみました。サッと顔色が変わるアリアナ。彼女は場所を移し、知っていることを話してくれました。エゼルアート家がなくなり、行き場を失った彼女は現在娼婦をしているそうです。そしてその娼館の主こそが左腕にカラスの入れ墨がある男であると。
プリムロゼは彼女に案内を頼み、娼婦たちに紛れて娼館へ向かいました。
ふと、父の教えてくれた家訓が頭に浮かびます。
“己を信じ、貫け”
自分が今信じるもの、今為すべきことは――。
繰り返し繰り返し自分の胸に問いかけながら、父の形見でもある家訓が刻まれた短剣を抱いて、プリムロゼは左腕の男のもとへ向かいます。
はたして左腕の男はプリムロゼと何合か打ちあった後、短剣に胸を刺し貫かれて致命の傷を負いました。
左腕の男は嘲笑うようにして「故郷へ行け」と言い残し、そのまま絶命しました。そこに真実があると。
プリムロゼは再び旅立ちます。己が身にたったひとつ残された、為すべきことを為すために。
私に百合属性はない旨をあらかじめ主張しておきます。
そして次の目的地がやたら近いことに愕然。話の流れ的にこればかりは行くしかないじゃないですかー! 推奨レベル40だけど! トレサのレベルまだ27しかないんだけど!
聖火教会の聖地の近くに娼館をつくったということは、劇中に出てきたような教会関係者の他、大陸じゅうから訪れる巡拝者たちも顧客にしていたんでしょうね。こうなると段々に巡拝の主目的が大聖堂ではなく娼館の方に遷っていって、特に巡拝経験がステータスになりやすい遠隔地の有力者とは効果的に顔つなぎができるようになる、と。やだやだ。
教会的には有力信者からの寄付収入をまるごと奪われかねない大問題な気がしますが、オフィーリアはパーティチャットでも特に反応を示していませんでしたね。なにせトレサ(「しょうかんって何?」)と1歳しか離れていませんもんね。(そういう問題じゃない)
貫くこと
「“己を信じ、貫け”――プリムロゼ様は何を信じるのですか・・・?」
アリアナの問いにプリムロゼは答えをはぐらかしました。
左腕の男相手には復讐こそがたったひとつの信じるものだと主張していましたが、おそらくプリムロゼ自身もわかっているのでしょう。この復讐を為し遂げたところでプリムロゼに帰るべき場所はありません。この復讐はプリムロゼに何の益ももたらしません。けれど為さずにはいられません。そんな破滅的な信念は誰にも理解されることがないでしょう。
だから、彼女は自分ひとりだけで信じることにしました。
“己を信じ、貫け”
エゼルアート家の家訓はそんな孤独な信念に貫徹の力を宿す魔法の言葉です。
汚名を着てでも正しいことを為したという先祖の伝説が、プリムロゼの正義と成功を保障してくれるのです。
誰にも理解されずとも、自分ひとりさえ信じつづけることができれば、為すべきことは必ず為せる。
極限まで細く、何よりも鋭い。まるで薄刃のように研ぎ澄まされた生き様ですね。
ですが、そんな彼女の生き様を哀れんで、彼女に暖かく接しようとしてくれる人は確かにいるんです。そして彼女自身の行いもまた、結果的には彼女たちに友誼や救いを与えてまわるのです。
たとえプリムロゼが自ら進んで孤独に堕ちていこうとしても、向こうの方から勝手にプリムロゼに惹かれて集まってきます。
アリアナがそうでした。それから、ユースファもそうでした。私の脳内ではトレサもそうです。もしかしたら彼女に『誘惑』された人々のなかにもそういう人は何人かいたのかもしれませんね。
孤独になりきれないことはプリムロゼにとって何らかの救いになりうるのでしょうか。
それとも彼女は死の瞬間まで孤独を貫くのでしょうか。
救われてほしいなあと、私は望みます。
エンディングロール(=妄想おかわり)
アリアナの見送る姿が見えなくなったころ、ふいにプリムロゼが背中からトレサに抱きついてきました。トレサは大きな背嚢を背負っていたので、正確には背嚢を抱きかかえるようにして両手のひらだけがトレサの首もとに触れていました。
その手のひらがなんだかゾッとするほど冷たくて、まるでおとぎ話に出てくる雪の女王みたいだと、トレサは思いました。
「ねえ。どうして来たの?」
ぽつり。プリムロゼが問いかけます。
「・・・プリムロゼさんのことが好きだからです。優しくて。なのに瞳がどこか遠くを見ている気がして。それがきれいで。だから、迷惑かもしれないけど、私がプリムロゼさんのことを助けたくてここまで来ました」
「そう――」
トレサが一生懸命考えて出した答えに、プリムロゼは一言だけ返しました。
「・・・行くんですよね?」
「・・・行くわ」
プリムロゼの指先が一瞬ビクリとこわばるのがわかりました。
「今度は一緒に行きますから」
プリムロゼは何も言いませんでした。
トレサの背嚢に顔を埋めて、呼吸3回分の間だけ、しばらく足を止めました。
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