色づく世界の明日から 第2話感想 Knocking on your window not mine.

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ひとりでいたいだけなのに、私は何をしにここに来たんだろう。

(主観的)あらすじ

 探しものの魔法に導かれた瞳美と絵描きの少年の出会いは思いがけない幸福で、だけど不幸もあって。少年――葵の描いた絵は、瞳美にとって数年来の色づく世界でした。もう一度よく見たいと思いました。けれどそれは叶いません。2018年のこの時代に来たとき瞳は彼の部屋に降りてしまっていて、そのせいで警戒されていたのでした。
 他に言い訳のしようもなく、瞳美は包み隠さず「魔法のせい」と説明します。大嫌いな魔法。自分はその魔法の使い手。葵は半信半疑の様子でしたが、とりあえず瞳美への興味は失ったらしく、無断で部屋に入ったことは許してくれました。けれど改めて絵のことを聞く機会も与えられませんでした。

 月白の家族は瞳美に学校に通うことを勧めてくれました。けれど、その学校は瞳美にとって少々居心地の悪い場所でした。
 この時代のお婆ちゃん――琥珀が色々とヤンチャをはたらいていたらしく、魔法使いというだけで一部の生徒から警戒されてしまうのです。逆に魔法に興味を持つ生徒も少なくないのですが、そんな彼らもまた、瞳美の使える魔法がまほう屋で買える程度のものだと知ると、いかにもつまらなそうな目を向けてくるのでした。

 先日出会った葵もこの学校の生徒でした。彼は絵画という趣味を共有できる友人を持たず、学校では瞳美と同じでひとりで過ごしているようでした。
 瞳美は彼を探して、強い決心とともにお願いしました。あの絵をもう一度見せてほしい。自分にとってあの絵がどんなに特別なものなのかを切々と訴えました。すると、葵は気乗りしない態度を見せながらも渋々絵を見せてくれました。
 そして彼は言うのです。こんな絵なんかよりも瞳美の魔法の方がすごい。絵画と同様、彼のその言葉は瞳美にとって新鮮な驚きに満ちていました。

 ボーイミーツガールものだったんですね、この作品。
 今話において瞳美と葵はよく似たキャラクターとして描かれました。魔法と絵画、ふたりとも他人にはないちょっとした特技を持っていて、けれどその特技はそれぞれコンプレックスの原因にもなっているようです。難儀なことですね。どうやらふたりとも自分のことをあまり好きになれずにいるようです。
 よく似ていますが、幸いなことに他人です。葵は瞳美の魔法に対するコンプレックスを理解できませんし、瞳美もそれは同様。そこに少年と少女が出会うべき意義が生まれます。コンプレックスを知らないからこそ、その人のステキな部分に素直に目を向けることができるんです。

 ちなみに紙パック飲料のことを「オフリー」と呼ぶのは県立長崎南高校だけのローカルネタのようです。ググってみると卒業生のブログやツイートをいくつか見つけることができました。あまりに局地的なネタすぎて由来はさっぱりわかりません。
 劇中では校内にオフリーホールという部屋があって、その部屋の前に紙パック飲料の自販機が置いてある描写が出てくるので、おそらくこれが由来かと思うんですが・・・。そもそもオフリーホールというのが何なのかわかりませんね。語感からすると多目的ホールか生徒用の集会所みたいなもの?

私の生きる世界

 「ひとりでいたいだけなのに、私は何をしにここに来たんだろう」
 瞳美にとって自分の生きる世界はモノクロで、そして彼女はそんな世界に生きている自分が嫌いでした。
 だってこの世界はいつも理不尽なんです。

 他の誰かにとって感動的な夕焼け空は、瞳美にとっては朝昼夕いつも変わらない退屈な景色です。
 青赤緑様々な色彩が並ぶまほう屋の店内も、瞳美にとっては同じかたちの小瓶が並んでいるだけです。
 瞳美に他人の感動はわかりません。だって、同じ世界に生きているようで他のみんなとまるで違う景色を眺めているんですから。

