謎は、解き明かさなくてはならない。
今回のバトルメンバー
トレサ(バトルジョブ:学者)
サイラス(バトルジョブ:なし)
オープニングロール(=妄想)
「お金がないっ!!」
トレサは天を仰いで嘆きました。
トレサたちは学問の都・アトラスダムに来ていました。
治安の良い街でした。街をぐるっと囲むようにした城壁は見上げるほどに高く、また、街の要所要所に立っている衛兵たちもよく規律が守られていました。あちこちで子どもだけの集団が賑々しく遊びまわっているところをよく見かけました。徹夜明けと思しき学生が弛緩しきった空気を纏わせてうろついている姿も何度か見かけました。街の大きさの割になんとものどかな光景でした。
ここ最近気を張ることが多かった旅の仲間たちも街の様子を見て骨休めを決め込み、テリオンと待ち合わせの約束をしている酒場に入り浸っては、昼から酒を飲んだりカードに興じたりしてのんびり過ごしていました。
ただ、トレサだけはそういうわけにいきませんでした。
気がつけばしばらくろくに商売していませんでした。ひとつの街に長く滞在することなく次々渡り歩いていたため、路銀が財布を圧迫していました。そろそろ何か手堅い商品を仕入れなければ行商が立ちゆかなくなります。
学問が活発な街だと聞いていたので、とりあえず写本を物色してまわりました。ところがこれが思っていた以上に高価で、装丁の良いものだと馬車が買えるほどの値がついていました。質の悪い粗末な中古本ですら、1ヶ月は不自由なく暮らせる量の銀貨が必要でした。
とりあえず、今のトレサのお寒い懐事情で取り扱える商材じゃないことだけはわかりました。
「そもそもアトラスダムでは全般に本が高価なのですよ」
天を仰いだトレサの頭よりさらに高いところから、優しげな男性の声がしました。
見ると、いつからいたのかトレサの隣に長身の男性が立っていました。特徴的な外套を見るに、どうやら学者のようです。
「ここフラットランド地方は農地に事欠かない平原地帯であるため、早くから余暇の時間が発生し、そのためいち早く学問が発展してきたわけですが――その一方で、平原国ゆえに外敵の侵略に弱く、8部族が相争っていた時代には略奪も頻繁に起きていました。その経緯から、この地域では昔から財産の保護意識が強いのですよ。あの高い城壁もその一環です」
「だから、“知識”という財産も国の外にはあまり出したがらない・・・?」
財産に例えてもらえたおかげで、トレサにも彼の言わんとすることがなんとなく理解できました。
「正解です。より正確には『国の外に』ではなく『自分の書庫の外に』といった感じですが」
学者の男はトレサに向かってにっこりと微笑み、そのままどこへか歩きはじめました。その間も同じ調子で辻授業を続けるものですから、トレサもそのまま彼の後ろをついて歩きました。
「――羊皮紙は高価ですが扱いやすいという利点もあり、学生が写本をつくるときは好んで使う者が多いようです。若い学生は書き損じるものですが、羊皮紙なら表面を削るだけで修正できるので・・・」
急に周りが暗くなったのでトレサはランタンを点けました。
「――ストーンガードで生産されている“紙”という素材は安価で丈夫です。これがもっと普及すれば誰もが気軽に本を買えるようになるでしょうが、残念ながら紙は輸送費が高く、現在のところ・・・」
たまに魔物が襲いかかってくるようになったので、トレサは適当にいなしながら歩き――。
「って、どこよここ!?」
「おや、先ほどの商人どの。どうしてこんなところにまで? もしやあなたも本盗人に興味がおありで?」
前を歩いていた学者がきょとんとした顔でトレサの方を振り返り、本気で不思議そうな声でわけのわからないことを言いました。
(主観的)あらすじ
サイラス・オルブライトは王立学院に仕える学者でした。学生からの評判は非常に高く、城に招かれて王女の教師を務めるほどでした。反面、研究者としては学問の自由な普及を望む考えかたが学長と折り合わず、なかなか認められずにいました。
ある日、サイラスは王立図書館特別書庫の蔵書が数冊紛失していることに気がつきました。彼はこの事件に大いに好奇心を刺激され、周りに「それは衛兵の仕事だ」とあきれられながらも自ら真相を探ることにしました。
事件の犯人はひとりの学者でした。ギャンブル癖のある彼は生活に困り、図書館の貴重な蔵書を盗み出しては金に換えていたのでした。
