ぐらんぶる 第11話感想 童貞にだってセックスを拒むに足る理由はある。

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・・・調理中はずっと包丁握ってる。

(主観的)あらすじ

 恥多き大学生にもプライドというものがあります。
 奈々華が言うには伊織はこのままだとオープンウォーターライセンスの実技試験に落第するかもしれないそうです。伊織は是が非でも耕平とケバ子にバレないよう隠れて特訓を積まなければなりません。そのため、なんだかんだしたあげくなんだかんだでいつもどおり墓穴を掘りまくって、最終的に風邪で試験を休むハメになりました。
 流れでなぜか梓さんからエッチに誘われることになりましたが、筋金入りの童貞である伊織はこのときも自分に正直になることができませんでした。

とりとめなく

 「千紗! 盗み聞きとは趣味が悪いぞ」
 伊織のことを本気で毛嫌いしている割に、千紗って意外と遠慮なく距離を詰めるんですよね。
 耕平やケバ子も伊織が不穏なことを考えている様子には気付いていたわけですが、聞き耳を立てることまでするのは千紗だけです。まあ、荷物の搬入中なのでサボりを咎めようとしただけでしょうが。それでも声をかける役が自然と千紗になるあたりが家族ならではの気安さです。
 好き嫌いと親しみって別の概念なんですよね。

 「おーい、車借りに行くぞー!」
 レンタカーなしであの大量の謎荷物をどうやって持ち込んだ。

 「間違えたお詫びに後ろが広いオープンカーをタダで貸してあげるさー」
 ケバ子はこの時点で気付くべき。「後ろが広いオープンカー」といったら田舎者用語で軽トラックのことに決まっているでしょうが! むしろ他に何があるというのだ!
 車体の揺れがダイレクトに尻に響くので正直なところ私はあの乗り心地が苦手です。横向いて乗ると足で踏ん張れないので疲れますしね。ロマンはありますが。

 「ああ、兄ちゃんたち。ここから先走る道路は全部私有地だからね」
 ちなみに赤いハイビスカスの花言葉は「勇敢」です。

 「珍しいものがいっぱいだね」
 「これは食材選びのセンスが試されるな」

 ケバ子が手に取っていたのはイラブの燻製。ウミヘビですね。乾いた状態ならそこまででもないという話もありますが、基本的に臭みの強い食材のようです。
 「オジサン」は髭の生えた姿が特徴であるヒメジ類全般を指します。「コウコウセイ」は和名でキツネウオと呼ばれる雑魚。「ハマサキノオクサン」はタイの仲間で高級魚だそうです。ちなみに全部石垣島周辺の狭い範囲で使われている方言らしいので、おそらく実際のところは那覇市では通じないものと思われます。
 私が食べてみたい沖縄食材は・・・豚のあぶらかすあたりでしょうか。牛のものと違って背脂からつくるらしいです。旅行先でこんなの買ってもたぶん使い切れないでしょうけど。
 ところで千紗たちが立ち話しているところの目の前にあるお店、あるカットでは看板に牛肉専門店と書いてあるのに、遠景の別カットではあぐー専門店(且つ石垣牛専門店)と書いてあります。どっちなんだ・・・。

 「さて、俺たちの料理の番だが・・・」
 伊織が炒めているものはランチョンミート。千紗がゴーヤーを買ってきていたので、おそらく献立は定番のちゃんぷるーですね。本州で流通しているものとは品種が違うんだか生育環境が違うんだかで、沖縄のゴーヤーはもっと苦いと聞きますが、本当でしょうか?
 ちなみにケバ子が食べていた「天使のわっか」というスナックの元ネタは“天使のはね”。小麦でできたふわふわ食感のお菓子です。これは沖縄物産展でもよく見かけますね。

 「ケバ子。実はこれダイビングの練習なんだ」
 「どうして正直に言ってくれないの!?」

 だって会話中も千紗が頭から足を降ろさないんですもん。この絵面で信じろという方が無理がある。というか千紗さんどうしてそんな熱心に踏みつけてるの? 楽しいの?

 「で、薬はなかったけど、これがあったからさ」
 病人に果物の缶詰を食べさせる風習は、もちろん食べやすくて手早く糖分を摂取できるという実利面での理由もありますが、歴史的には大正時代に「せめて病気のときくらいは舶来の高級食品を食べさせたい」という心理からはじまった側面が大きかったりします。現代ではあえて缶詰を選ばずとも可能なら生の果物を食べた方がいいのは言わずもがな。
 ネギを首に巻く民間療法に効果があるとすれば、鼻から硫化アリルを摂取することに意味があるとされます。あと温かいネギによる温感効果。(本来は焼いてから巻きます。というか焼かないと折れますし) まあ、ぶっちゃけ食べた方が数段効率的ですね。
 で、この硫化アリルには殺菌効果があります。これによって風邪菌を殺せるんじゃないかと期待されているわけですが、逆に考えるとつまり、コイツを尻に刺すのはそこそこ危険なわけですよ。腸内細菌が死んじゃうから。別に死にはしませんが実際に試すのはやめときましょう。
 あとあえて書く必要もありませんが、お酒は代謝するまでに肝臓その他全身の内臓を酷使するので病人が飲んじゃいけません。

 「そっか。時田先輩に彼女ですか・・・。チクショウ! どうしてあの人にできて俺にはー!」
 むしろどうしてあれだけ包容力のある人がモテないと思うのか。このくらいのお年頃の青少年はキャラに似合うかどうかで人間を判断しようとするから困る。(私も言えたクチではないけど)

