
あなたの隣でこんな笑顔で渡っていられるんだもの。そうだよ、絶対。

(主観的)あらすじ
マルベーニのブレイドにしてマンイーターでもあるミノチが一行に加わりました。
彼は長らく独自行動を取っており、ブレイドでありながらメツと同調する以前のマルベーニしか知りません。そんな彼は疑念を抱いていました。世界を破壊しようとするメツの行動、あれは――神の言葉というよりマルベーニの絶望なのではないか。
もう一対の天の聖杯であるヒカリは、興味深いことに、メツの破壊活動にもこの世界の行く末にも興味がないと言うのでした。
折しもミノチはラウラたち独特の武器のやりとりを伴うチームワークを目の当たりにしました。人間とブレイドが強くお互いを信頼しあわなければできない芸当です。そしてブレイドが心からドライバーの信頼を欲しなければ成立しない絆です。これこそがブレイドの本来のありかた――そう思えました。
翌日、旅の途中で寄ることになった小さな村にシンは不思議な懐かしさを覚えました。そこはシンがラウラと出会うより昔、別のドライバーの元で同調を果たしたころに住んでいた村でした。
かつての住まいで、シンは自分がラウラではないドライバーの隣に立っている写真を見つけました。それからかつての自分の悲しみと苦悩と、運命への抵抗が綴られた日記も。
不意にラウラに呼びかけられ、シンはどこか後ろめたい気持ちからか、とっさに適当な言い訳の言葉を漏らしました。
「俺は――俺だ。いつだって変わりはない」
ところが、予想外なことにラウラはその言葉を大いに喜びました。その言葉に込められた意図と関係なく。ずっきゅーんと。昔のシンもきっとこうだったんだろうと、古びた写真を見つめながら嬉しそうに話しました。
ミノチはかつてマルベーニがこの世界に絶望したことを知っており、天の聖杯たるヒカリはこの世界の行く末は人間の問題だと突き放します。それを思うと、メツの行動はつまり――。
ところが一方で、シンが後ろめたく感じる思いは今のラウラの解釈によって喜ばしい想い出に変換され、また、子どもたちは世界を覆う絶望と無関係に前向きに生きようとしていました。ならば、この世界の行く末は、それでも、案外――。

長いわ抽象的だわ肝心なところをぼかしているわで、まるきりあらすじの用を成していませんね。ごめんなさい。だって必要な内容を全部盛り込もうとしたらあと数倍の文量は必要になりそうなんですもん。
大抵どんな物語でもこの手の何気ないエピソードにこそ重要なテーマが込められるものですが、本作は元々の密度が濃いせいもあって情報量がエラいことになっていますね。ミノチ加入~ハイベル村だけでこの作品の全容を語り尽くせるんじゃないかってくらい。まだ最後までプレイしていませんが、本編で語られた内容から逆算すると多分そう。
マルベーニの絶望も、ヒカリの他人事みたいな視点も、アデルの迷いも、ラウラたちのチームワークも、カスミの嫉妬も、シンの過去も、27歳女子の「ずっきゅーん」も、ミルトの健気さも、この範囲で描かれたなにもかもが全部物語のテーマに直結していて、全部がムダなくお互い密接に関係しあって物語に深みを与えています。すっごい複雑な脚本。すっごい情報量。すっごい完成度。解きほぐすだけでも一苦労。これが観られただけでもすでに割と満足しちゃってます。
それゆえにやたらめったら語りにくいのですが、さてどうしましょう。せめてイベントシアターをもうちょっと細かく区切ってくれないものか。10分越えのムービー数本を巻き戻しや早送り不可で何遍も観返すのは正直ちょっとしんどいっス。(そういうことをしている人は少数派だろうからしゃーない)
あ、ちなみにミノチ加入時のボス戦でめっちゃ苦戦しました。
チェインアタック解禁のtipsが表示されたので迷わず即座に使ったんですが、どうもボスが怒り状態になるまではHPが減らない仕様だったらしく、華麗に連続攻撃を繰り出した直後に苛烈に反撃を食らって全滅しました。理不尽な。
ここまで割とサクサク進められていたおかげでボスとのレベル差が10近く広がっていて、再戦してもパーティゲージ&属性玉のフォローがない状態では瞬殺されちゃうんですよね。理不尽な。
ええい、とりあえず怒るならムービー終わった時点で速やかに怒ってくれたまえ。あのニャンコ野郎め。
絶望の化身
「そしてヤツは神の言葉を持ち帰った。だが、これが本当にその言葉なのか? 神による救済なのか? こんなものが救済であるものか。これはヤツの願望――いや、絶望だ」
実際のところメツの破壊活動は神様の意志ではありません。神様はとっくにこの世界への興味を失っていて、マルベーニが2つのトリニティプロセッサを持ち去ったときも無視していました。