事件を解決したサイラスは学長に呼び出されます。案の定、事件を解決したことへの賞賛などではなく、まったく別の厄介ごとでした。
サイラスに王女を手込めにしているという密告があったとのことです。彼を恋慕していた女子学生が彼を王女から引き離そうと企てた、根も葉もないまったくのデタラメだったのですが、学長はこの機会を利用してサイラスを学院から追放してしまう算段でした。
ところがこれはサイラスにとっても案外悪くない話でした。貴重な知識を秘匿したがる学長のもとでは自由な学問は望めないこともあり、この機会に一度王都を離れてみようと考えるのでした。ちょうど図書館で“辺獄の書”という貴重な書物の話を聞いていたこともあり、彼はその本の行方を追いながら大陸中を旅することに決めました。
うん。私がサイラスみたいなキャラを動かすとこうなるとは思ってた。
ちなみに全部公式設定ではない私の思いつきなので本気にしないでください。
それと意味もなくバトルメンバーを減らしていますが、難易度的に余裕だからということで本当に意味もなく減らしているだけなので気にしないでください。
好奇心という怪物
サイラスの第1章はハンイットと同様、中心となる事件は旅立ちと直接関わりなく、彼の人となりを紹介するためのエピソードでした。
言ってしまえばサイラスは変人です。『オクトパストラベラー』8人の主人公のなかでもいっとう図抜けた変わり者です。
「それは学者ではなく守衛のお仕事だと思いますが」
真っ当なツッコミをもらっても知らん顔。
「それでしたら追放はいかがでしょう」
「なるほど! それは妙案だ」
露骨な悪意もどこ吹く風。
「・・・先生はいつもメアリー殿下ばかり見ているでしょう。私だって、もっと」
恋する乙女のねじくれた慕情も理解しない朴念仁。
もはやニブいどころの話ではありません。この人はただ単に他人に興味がないだけです。表面上は会話が成立しているように見えますが、その実、彼は他人から自分がどう見えているかにまったく興味を持ちません。きわめてマイペースにあらゆる物事を自分の価値観のみで解釈しようとします。だから悪意は堪えませんし、逆に好意にも気付かないわけですね。
彼が愛するものは2つ。知的好奇心と、それから自由。
とはいえ好奇心を好きなとき好きなだけ満たすために自由が必要であるという考えかたなので、実質的には万事が好奇心に直結しています。ある意味分かりやすい人物ですね。
フィールドコマンドの『探る』が邪道扱いになっているの、コマンドの性質じゃなくてサイラスが空気読まなすぎるだけでしょ絶対。
サイラスは一冊の本の謎を追って旅立ちます。
その思いは好奇心と自由への渇望がごちゃ混ぜになっていて、他人からは彼の考えていることが今ひとつ読み切れませんが、彼自身は結局のところひたすら好奇心に突き動かされて旅立ちます。
エンディングロール(=妄想おかわり)
「・・・ふむ」
サイラスと名乗った学者の男と別れて暫し。トレサは考えをまとめながら職人通りへ向かっていました。目当ては羊皮紙工房や写本工房です。先ほどの辻授業を聞きながら、ちょっとしたアイディアを思いついたのでした。
「なるべく若い職人さんがいる工房がいいんだけど・・・」
目当てのものは思いのほか安く、量もたっぷりありました。ちょうど帰りが遅くなったトレサを探してアーフェンとサイラスが近くに来ていたので彼らにも持たせ、たっぷり仕入れることができました。
――リプルタイド。
アトラスダムから南進したトレサは一度自分の故郷である港町に寄り、顔なじみの漁港長に話をつけました。
「おじさん。安い羊皮紙がたくさんあるんだけど、買わない?」
羊皮紙は紙などと比べて湿気やカビに強く、港での書きものに適していました。高価なことが最大の難点で、通常は帳簿のような本当に重要な用途にしか使えなかったのですが・・・トレサが買い付けたのは羊皮紙の端材や書き損じを集めたものでした。帳簿には使えませんが、ちょっとしたメモ書きや手紙に使う分には充分でした。
なるほど、知識はたしかに財産だ。久しぶりに丸々と膨れた自分の財布を見ながら、トレサはほくほく笑顔でひとりうなずきました。
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