色づく世界の明日から 第3話感想 魔法使いが魔法をかけられた日。

誰にも知られないように、見つからないようにしようって。

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(主観的)あらすじ

 新入部員勧誘シーズンがはじまり、瞳美は写真美術部から熱心に誘いを受けていました。
 葵からは絵画の体験を勧められました。色の見えない瞳美には困難な作業で、完成品のイメージがつかないままとにかくいろんな絵の具を塗ってみることしかできませんでした。当然変な絵になってしまっただろうと瞳美はうつむきますが、意外なことに葵からは好評。まるでフォーヴィスムのようなインパクトある色づかいになっているのでした。
 山吹たちからは撮影会に誘われて、瞳美がモデルを務めることになりました。星砂を使って水上歩行する姿を撮影する趣向だったのですが、色のわからない彼女はここでも使うべき星砂を取り違えてしまいます。結果、瞳美はプールに落ちてしまうことになるのですが・・・不思議なことに、間違いを指摘されるまではちゃんと水上を歩けていたのでした。瞳美自身に備わる魔法の力でしょうか。

 これほど日常に様々な困難があっても、瞳美は自分の色覚異常を周囲に伝えようとはしません。
 自分が特殊だと知られたくなくて、自分を特殊だと思いたくなかったのです。気付かれてしまった葵を除き、瞳美はこれからもこの障害を隠しとおすつもりでいます。

 元々言葉少なで他人を拒みがちでもある彼女はそれでなくても誤解されがちで、一時は写真美術部の面々とギクシャクしてしまうこともありましたが、お互い少しの勇気を出して踏み込むことで仲直りできました。
 話していると、山吹がモノクロ写真を専門にしていることがわかりました。モノクロなら自分にもできるかもしれない。ときめきに心突き動かされ、いきおい瞳美は写真美術部への入部を希望するのでした。

 「最初に行使する自然の力を5つ並べて呼びかける。すると流れが見えてくるでしょう。その流れに向かって集中するの」
 たぶんそうだろうなあとは思っていましたが、やっぱり魔法の詠唱最初の5音は始動キーみたいなものだったんですね。起動キーというか、言語化されないインスピレーションみたいなものというか。どうりで毎回解釈に困らされたわけですよ。
 さてどうしましょう。普通ならカタカナ表記で適当に流すべきなんでしょうが、ここまでムリヤリ日本語を当てはめてきた以上、最後までこのやり方を継続してみたい気持ちもある。(どうでもいい)
 「カチヒクオ 大地の縛め 解き放て」
 「月引くを 大地の縛め 解き放て」

 ・・・どっちが良ろし? (どうでもいい)

憧憬の色

 「クリムゾンレッド。プルシアンブルー。サップグリーン。マゼンタ。イエローオーカー。バーントシェンナ――」

 フォーヴィスム(野獣派)という絵画のジャンルがありまして、wikipediaによると“明るい強烈な色彩でのびのびとした雰囲気”を特徴にしているとされます。色彩というものを、現実ありのままの姿を写し取るためではなく、主観的な感覚をそのまま表現するために用いるため、できあがった作品にはどことなく自由でのびやかな雰囲気が醸し出されるわけですね。

 瞳美の描いた絵はキテレツな色彩のせいで一見でまずギョッとしてしまいますが、よくよく見てみると案外かわいらしく描けていますね。
 とにかくやたらダイナミックな色彩の使い分け。一応子どものころはちゃんと色が見えていたんですから、絵の具の名前から判別してもうちょっとおとなしめの色づかいにすることもできたでしょうに。でもこれがとにかく良い味になっています。
 あと明暗の表現がすごく丁寧です。色の濃淡は瞳美の目にも判別できる数少ない要素なので、自然と力が入ったんでしょうか。
 (まあ、メタなことをいえばこれを書いた人は普通の色彩感覚を持ったプロの美術スタッフなんでしょうけれど)

 なんというか、描いていてすっごい楽しそうな絵。なんでこんなにいっぱい色使ったの? って聞いてみたくなるというか。どうせお前絵の具全部使ってみたかっただけだろ、みたいな。