メツの行動原理は、あくまで彼の自由意志にマルベーニの意志が反映されたものです。
もっとも、あくまで意志を反映してあるだけであって、マルベーニとはむしろ敵対しているのがなんともややこしいところなんですが。このあたりの対立構造がヤヤコシイのは9割方マルベーニのファザコン(語弊)のせい。
その証拠に、同じ天の聖杯であるヒカリは世界を滅ぼす気も救う気もありません。
「私は単に目覚めさせられたからこの人につきあっているだけ。この世界の成り立ちにも行く末にも興味はないわ」
メツとヒカリが地上に降り、まるでブレイドのようにふるまっていることに神様の意志は一切介在していません。ヒカリの唯我独尊なフリーダムっぷりを見ていればわかります。
もしその行動原理が神様の意志に規定されたものであるなら、今ごろヒカリもメツと一緒になって世界を破壊してまわっていることでしょう。
ちなみに人間全体の集合意識に規定されたわけでもありません。その場合もヒカリはメツと同様の行動を取るはずですから。それからメツとヒカリは対存在になるべくして生まれたわけでもありません。ヒカリは無条件に世界を救いたいとは考えませんし、メツへの興味も持ちません。
あくまでメツとヒカリは自由意志を持つ一個の生命として受肉しました。
そのうえで、他のブレイドと同様に同調したドライバーの影響を強く受ける生き方を選んだだけです。
だから、自由な生き方に強い憧れを抱いているアデルのもとで生まれたヒカリは、傍若無人なほどにフリーダムな性格になりました。
だから、世界に絶望し、神様への愛の表明として救済を代行したいと考えたマルベーニのもとで生まれたメツは、世界を滅ぼす魔王になりました。
「こうして見ていると、まるで双子の姉妹みたいね」
「ドライバーの因子が色濃く出るのは珍しいんだろう?」
「さあ・・・。でも、私はラウラ様と同じ姿に生まれてこられて幸せです」
そう。ブレイドとは、そもそもドライバーの影響を受けることに強い喜びを感じる存在です。
出自がコアクリスタルというわけでもないのにわざわざブレイドとして受肉したメツとヒカリは、きっとそういうありかたに昔からずっと憧れていたんでしょう。たぶんね。
500年後、マルベーニのブレイドらしい生き様を貫きとおしたメツは、自分の存在した意味を教えらえたこともあり、満足して眠りに就くことになります。
メツの為すこと、考えること、思うこと全部、マルベーニの影響をこそ受けども、けっして神様の意志などではありませんでした。
絆のもとで生まれた
「人間とブレイド、その結びつき――絆みたいなものか。それに興味が湧いた。俺たちの本来の姿、そんな気がしてね」
ミノチはマンイーターで、そのおかげでドライバーから離れて単独行動を取ることができます。一見便利なように思えますが、当の彼自身はむしろ人とブレイドとの絆に興味を抱いている不思議。
近年、新しく生まれるブレイドは人間に寄り添おうとする性格の者が増える傾向にあるそうです。500年後はその傾向がさらに進み、ほぼ全員がそういう性格をするようになります。
ブレイドは人間の記憶を収集・循環するための端末なので、ドライバーとの絆を欲するのはある意味当然ではあるんです。ですが、神様の介入がなくなった今もますます絆を欲する傾向が強まっているといいます。それはつまり、ブレイド本来の存在意義を越えて、世界全体とブレイド自身の意志が、より強固な絆を望んでいるということ。
そういう視点からしても、マンイーターという存在はやはりかわいそうな気がしますね。
ミノチはもう2年も自分のドライバーと会っていないそうです。
「もしメツの行動がマルベーニの――ううん。あなたたち人間の願望だとしたら・・・」
前者についてはそのとおり。後者についても・・・メツがそのようにふるまっている以上は事実なのでしょう。彼とヒカリは全ブレイドが持っている情報、つまり過去から現在に至る世界全ての記憶とでもいうべきものにアクセスすることができます。
その意味では、メツにとっては世界を破壊してまわることは自分のドライバーとの絆でもあるのかもしれません。敵対してはいるものの。
一方でヒカリはことあるごとに自分のドライバーの意志を問います。
「それを決めるのは私じゃない。あなたたち人間よ」
なぜかアデルではなく人間全体に対する問いを、アデルという個人にぶつけるところが困ったところですが。
その問いに対する答えを持たないアデルは、ヒカリに対して充分な絆のかたちを示すことができるのでしょうか。
ヒカリは神様の使いではありません。この問いは、メツと違って自分のドライバーから何の行動原理も与えられなかった彼女が、自らの存在意義を求めて発している問いです。
