メルクストーリア 第3話感想 彼女の言葉に悪意はなく、けれど知識も足りてなくて。

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そんなことあなたに言われたくないわ! “羽根があるのに飛べない妖精”に!

(主観的)あらすじ

 妖精の国のお姫さま・サローディアはウンザリしていました。毎日毎日歴史の勉強ばっかり。母さまみたいに春の力を使ってみたいのにそっちは誰も教えてくれない。つまらなくてお城を飛び出して、遠くの森で迷子になって、偶然、かわいらしい装飾の短剣が岩に刺さっているのを見つけました。
 もしマジメに歴史を学んでいればそれが英雄王による封印だと気づけたのかもしれません。けれど残念ながらサローディアはその短剣を抜いてしまいました。岩からはたちまち黒き霧が吹き出し、春を食べる邪悪な竜が復活してしまうのでした。

 たまたま国を訪れていたユウは癒術士として妖精の女王に助力を求められました。ユウとしては協力したいのはやまやまですがなにぶん自信がなく・・・思ったままを正直に口にしていると、その言葉を受諾と受け取られて引くに引けなくなってしまいました。
 自分のしてしまったことの重大さに気づいたサローディアはどうにかバレないよう癒術士に魔法の短剣を押しつけようと画策したのですが、失敗し、誤解され、成りゆきで竜の封印に同行することになってしまいました。
 ユウとサローディアの護衛にはふたりの戦士が名乗りを上げました。スガロル族のメネライアとガランドル族のパリストス。ところが両一族は大昔からなにやら折り合いが悪く、サローディアにどちらか片方だけを選ぶよう申し出ます。ろくに事情も知らない彼女にとってはたまったものではありません。勢いに任せて両方一緒についてくるよう命じます。

 竜のもとへ向かうには黒の森を経由するのが近道です。少々危険な地域ですが、“地を知る者”と呼ばれる羽根の萎えた妖精族の案内があれば抜けることもできるでしょう。
 ところが、にべもなく断られてしまいます。「羽根があるのに飛べない妖精」 腹立ち紛れに口をついたサローディアの言葉に、地を知る者は機嫌を損ねて立ち去ってしまうのでした。

 あかん。
 かわええ。
 ちっちゃい子が大好き(ロリコンにあらず。手のひらサイズの小人が性癖ドンピシャなだけ)な私としてはなんたる至上の幸せラブリー空間。主人公たるユウもちっちゃくなってるので絵面としてはそこまでのサイズ感でもないのですが、設定として彼女たちがちっちゃいことが重要なのです。この大冒険のスケールが実はそこまでのスケールではないという感覚的な理解が重要なのです。
 この行き当たりばったりなサローディアが自分の手のひらの上でわたわたしているところを想像してみましょう。ゆるゆる酔っ払いのメネライアが肩に腰掛けてくはーっとしているところを想像してみましょう。陽気なパリストスが興味しんしんに自分の腰まわりを飛びまわっているところを想像してみましょう。女王とか酒場のオッサンとか地を知る者とかが膝の上でマジメくさった顔をしているところを想像してみましょう。
 ・・・今なら蜂蜜の香りのため息を吐ける気がするー! できれば高級なクローバー蜂蜜希望ー! 食べたことないけどー!

 メルクだけでも胸いっぱいなのに私を殺す気ですか。

知識足らず

 「・・・っわー!! もう! つまんない! 毎日毎日歴史の授業ばっかり! そんな言い伝え、ホントかどうかわかんないし!」
 こんな勉強、いったい何の役に立つの? 小学校中学校高校、おそらくは誰しも一度くらいは疑問に思ったことがあるでしょう。私も思いました。コツコツ予習復習するの苦手でしたし。
 当時は何かの本で読んだ、“知識を学ぶことそのものではなく、それに対して様々に考えてみることに意味がある”というカッコよさげな考えかたを信じて耐え忍んだものです。(暗記もの以外)
 それはたしかに事実でした。数学で培った論理的思考や、歴史に学んだ思想の多様性、あと暗記要素ガン無視でも選択問題ならおおむねどうにかならなくもない直感力。大人になった今もそこそこ役に立っています。
 けれど同時に、あのころ学んだ知識そのものも案外日常生活の役に立ったりするんですよね。意外と年に何回かくらいは連立方程式を組み立てる機会がありますし、手元に電卓がないとき素因数分解しながら割り算したりもしますし、地理とか経済とか政治とかの基礎知識があればこそニュースになっていることの背景事情に想像が及ぶことも多々。日常で出くわすちょっとした疑問って、中学校高校くらいの知識があればけっこう自力解決できたりします。細かい部分まで暗記しておく気がなかったのでgoogle併用ではありますが。