 魔法のことも同じです。
 瞳美は魔法が使えます。この時代の大抵の人は使えません。
 だから、瞳美は他人が魔法をどう思うのかがよくわかりません。他の人も瞳美にとって魔法がどんなものなのかをわかってくれません。
 「『魔法による器物損壊行為に関する誓約書』?」
 「まあ要するに、琥珀さんみたいに校庭で花火を爆発させたり、プールを凍らせたり、理科の実験で壁を壊したりしないでね、ということですね。月白さんのお母さん、よく謝りに来られてますよ。あなたもあまりムチャしないようにお願いします」

 瞳美はそんなことしません。瞳美の知る魔法とはそういうものではありません。けれど、魔法をよく知らない人たちにとっては瞳美とそれ以外の魔法の違いがよくわからないようです。
 「私、さっき隣の席の人に避けられてたみたいなんですけど・・・」
 「ああ、それはきっと魔法使いって聞いたからですよ。――ときどきやりすぎちゃうんですね、琥珀ちゃんって。みんな1年の時から同じクラスだから、魔法使いのこと怖がってる人もいるのかも」

 若いころのお婆ちゃん――琥珀は相当破天荒な人物らしく、同じ魔法使いである瞳美にとってもありえない事件を次々引き起こしているようでした。
 けれど、瞳美が感じたその“ありえない”を他の人は理解できません。瞳美自身も、他の人が瞳美を琥珀と同一視してしまう感覚を理解できません。
 ただ、理解できないこと全部を“魔法”というお互いの差異に紐づけて、それで納得してしまいます。

 だから瞳美は魔法というものが嫌いです。
 “魔法があるから”自分と他人は違うのだと。わかりあえないのだと。共感しあえないのだと。どうやら彼女はそう考えているようです。
 「魔法はどのくらい使えるの?」
 「魔法はあまり好きじゃなくて、ずっと練習してこなかったんです」
 「あら、それは残念ね。手紙には『強い力を持ってる』って書いてあったのに」

 できることなら魔法使いでなんかいたくない。魔法を使えない人と同じように見られたい。
 「見せてくれないかな、魔法使うところ。部屋に入られただけだって俺が言っても誰も全然信じてくれないから。そっちだって迷惑でしょ。転校早々変な噂されて誤解されたままだとかわいそうだし」
 だから、学校内で魔法を披露しなければならなくなったときは力を加減しました。
 「夜を地火に 光よ輝け 星のごとく」
 まほう屋で買える星砂よりもパッとしない程度に留めて、魔法使いだけど大したことないと周りに思わせようとしました。本当はもっとたくさんの星をつくることもできるのだけれど。
 魔法使いだと思われたら、自分はまた他の人たちと区別されてしまうから。

 瞳美の生きる世界は理不尽なことだらけです。
 色の見えない瞳。魔法の力。瞳美が望んで手に入れたわけではないふたつの持ち物が瞳美を孤独にしようとします。
 他の人たちと同じ場所で生きているはずなのに、実際は瞳美の世界だけが周りのみんなから切り離されています。

私の周りの世界

 「魔法も大事だけど。高校生なんだし、とりあえず学校通ってみたらどうかな」
 「そうね。学問を探究する姿勢はとても大切よ」
 「すぐに編入手続きをしておくわ。琥珀と同じ南ヶ丘がいいわよね」

 またです。
 この世界はなにかと瞳美のことを切り離したがるくせに、望んでいないことに限って彼女に干渉しようとしてきます。
 「せっかく行くんだから楽しんでいらっしゃい」(第1話)
 お婆ちゃんが何のために自分をこの時代に送ったのかもわからないのに、また。
 「大丈夫よ、ブレザーも似合ってるから。先生がたには親戚の子がマジカルステイでしばらく滞在するって説明してあるから。はいこれお弁当。行ってらっしゃい」
 まるでそれが絶対に善いことだと確信しているかのように、周りの人たちが勝手に瞳美の進むべき道を整えていきます。瞳美の世界の色も、瞳美にとっての魔法の意味も、よく知らない他人が。

