がんばったよ。アーフェン、貧乏だから。そのくらいあれば足りる?
今回のバトルメンバー
トレサ(バトルジョブ:剣士)
アーフェン(バトルジョブ:神官)
サイラス(バトルジョブ:狩人)
ハンイット(バトルジョブ:商人)
オープニングロール(=妄想)
「はー、うまかった。ごっそさん!」
「・・・アーフェン、また。それだけで足りるの?」
港町・ゴールドショアを訪れたトレサたちは酒場で早めの夕食を取っていました。ゴールドショアにはトレサの故郷・リプルタイドよりずっと大きな港があり、近海の海の幸だけでなく遠洋の巨大な魚や遠く離れた別大陸の作物まで、様々なものが手に入ります。そのため食文化も豊かに発達しているようで、トレサたちは様々な国の調理法が混じりあった見たこともない品々に舌鼓を打っていました。
ところがアーフェンだけは代わり映えのない食事。どこででも食べられるレンズ豆の塩スープと小さな干し魚だけで済ませていました。
「なあに、こう見えても薬師だ。身体を壊さないメシはちゃんと心得ているさ。それに・・・実はストーンガードで新しい博物書を買ったばかりでな。ちょっとばかり懐具合が、な?」
「また? だからちょっとくらい本業でもお金を取ったらっていつも言ってるのに。いい、アーフェン。他人の主義に口を出すのは良くないと思うけどさ、どんなものにだってふさわしい価値ってものが――」
年下の小言ほど聞いていて居たたまれないものはありません。アーフェンは慌てて話題を変えることにしました。
「そ、そういやさ、トレサ。お前、なんで俺とテリオンだけ呼び捨てなんだ? いや、“さん”付けとかくすぐったいから俺は構わないんだけどよ」
そういえばどうしてだろう。トレサが少し思い返してみると、クリアブルック村の子どもたちの顔が浮かび上がりました。
そうでした。アーフェンの故郷では小さな子どももみんな彼のことを呼び捨てで呼んでいたのでした。トレサもアーフェンに会う前に子どもたちから彼の噂をたくさん聞いていたので、それできっと呼びかたが写ってしまったんでしょう。
・・・ん? ということは、この呼びかたって子どもっぽいってこと? ひょっとして私も子どもっぽく見えてる? いやでも今さら――。
なんか腹が立ってきたのでトレサはアーフェンの二の腕を軽く小突きました。
即座にものすごく慣れた手つきで、派手な割に痛くない格闘技モドキの反撃が返ってきました。
目の前でケラケラと笑う目の前の男がなんだか無性に憎たらしく見えてきて、トレサは食事そっちのけで飛びかかって乱闘を始めました。
(主観的)あらすじ
ゴールドショアでは現在熱病が流行しているようでした。アーフェンは偶然知り合った貧しい家の女の子・エリンに頼まれ、彼女の姉の治療をしてやることにしました。ところがアーフェンが訪問する少し前に別の薬師が彼女の家を訪れ、あっという間に効くみごとな薬を、しかも無償で置いていったようでした。
街の人々はその薬師のことを強く信頼するようになりました。同業のアーフェンが話を聞いてみても彼女は大変志高く、素晴らしい薬師であるように思えました。
ところが、時間を置かず今度は街に咳病が流行するようになりました。しかもアーフェンの見立てでは遠い地域の風土病のように見えます。いくらなんでも奇妙でした。
先ほどの薬師は今度は別の薬を、先ほどと打って変わって非常に高価な値付けで売りつけていました。貧しいエリンの家ではこの薬を買うことができません。アーフェンは今度こそエリンの姉を救うため、近隣で薬の材料集めをすることにしました。
咳に効く苔の自生地では、例の薬師が部下を使って大がかりに苔を採取していました。先ほど高値で売っていた薬は何の変哲もないこの苔を使った薬のようでした。彼女はわざと咳病を流行らせ、薬術に明るくない人々を騙して大金をせしめる算段だったと言います。アーフェンが聞いた志高い言葉は全てウソだったのです。