 「絵なんて描けないけど、あの絵を見ていたい。色を見たい。もっと」
 この娘、色が見えないくせにデッサンより先にいきなり絵の具をしぼりはじめましたよ。ひとつひとつラベルを読みながら。どんだけ色のある世界に憧れているんだって話ですよ。
 第1話で葵の絵をはじめて見たときの奇行もそうですが、瞳美って陰気そうに見えて実は純真というか子どもっぽいというか、根っこの部分では絶対かわいいキャラクターですよね。今話の後半でもどういう気持ちで写真美術部たちから顔を背けているのかと思いきや、想像以上にかわいらしい理由でしたし。

 「すごいね、色づかい。大胆っていうか、意外な。――いや。面白いと思うよ」
 ホントそのとおり。
 よくわからないものを想像で描くのにはセンスが要ると思います。この絵はただ色が見えないからこうなってしまうのではありません。知らないものに対する感情って、だってほら、怖いとか不安になるとかワクワクするとか、人によって対象によって色々と変わってくるものじゃないですか。
 瞳美も色彩というものに対しては目に見えてコンプレックスを抱いていました。

 なのに、これです。
 こんなにも楽しそうな絵を描くんです。この子は。コンプレックスを持っているくせに、自分から好き好んで次から次へとたくさんの絵の具に手を伸ばすんです。はじめてクレヨンを買ってもらった子どもみたいに。
 きっとそういう子なんですね。本当は。
 色が見えないことについて自分が劣っているように感じることはあっても、目に映ってくれない色のことは憎んだり嫌いになったりはしない。ただただ純粋に憧れるだけでいられる。

 そんなんだから、今のところ一方的に迷惑をかけどおしてばかりのはずの写真美術部からこんなにもしつこく勧誘を受けるんですよ。
 単純に、かわいいから。
 内面の魅力がふとしたときににじみ出ているから。

自分を騙す

 今話で使用されたフォグマシーンの元ネタはアンタリ社のZ800IIでしょうか。定番品とはいえ何故に高校の部活動がこんなものを持っているのか。しかも2台。しかも写真部が。
 リキッドはおそらくFLG5。主成分は自動車の不凍液でおなじみエチレングリコールになります。アレの使用後は会場が若干ベタベタするんですが、そっちの掃除は必要なかったんでしょうか。無いか。まだ春だし。どうせ雨降るし。
 まあググってみてたまたま見つけただけなので、だからどうしたとかそういうのは全然ありません。ただの雑学のひけらかしです。

 「・・・あれ? 見間違えだったのかな。さっき瞳美ちゃんがピンクの星砂を使ったように見えて」
 「でも、歩いてる」

 そういえば私、前回の感想文では瞳美がわざと魔法を加減していると予想していました。不正解でしたね。瞳美は本当に魔法が不得手なようです。
 なのに、このプールのシーンではたしかに(ある程度大がかりな?)魔法が使えていたようです。

 「初心者のうちはこういうの使った方が集中力をコントロールしやすいのよ」
 「ちゃんと顔を合わせて、ちゃんと話をしなきゃダメ。魔法といっしょ。思い込みが肝心」

 要するに使い手の世界観が魔法の成否に関わるということなんでしょうか。(行使するエネルギーはあくまで自然の力を借りたものであり、個人にも素質の有無があるようなので、別途修行や媒体も必要そうですが)
 自分は手から星を出せると信じられたら星を出せる。自分は水の上を歩けると信じられたら歩ける。そんなノリかな?
 プールのときは星砂があったので当然歩けるものと自己暗示できていて、そのおかげで無意識に魔法が発現したと。

 魔法まわりがそういう設定であるのなら、なるほど、そりゃ瞳美には魔法がうまく使いこなせないわけです。
 この子の目下一番の問題は自分に自信がないことなんですから。
 自分に自信を持てない人がどうして“自分はできる”と信じられるでしょうか。
 普通に考えて、信じられるわけがないですよね。だってできないから自信がないんですから。うまくいかなかった過去を知っているから自分を信じられなくなるんですから。
 色が見えない、友達が少ない、自分の気持ちすらうまく伝えられない、そんな欠点だらけの人間が一部の特別なことだけは器用にできるだなんて、そんなアニメみたいな都合のいいこと、そうそう信じられるわけがないじゃないですか。

