ぐらんぶる 第4話感想 汚いハート・フォー・ユー。

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面白いもんを見せてやる。

(主観的)あらすじ

 伊豆春祭です。いえー。祭となると脳みそにヤシの木が生えるヤカラが多いのか、美人揃いのPeek a Boo女性陣はしょっちゅうナンパされっぱなし。特に千紗は始終不機嫌です。さらにミスコンでの緊張をほぐしてやろうと伊織が衆人環視のもとスカートめくりを決行したおかげで、恐るべき羅刹へと変貌を遂げるのでした。
 一方伊織たちはテニスサークル・ティンカーベルに所属するヤマンバのごとくケバい女に絡まれていました。イケてるカレシをつくってのバラ色の大学生活を夢見ていた彼女は彼女なりに一生懸命イメチェンしようとしていたのですが、サークルでさんざんピエロのごとく扱われたあげく、「もう充分笑ったから帰っていいよ」と冷たく追い払われてしまったそうです。変わるための努力を無碍に扱われて悲しむ彼女のため、伊織は少しやる気を出します。
 ちょうどティンカーベルの会長が男コンに出場していました。伊織は耕平と組んで一芝居打ち、“会長は女装した変態にマジ告白したバカ”というように演出して、彼を会場の笑いものに仕立ててやりました。「もう充分笑ったんで帰っていいですよ」と言うのも忘れずに付け加えて。
 こうして伊織はケバ子(仮名 / 20歳)の溜飲を下げ、ついでに念願の男コン優勝も果たしました。けれど一方で千紗としては面白くありません。千紗は伊織のためにミスコンに出て、連帯責任で伊織にも男コンに出場させたというのに、伊織は千紗ではなく他の女のためにがんばったのですから。その鬱憤はナンパよけがてら伊織をカレシとして公言することで晴らされるのでした。

 私の感覚ではここからが『ぐらんぶる』のエンジンスタート。ラブコメ要素も大きいですが、これまで先輩たちに人生観(と酒)を教えてもらう側だった伊織が、ここからは他人の心をふるい動かす側にも立っていくことになります。そこが変わるのがまず大きい。
 伊織はケバ子に惚れたから彼女の味方をしたのではありません。ティンカーベルが気にくわないから会長を貶めたわけでも・・・いや、それは大いにありますが、それ以上に伊織は他人の大学デビューを笑われたことに腹を立てたのでした。彼はそういう人物です。自分が本気でバカやっている分、他人の本気の挑戦にも敬意を払い、他人の本気を本気で応援してやれる人物です。自他の分別がつかない子どもっぽい思考といわれるとそれまでですが、そのくらいでなければ汚いプリキュア(私しか呼んでない)はやってられません。
 ところで話は変わりますが、千紗のスカートをめくったスーパーボール、あれ回転の向きが逆だと思うの。逆回転でバウンドさせなきゃ離れた客席から投げたボールであんなうまいことスカートの前側をめくることはできないと思うの。(重箱のスミ) 実際、小学校でスカートめくりを企てていたクソガキどもはそりゃあもう熱心に投げ方を研究していたもんさ。(私はやってない)

羅刹

 千紗はミスコンなどに出場するガラではありませんでした。
 「なんかトゲトゲしい感じだな」
 「あれは怒ってるのか?」
 「いやあれ緊張してる顔だ」
 「不器用だな古手川」

 だからイヤだったんです。自分はこういうところにいるようなキャラじゃないから。
 周りは美人だとかかわいいとかよく言ってくれますが、致命的に愛想に欠けていることは自分だって重々承知です。

 「所属サークルとお名前をどうぞ!」
 「Peek a Booの古手川千紗です」
 「ご趣味は?」
 「ダイビングです」

 面接か。
 これが古手川千紗です。本当は着飾るのもイヤでした。ステージも、衣装も、自分には似合わないことはわかっていたから。
 伊織やPeek a Booのメンバーが期待してくれたからしぶしぶ出ることにしただけです。
 しぶしぶです。しぶしぶ。
 けれど期待されていることは優勝で、ただ参加することだけではありませんでした。
 姉たちがおめかししてくれるのも、伊織たちが応援してくれるのも、本当ならそのためにありがたいことです。
 けれど、ほら、やっぱりそこまでしてもらう必要なんかなかったんです。どうせ自分が全部ダイナシにしてしまうんですから。
 だから、イヤだったんです。

 だからといってスカートめくりは最悪でした。
 「違うんだ、千紗! あれはお前の魅力を引き出すためで、つまりかわいい千紗を見せたいという――」
 優勝を期待していた伊織がそういう手に出るのは気持ちとしてはわからないでもないですが、だからといってヨゴレも自分のキャラではありませんでした。だからといって結局千紗のキャラのままではどうやったって優勝なんてできなかったでしょうけれど。
 だから。
 「あー。もういいわ。貸しにしとく」
 千紗のキャラを崩してくれた伊織のスカートめくりは正解でした。ふざけんなって感じですが、気持ちのうえでは理解できます。
 元々今回は自分のためではなく伊織たちのために出場したんです。彼がその目的のために自分を最大限うまく使ってくれたのなら、それはそれで間違っていません。
 だから、あのとき自分のキャラを崩してくれたことに、千紗はそこまで文句はありません。

 「マジか、ありがとう千紗! お礼に今度もうちょい色気のある下着買ってやるからな!」
 ・・・だから、ミスコンと関係ないところでのセクハラには容赦しなくていいよね?