アデルが何かを望むことこそがヒカリの心を満たしてくれるはずなのに。
その答えが悲しいものだと誰が決めた
「あんた、オルネラさんのブレイドだったお人かね。そうじゃろ。ほれ、近衛軍の。懐かしいのう。あのときワシはまだこんくらいの子どもでのう。その長剣を背負った姿、憧れたもんじゃ」
ブレイドはドライバーとの絆のもとに生まれ、ドライバーと絆をつなぐことに幸せを感じて生きます。
では、ラウラ以外の人間のもとに生まれ、ラウラ以外の人間のために生きたシンとは何者なのでしょうか。今のシンにとって、その人は誰なのでしょうか。
「どうしたの? 何か想い出のものでもあった?」
シンには判断できません。残された品物とメッセージが、果たして自分にとっての想い出の品であるものなのか。
その答えを持っていたのはシンではなく、ラウラでした。
ラウラは昔のシンと彼のドライバーのことを知りませんが、今のシンのことなら誰よりもよく知っています。過去を語るうえではそれだけで充分でした。
「俺は――俺だ。いつだって変わりはない」
「うっ! うう・・・。胸に刺さった。――ずっきゅーんて!」
ラウラは昔のシンのことを知りませんが、そんなの大した問題ではありません。そもそも過去の積み重ねがあるからこそ現在があるんです。過去と現在はどんなかたちであれ絶対に連続していて、つまり現在の姿さえ知ることができればそこから過去は想像できるんです。
「ねえ。気付いてないでしょ。あなた時折ものすっごく胸に刺さる言いかたするの。天性の女たらしね、あなた。ぜーったい! 以前もきっとそう!」
ラウラは今のシンのカッコいいところを知っています。今のシンがステキな人物であることを知っています。
だったら、記憶がつながっていないことくらい大した問題じゃない。かつてここに生きていた人物がシンであるならば、その人は間違いなくシンと同じようにカッコよくて、間違いなくシンと同じでステキな人で、つまりその人物は間違いなくシンなんです。
「幸せそう。いい笑顔だね。この人でしょ、オルネラさんって。あなたの隣でこんな笑顔で笑っていられるんだもの。そうだよ。絶対」
シンのことをよく知るラウラがそう信じるのですから、そうなんです。絶対に。
ムチャクチャなことをいっているようですが、いちおう根拠はあります。
だって、オルネラが幸せそうな顔をしているのと同じように、ラウラ自身もシンと出会えて幸せなんですから。ラウラとオルネラは別の人間ですが、そんなの大した問題ではありません。ラウラもオルネラも、シンのドライバーです。
シンのドライバーが昔も今も同じく幸せなんですから、シンだって過去も現在も同じシンのままに決まっています。
自分のあずかり知らぬ過去があるのも、誰かとの絆を求めているのも、実はブレイドだけの特性ではありません。人間だってそうです。誰だってそうなんです。
「お前が死んだあとはどうする。誰がそれを止める」
「そのためにあんたたちがいるんじゃないか。そしてそれを一緒にやり遂げるのはオレじゃない、誰かだ!」
500年後にシンを救うことになる言葉は、この発想を今度は未来にまで延長したものとなります。
そう。現在を見れば過去も未来も思い描くことができます。
「以前、『もし自分のような子どもに出会ったら力になりたい』そう言われてね。ついてくるなとは言えなかった」
メツはマルベーニの意志とその他多くの人々の記憶を参照して、人間たちが滅びたがっていると理解しました。それは一面の事実です。
ですが、そんなの大した問題じゃありません。ミルトは戦争に起因する悲惨な災害によって両親を亡くしましたが、彼にとっての過去はそういうだけのものではありません。彼にとっては、その災害のときアデルに助けてもらえたことこそが自分の過去です。
そういう彼は今、今度は自分が同じ境遇の子どもたちを救えるようにとがんばっています。
過去はひとつきりの姿だけをしているわけではありません。今を生きるあなたがどんな視点からふり返るか、それ次第で過去はいくらでも変わります。今のあなたが過去を決めちゃったっていいと、私なんかは思います。
だから、この世界は必ずしもメツの言うように滅ぶことを望んでいるとは限りません。
少なくともミルトは世界が滅ぶことなんて望んじゃいません。そうなってしまったら彼は自分の夢を叶えることができません。
「なら、私たち大人が守ってやらないとね」
「ああ。責任重大だな」
クソッタレな世界の有り様から自由であろうとする人々がいるかぎり、この世界はまだ破壊されるべきではありません。
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