 「ひとりでいたいだけなのに、私は何をしにここに来たんだろう」
 だからといって、自分自身どうするべきかもまだわかっていないけれど。
 けれど今置かれている状況が、全部自分の意志ではなく他人の働きかけによるものだということだけはわかります。
 居心地が悪い。
 瞳美はいつも日陰を選んで歩きます。だって、周りのみんな、好んで日の当たるところを歩いているようだから。そこは私のいるべき世界じゃない気がする。

 「親戚ってまさか」「あの子も魔法使いなんじゃない?」「君子危うきに近寄らず」「だな」
 “魔法”という差異を見つけては勝手に怖がるくせに。
 「聞いた?」「魔法やるんだって」「やっぱ魔法使えるんだ」「おい、転校生なんか魔法やるみたいだ」「マジか」「また天井に穴あくだけなんじゃねーの」「でも面白そう」
 いざその差異を確認できるとなると興味津々。
 「え、終わり?」「琥珀ちゃんの魔法とだいぶ違うね」「構えて損しちゃったよ」「あれってこの星砂だよね」「おー。こっちの方がいいじゃん」「だよねー」
 あげく、差異が大したことなければそれはそれで露骨にガッカリしてみせる。

 せっかくあえて魔法を加減したというのに、瞳美と周りの人たちとの差異は依然として解消されません。
 “魔法”という差異はそれが存在している時点でどうあっても解消されず、どうふるまおうとも瞳美は周りと同じ世界に生きることを許されません。大きな力を振るえば恐れられ、力のささやかさを示しても侮られるだけ。
 瞳美にだけ世界がモノクロであることと同じく、それは彼女にとってどうしたって変えられない現実です。
 悲しくなります。居心地が悪い。
 「やっぱり、魔法なんて大嫌い」

 どうしてみんな瞳美をひとりにしておいてくれないのでしょうか。
 関われば関わるほど、自分と相手との差異がいっそうどうしようもなく感じられるだけだというのに。
 「ごめんね、なんか気まずくなっちゃって。せっかく見せてくれたのにさ」
 それともこの人たちはまだわかってないんでしょうか。
 そうですね。瞳美のコンプレックスはどうしたって瞳美以外が理解することができません。
 ですが、いいえ。少なくとも“魔法”という差異があることだけはすでにわかっているはずなのに。
 そのうえで、どうして瞳美と関わりを持とうとする人がいなくならないんでしょうか。

 先日の件からずっと親切にしてくれている一団は写真美術部だそうです。
 写真と絵画、ふたつの活動を交わらせることなく併存させています。
 それから、一部はモノクロ写真なんかも扱っているようです。彼らは色のない世界なんて見たこともないくせに。どうしてそんなものに興味を持つんでしょうか。
 瞳美と違う世界に生きているくせに。

ふたつの世界の境界で

 ひとつの例外がありました。
 「・・・あの絵のこと、もっと聞きたかった」
 色彩のある絵画。瞳美の目にすら鮮やかな色彩をもって映る不思議なもの。
 葵は魔法を使えず、目もきっと普通なのに。瞳美以外のみんなと同じ世界に生きているはずなのに。なのに瞳美にみんなと同じ世界を見せてくれました。

 瞳美にはそう感じられたことでしょう。
 「魔法を見せたら、私のこと、信じてくれますか?」
 「さ、探してました。さっき、すみませんでした。魔法うまくできなくて。でもどうしてもやらなきゃって。信じてもらいたかったから」
 「下心があったんで。見せてほしいんです。絵を」

 だからどうしてももう一度見せてほしくて、がんばりました。魔法を隠そうとするだけじゃどうしようもない世界の隔たりを、彼の絵だけは踏み越えてみせてくれたから。
 「あの絵は私にとって特別なんです。あの絵は私に忘れていた色を見せてくれました。灰色だった私の世界に、一瞬光が差したんです」

 けれど実際のところ、葵は葵で孤独なところのある人でした。
 「はあ。ちょっと何言ってるかわかんないんですけど」
 「またまた言い訳しちゃって。素直にカノジョだって認めたら? 唯翔センパイ」