アーフェンは彼女を衛兵に突き出し、採取してきた苔で薬をつくってはエリンの姉や街の人々の病気を無償で治療してまわることにしました。
薬を配り終えたころ、アーフェンのもとにエリンと元気になった姉がお礼を言いに来ました。彼女たちは自分の家に負けず劣らずの貧しい生活をしているアーフェンを気づかって、浜辺で集めてきたきれいな貝殻を彼に贈るのでした。
感極まったアーフェンは泣いている顔を見られないよう急いで旅立ちます。
次の街で、まだ見ぬ患者たちがアーフェンの薬を待っています。
ちなみに作中と違ってテリオンまで呼び捨てにされているのは出会いの描写を改変した影響です。あんな出会いかたじゃトレサも敬称をつけてやる気にならないだろうなと。テリオンには悪いことをしました。(でも改めない)
武士は食わねど高楊枝
「薬師にとってお代なんてオマケみてえなもんさ」
正直に言ってしまえば私はトレサと同じで物事の適正な価値を尊重したい考えなので、アーフェンのようにとにかく善意で無償労働!って人とはウマが合いません。
だというのにコノヤロウ、こっちの立場もそれはそれということでナチュラルに尊重してきやがる。
「おっとすまねえ。技術も財産だ。気にしないでくれ」
くそっ。できた人間だなコイツ。
「病に苦しむ人の力になれる。・・・それ以上、何も要らねえよな」
現代でも医療に携わる人々のなかには本気でこういう考えをしている人がけっこうな割合でいるようです。
まあ、特に医者とかね、そもそも高給をもらったところで使う暇がないですからね。それを理解したうえであの業界に飛び込んでいくんですから、そりゃ志がやたら高い人の割合も高まるわな。一部の外科系なんて特に職務レベルでほぼボランティアみたいなもの。
そんな彼らに生活の不自由なく職務に専念してもらうためにも診療報酬はそれなりの高値を維持することが必要で、あとついでに今回のヴァネッサのような不埒な連中をまぎれ込ませないためにも好待遇で過当競争化しなければならないのです。生半可な気持ちじゃ突破できない高倍率にしてね。
ま、限度はあるので入り込めちゃう人は入り込めちゃうんですけどね。基本の高給だけで満足してくれるなら害はなし。汚職までやらかす欲の皮突っ張ったヤカラはとっとと逮捕されてしまえ。
今回の感想、物語とほとんど関係ないな。
あとアレだ。クリアブルックでも密かに思っていましたが、アーフェンって子どもに呼び捨てにされるのがやたらよく映えますよね。正直グッときます。
エンディングロール(=妄想おかわり)
「アーフェン。その貝殻、ちょっと見せてもらっていい?」
「おお。ひょっとしてレアな貝だったりするか?」
アーフェンの似合わない言いかたにトレサはクスクス笑いながら答えました。
「ううん。ただ、きれいだなあって思って」
「次に行く予定のところ内陸の砂漠地帯だから、それでもうまく売ろうとすればお金に換えられると思うけどね。どう? 私に任せてみる? 少しはまともなご飯食べさせてあげるよ」
意地悪にニタリと笑って提案してみます。もちろんアーフェンもハッハッハ!と大きな笑い声を上げながら首を横に振りました。
「そうよね。私ね、自分が扱う商品はそれを一番高く買ってくれる人に売ってあげたいと思っているんだ。それってつまりその人が一番その物の価値をわかってくれてるってことだもん。・・・この貝殻にはエリンちゃんとシリンちゃんの感謝の気持ちがいっぱい詰まってる。この世にふたつとないお宝ね。――アーフェンが持っているなら」
トレサは自分のカバンから亜麻の小袋と革紐を取り出し、貝殻のなかでも特に形のいいものを選んで数枚入れて、首から下げられるようにしました。カラカラと貝殻が擦れあう涼やかな音がしました。
「大切にしてあげてね。あの子たちの気持ちも、あの子たちが気づかってくれた自分のことも」
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