ケバ子

 「ねえ、あんた・・・私とつきあってよ」
 ケバ子が当初耕平に色目を使っていたことに大した意味はありません。
 単にケバ子がイケメンをカレシにしたいと思っていて、たまたま耕平が美形だったからにすぎません。

 「テニサーだっちゃそうたい。イケメンぞろいやけん入ったっちゃん。カレシばつくったら幸せになれるけん。本で見たごたバラ色の大学生活たい」
 少女マンガだったり恋愛小説だったりの主人公のカレシになる人は大抵イケメンです。イケメンで、みんな最後には主人公のことを幸せにしてくれます。女性誌でもちょいちょい「どうせならイケメンの方が色々得する」みたいな記事を出してきます。
 ケバ子はこう見えて実に乙女チックな夢見がちガールなので、そういう胡乱な話もだいたい鵜呑みにしてしまいます。
 だからティンカーベルに入会しました。ティンカーベルではダメそうなことが薄々わかってきたので、今度は耕平にもモーションをかけてみました。
 「イケメンのカレシがほしい」というと字面はかなりアレですが、彼女は本気でした。
 それが大学生活を幸せなものにできる条件だと本気で信じていました。

 独学で見よう見まねの化粧を覚えて、入ったこともないようなショップで服も買ってみて、典型的な大学デビュー。それが大失敗。
 でも、まあ、それならそれでもいいさ。物語の主人公だって最初は失敗するものだし。自分でも何か間違っていると薄々気付いていたし。
 「最初はネタ扱いでもいいと思ってた。仲よく楽しくできるならそれでもって」
 楽しそうな周りのみんなを見習ってもっとがんばれば、今度こそカレシをつくれるかもしれない。今度こそバラ色の大学生活を送れるようになるかもしれない。
 キョロ充だっていいさ。それでも変わる前の私からしたらずっと変われてる。ずっと努力できてる。ずっと憧れに近づけてる。
 「もう充分笑ったから帰っていいよ」
 だけどもし、それが全部まやかしだったとしたら?
 がんばることに意味なんてなくて、生まれたときのキャラのままずっと、一生自分のポジションは変えられないんだとしたら?
 「やっぱり無理に変わろうとするんじゃなかった。結局私は何をしても笑われる側で、あいつらは笑う側なんだ」
 バラ色の大学生活なんて、しょせんは違う世界の出来事。絵空事のおとぎ話。

 伊織はその絶望に覚えがありました。
 「ダイビングに興味は?」
 「ありますよ。でもやる気はありません。俺、泳げませんから」
(第1話)
 泳げないのならダイビングなんてもってのほか。
 多少面白そうに見えたところで、はじめから自分には関係ない世界ならどうでもいいと諦めていました。
 けれどPeek a Booの先輩が教えてくれたんです。
 「ははは。さてはお前、国語が苦手だろう。だって“やりたい”か“やりたくない”に、“できる”“できない”で答えるなんて」(第1話)
 今できていないことは、これから挑戦することには何の関係もないんだと。
 彼らはしぶとく伊織を勧誘し、熱心にひとつずつ教えてくれました。伊織にがんばることを促してくれました。
 そして、彼らのおかげで伊織は知ることができました。
 「千紗! わかったよ、お前が言ってたこと! 海のなかで息ができるってすごいな! 俺全然泳げないのに! これが――新しい世界に触れるってことなんだな!」(第3話)
 がんばっていればいつか自分を変えられる。いつか憧れていた世界にも飛び込めるようになると。

 ケバ子はかつての伊織でした。
 だから、昔の自分が間違っていたことを知っている今の伊織は、その絶望を絶対に否定してやらねばなりません。
 あのムサ苦しい(ときどき見目麗しい)先輩たちのように。

 「いいか、伊織。お前は食わず嫌いが多いように思える。やったことがないのに文句を言っているんだから」
 「それは良くないな。やったこともないのに『全裸で公道を走るのは良くない』などと」
(第1話)
 「何言ってんだ。人を笑うだけ、笑われるだけなんてやついるわけないだろ」

 「違うよ。誰だって最初は泳げないし、魚にも詳しくないもの。だからまずは単純に感じ取ってほしいな。なんにも難しいことなんて考えないで、頭を空っぽにして、こういう、水のなかの世界を。・・・すごいでしょう?」(第2話)
 「面白いもんを見せてやる」

若者たち

 「な、笑えるだろ」

 こうしてケバ子の努力の価値は守られました。「世のなかに無駄な経験なんてものは存在しない」(第1話)とはよくいったもので、会長のあの滑稽を見たあとではティンカーベルでの経験もそれなりに笑える想い出で、自分にもバラ色の大学生活は送れると、また信じられる気がしました。
 「なによ。私と一緒に飲みたいなら素直にそう言いなさいよ」
 とりあえずはまあ、コイツあたりがイケてるカレシ候補ということで。

 そっちがなんだかいい感じムードを漂わせている分だけ千紗の方はちっとも面白くありませんでした。
 こっちだって今回相当がんばったのに、伊織がしてくれたことといえばスカートめくりくらいでした。むしろサイアクじゃねーか。
 別に褒めてもらいたかったとか、嫉妬とか恋愛感情がどうとか、そういうわけではありません。千紗の場合は身内と認識した相手に対して甘えグセがあるだけです。自分が相手のために何かしたなら、向こうからも同等以上のことを自分のためにしてほしい性格なんです。有り体にいえば構ってほしいタイプなんです。

 ならば、よろしい。
 向こうがミスコン優勝のために好き勝手なことをしてくれたのだから、こちらにだって好き勝手なことをする権利はある(はずだ)。
 「この喜びを誰に伝えたいですか?」
 「はい。そうですね。そこの酔い潰れている、私のカレシに伝えたいです!」

 これでこちらは何もしなくとも向こうは自分のために苦労せずにはいられません。

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