 瞳美が部屋から出てきた事件のことはどう説明しても周りに納得してもらえませんでした。
 「ウソ、付き合ってんの?」「あの人、美術部のザンネンな人でしょ。絵にしか興味ないって噂の」「あの子、今日転校してきたのに早っ」「魔法使いの子に手を出すなんて――」
 元々ちょっと浮いていました。
 「あいつ今日シフト?」
 「さあ、わかんない」
 「また屋上とかじゃないの?」
 「絵描くときひとりでふらっとどっか行っちゃうからな」

 部活動ですら他の部員と活動目的が違うので、いつもひとりでした。

 葵もまた、絵画というちょっと変わった興味のせいで周りのみんなと違う世界に生きていました。
 彼にとっての“絵画”は、瞳美にとっての“魔法”や“色覚異常”とよく似ています。
 けれど、そのことに瞳美はまだ気付きません。
 だって他人ですからね。いかに孤独という共通点があっても、そのことを知る術はありません。
 そして気付いていないからこそ、彼女は魔法とは違う奇跡をいともたやすく行使することができます。

 「見せてほしいんです。絵を」
 その言葉は、葵の知る世界にはないものでした。
 葵はいつもひとりで絵を描いていました。絵に興味を持ってくれる人はこれまで周囲にいませんでした。慣れていないせいで人に絵を見せるのがなんだか恥ずかしく思います。これが写真であったなら、写真美術部のみんなで楽しく同じ喜びを共有できたでしょうに。
 けれど、瞳美は熱心でした。どうしてそこまで必死になるのか見当もつかないくらいに。
 「あの絵は私にとって特別なんです。あの絵は私に忘れていた色を見せてくれました。灰色だった私の世界に、一瞬光が差したんです。お願いします。もう一度だけ――」
 瞳美は、これまで閉ざされていた窓を開けて、葵にみんなと同じ世界を見せてくれました。

 とてつもない奇跡。自分には絶対にできなかったこと。
 瞳美が涙を流して感動したように、葵の心にもまた今まで存在していなかった感動が宿ります。
 「あのさ。・・・あ、や、えっと。その。――また見せてよ、魔法。星とか出せるのってけっこうすごいと思うよ。俺の絵なんかよりも絶対に」
 そうだ。彼女は魔法使いなんだ。“魔法”の有無が彼女の特別さを生みだす差異なんだ。彼女は魔法使いだから、自分にも、他の誰にもできなかった奇跡を、いともたやすく行使できたんだ。

 そう、納得します。
 葵と瞳美とはそれぞれ違う差異を持っていて、それぞれ別の世界に生きている孤独な他人だから。
 差異を見つけて、自分で勝手に線引きします。
 それは自分自身を孤独に追いやる悲しい行為であり、きっとこれからの物語において解決されていかなければならないふたりの悪癖ではあるのですが――。
 彼と彼女はそれぞれ違う世界観を持った他人だからこそ、お互いの心に感動をもたらすことができたんです。ボーイミーツガールの最も幸せなかたちですね。

 瞳美と出会って、葵は絵を描く意欲をいっそう強くしたようです。
 そして瞳美も――。
 「あんなふうにいわれるなんて思ってもみなかった。私の魔法を喜んでくれる人がいるなんて。魔法なんて、大嫌い――」
 葵と出会って、どうやら瞳美にも自分の魔法を好きになれるきっかけが生まれつつあるようです。

 自分と他人とのあいだにはどうしようもない差異があるものですが、それは瞳美や葵だけでなく、みんなそうです。
 それでも他のみんなが感動を共有できていて、自分だけがひとりぼっちだと感じられるのなら・・・、それはきっと、あなたが自分で閉じこもろうとしているだけなのかもしれません。
 「あなたの悪いクセよ。瞳をそらさないこと。せっかく行くんだから楽しんでいらっしゃい」(第1話)
 だからどうか、自分のステキなところを見つけてあげてください。それさえできればあなたはひとりぼっちにならずにすむはずです。たとえどんな差異を抱えていようとも。

 「瞳美ちゃん。よかったら放課後の部活見に来ませんか?」
 「ウチ新入部員大歓迎だから。ぜひ遊びに来て」

 大丈夫。すでに手は差しのべられています。
 あとはあなたが勇気を出して窓を開いてみるだけ。今日してみせたように。

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