プライド

 「じゃあさ、伊織。エッチしようか」
 価値観というものは人それぞれで、サークル内恋愛は御法度と考える人たちがいます。とくに梓さんのようにサークル内の人間関係の緩衝役を率先して買って出る人は(私の知るかぎりでは)こういうタイプが多いように思います。
 梓さんは普段から自分を女性と感じさせない豪快なふるまいを心がけています。もちろん元々そういう性格でもあるんでしょうが、彼女がサークル内で男女問わず尊敬され信頼される独特の立ち位置を保っているのは、この立ち居ふるまいによるところが大きいでしょう。
 というか、そうややこしく考えなくても、単純に男とか女とか意識しないで済む方がお互い気楽ですしね。

 だったらどうしてセックスなんか持ちかけてくるのか。
 「なんというスポーツ感覚!」
 別にそういうわけじゃないと思います。この人はブラジャーはそこらに散らかしても、野球拳で乳首NGを宣言するくらいには普段からちゃんとわきまえています。彼女持ちの男にコナをかけても不毛と考えるくらいには恋愛とセックスがイコールでつながっている人ですし。
 だから、あえてセックスを持ちかけるのはもうちょっと真面目な理由。
 「いや、だってほら、梓さんと奈々華さんが隣で寝てれば普通緊張して眠れませんよ」
 普段のざっくばらんなふるまいでも伊織に女性っぽさを意識させてしまったから。
 「そしたら緊張しなくなるでしょ」
 彼女はできるだけ性差を意識されたくない人なので、あえて一度セックスして気安い関係になることで、逆に自分を女性として見られずに済むようにしたかったんでしょうね。ブラジャーをそこらに脱ぎ捨てるのと似たような感覚で。添い寝する程度で感じてしまう性差に慣れてほしかったというか。
 「む。失礼な。私だってそこらの変な男とはしないよ」
 これがセックスすることでかえってがっつきだす男とか、急に調子に乗りはじめる男とかだと逆効果でしょうが、伊織は肝心なところでは真摯な人間です。一回くらいじゃセックスに気後れするところは変わりそうにない、筋金入りの童貞根性ともいう。
 もちろん個人的に好感を持っていることも事実でしょうしね。

 伊織がその気になったらたぶん本当にセックスできました。
 それでも、伊織は自分から辞退しました。
 「試されてる。俺今すげー試されてる・・・!」
 試してないない。伊織ならたぶんセックスしてもしなくてもそう変わらないでしょう。でも、そこで逡巡するような真摯な人だからこそ、梓さんも安心して提案できました。
 「や、め、ときます・・・」
 「あはは。そりゃ残念」

 そこでセックス以外のものを天秤にかけられる心意気は梓さんとよく似たものです。伊織は梓さんの隣で眠れないことを自分の責任のもとで耐えることにしました。
 だから、梓さんとしてはその気持ちがそれはそれで嬉しい。

 大学生って、たぶんこういう面倒くさい気持ちを一番大切にするお年頃です。
 高校生までは仲間内での道徳観念さえ守っていれば大抵許されました。ですが大学生になってからは都度都度に独自ルールが存在する複数の社会を体験することになり、とはいえやりすぎなければまだまだ親や大学などに守ってもらえる、なにかと中途半端な環境に身を置いています。
 そういう環境で、どこまで自分の好きにふるまっても周りに認めてもらえるか、どこまで自分をさらけ出すことを求められているか、そういったことを手探りで模索することになるのが大学生というお年頃だと、私は思っています。
 やたらめったら最初から酔っぱらうことを目的にした酒盛りをしたがるのもそういう理由。ああいう場で失敗と恥を積み重ねて自分なりの社会との距離感を図っていくんです。学生のバカげた飲み会大事。超大事。
 まあ、失敗しなきゃそれはそれでもいいですけどね。少なくともその範囲で収まっているかぎりは社会に出てからもそうそう不興は買わないでしょうから。そういうのもあなたの個性のひとつ。

 「マズい。まさかの俺だけ不合格。この事実をヤツらに知られたら・・・死に勝る屈辱!」
 その意味で、大学生のプライドって意外と大切なものです。ハタから見ていると大抵しょうもないことにばかりこだわっているようにしか見えませんけど。
 そのプライドは彼らがあらかじめ守っておきたい自分の領分です。自分と社会との距離感をつかみかねているこの時期だからこそ、「ここだけは絶対に守りたい」という最低限の領域主張が彼らの心を守ります。
 うっかり距離感を掴みそこなって、お互いの赤裸々な部分まで侵してしまったら、どちらもキッツい思いをするだけですからね。そういう思いをしないで済むように、どこからどこまでが自分にとって誰にも触られたくない部分なのか、あらかじめ規定しておくんです。

 梓さんにとっては周りに余計な緊張や性衝動を催させないことが一番に大切で、そのためになら信頼できる人とセックスするくらいなら割り切れました。
 伊織にとってもPeek a Booの居心地の良さは他に得がたいもので、だからここに居つづけるために、相手がいいと言ってくれるセックスにすら踏み込むことができませんでした。
 そこは梓さんが、あるいは伊織が、自分らしさを保ったままでいられるであろうギリギリの境界線、プライドのせめぎあう葛藤でした。

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