 ・・・なんて。
 案外そんなことはありません。人は意外と簡単に自分を騙すことができます。
 「ムリです! ムリムリムリ。私がモデルなんて!」
 「――わかったわ。予定どおり、私がモデルをやる。瞳美ちゃんには司会をお願いできないかしら」
 「絶対ムリ! イベントの司会なんて!モデルよりもっとムリ!」
 「・・・モデルっていっても歩くだけだし、月白さんにもできると思うよ」

 「月白さんにもできると思うよ」 そう。この言葉たったひとつで、瞳美は自分では絶対にできないと思っていたモデル役ができるようになりました。
 自分で自分を信じられなくても、代わりに他の誰かに信じてもらえばいいんです。“俺が信じるお前を信じろ”の精神です。
 誰かを信じるだなんて自分を信じるよりよっぽど簡単じゃないですか。自分が失敗する頻度に比べたら、友達が失敗しているところを見る機会なんてそうそうありませんからね。自分を好きになれない人ほど簡単に他人を信じられるものです。ただし詐欺に遭わないように要注意。

 実際、瞳美は無意識に水面を歩く魔法を使うこともできました。
 星砂の存在が、自分は歩けるんだと信じさせてくれたからです。
 ポポッキーを魔法の杖に見立てたら少しは魔法がうまく使えるようになりました。
 そういうのを持った方がうまくいくと教えてくれた人がいるからです。

雨が降らねば虹は架からず

 「誰にも言わないで。誰にも知られないように、見つからないようにしようって」
 「何で」
 「怖いから。何て言っていいか私もわかんないし。何も知らない方がお互いに楽だから」

 知られたくないことを知られてしまいました。
 どうして知られたくなかったかって、それが普通じゃないことだからです。
 色が見えないのは自分だけで、他の誰も色のない世界なんて見たことなくて、だから言ったところで誰にも理解してもらえないからです。
 「色のない世界なんてうまく想像できないよ・・・」
 ほら。
 言わずにいたらこんな自分でも普通でいられます。だって自分以外の誰も、色が見えない月白瞳美なんて想像もしていないだろうから。

 目立ちたくありませんでした。
 「え、終わり?」「琥珀ちゃんの魔法とだいぶ違うね」「構えて損しちゃったよ」「あれってこの星砂だよね」「おー。こっちの方がいいじゃん」「だよねー」(第2話)
 だって、普通じゃないってちっとも幸せなことじゃありませんでしたから。
 誰かが勝手に期待して、誰かが勝手にガッカリして、そのたびに心かき乱されて、悲しくなって。
 「ひとりでいたいだけなのに、私は何をしにここに来たんだろう」(第2話)
 普通で、目立たない子になれたらいいのにといつも思っていました。
 けれど色鮮やかなこの世界にひとり灰色の私は悪目立ちするばかりで。

 だから、瞳美は大嫌いな自分のことを他人に知られるのが大嫌いでした。
 「慣れないことしようとしたのがいけなかったの。ありがとうございました。私に色を思いださせてくれて。・・・それじゃ」

 知られたくないことを知られた結果――。
 「そういや、将。お前の写真ってモノクロだよな」
 「モノクロ、ですか?」
 「それなら月白さんにもできるんじゃない?」

 瞳美に、思わぬ幸福が訪れました。

 悲しみの雨が降ったあとは虹が架かります。
 「どうしたの。瞳美ちゃんいる?」
 「それが、授業が終わったらすぐ飛び出しちゃって」
 「まあ・・・避けられてるのかな」

 だって、そもそも瞳美は魅力的な人物ですから。いくら特別なところを隠そうとしたところで周りが放っておきません。

 悲しみの雨が降ったあとは虹が架かります。
 「ご、ごめんなさい!」
 「違う。これは頼んだ私たちの責任。あなたが謝る必要なんてないのよ」
 「そうそう。悪かったのは俺たちだから」
 「気にしないで、瞳美ちゃん」

 だって、瞳美が自分を嫌っていても、周りの誰かがあなたを好きでいてくれるんですから。瞳美が自分から切り出さなければと思っていた謝罪は向こうから為され、まるで魔法のようにすべてが好ましく整えられていきました。

 知られたくないことを知られた結果。
 「――入部させてください!」
 瞳美に、ひとりぼっちではない新しい居場所ができました。

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