 「宝石に花模様――。はぁ。この剣、前にじいやが話してた魔法の剣だったんだわ。あのときの霧――たぶん大昔ナントカ王が封じたっていう竜のこと? ああ、どうしよう!」
 サローディアがもう少しマジメに歴史の勉強をしていたら、もしかしたら短剣を抜く前に封印の意味に気づくことができて、もしかしたら今回の事件はそもそも起こらなかったかもしれません。
 「ああー! 私には母さまみたいな力なんてないもん!」
 女王は春の力を使うには自ら学ぶしかないと言っていました。もしサローディアがダダをこねるばかりではなくもうちょっと向学熱心だったなら、こうなる前に力を使いこなせるようになっていたのかもしれません。

 今話においてサローディアの言動は全般にウカツです。もう少しだけでも思慮深くできていればうまく立ち回れたであろうことを何度も何度も繰り返します。そこがかわいいのですが。
 彼女にはどうにも想像力が欠けています。人里離れた岩に宝剣が刺さっているなら曰わくのひとつくらいあるだろうとか、変装のひとつもなしにどうやって身分を隠したままユウと接触するつもりだったのやらとか。そこがかわいいのですが。
 きっとそういう想像力をふくらませる機会が少なかったんでしょうね。

 賢い人はまったく未経験の事柄においても往々にしてうまく立ち回ることができます。自分がこの歴史の登場人物だったらどういう決断をしただろうとか、自分にこの知識を使う機会があるとしたらいったいどういうときだろうとか、そういうことを勉強の合間合間にほわわんとよく考えるからです。たいてい役に立たないただの妄想遊びで終わるのですが、たまーに役に立ちます。
 学校の勉強に限らず、厨二知識やミリタリ知識の収集中にもそういうのやりますよね。架空のラブレターに宝石言葉を取り入れてみたりとか、学校を占拠するテロリストにどう立ち向かおうかとか。絶対やると思うんですよ。だって楽しいから。
 サローディアのウカツっぷりはそういう妄想遊びの経験不足から来ているんじゃなかろうか。私はそう想像(妄想)します。大して賢くないなりに。

 「そんなことあなたに言われたくないわ! “羽根があるのに飛べない妖精”に!」
 これ自体そもそもあからさまに失言でしたが、それにしても彼女は少しでも疑問に感じなかったんでしょうか。
 どうして彼らは他の妖精たちよりも大地の知識を深めているんだろうか。
 どうして彼らはこんな薄暗い森で暮らしているんだろうか。
 どうして「萎えた羽根」などと自分たちを蔑む言葉選びをしているんだろうか。
 どうして自分たちを「春を知らぬ身」、他の妖精たちを「春の民」と呼び分けるんだろうか。

 まあ私も原作未プレイなので実際の事情は知りませんけどね。けど、そのくらいは想像します。
 せめてそのあたりに少しでも引っかかりを覚えたなら、自分の言葉が思いのほか相手を傷つけてしまいかねないものだと気づくこともできたでしょうに。

自信足らず

 「そ、その。なんとかしたい気持ちはあるんですけど、俺にできるかどうか・・・」
 貧弱無気力な癒術士は詮ないことを言います。「できるかどうか」なんて言われたって、相手はいったいどういうリアクションを返せばいいのやら。

 返せるリアクションなんてそう多くないです。
 「大丈夫なのですよ。やるだけやってみるのです。今までも大きなモンスターだって癒やせてるのです。私もこの美少女っぷりを使って竜を癒やすお手伝いをするのです」
 あ、じゃあ自分にできると思えたならがんばってくれるんだ。
 「むお! ということは、ご尽力いただけるということですかな、癒術士どの!」
 あ、じゃあ自分にできるかぎりのことまではがんばってくれるんだ。

 癒術士であるユウならできると思っているから助力をお願いしているんです。
 できるかどうかと言われたら、そもそも初めからできるものと期待しているんです。本人の自己評価なんて知ったこっちゃなく。
 「できるかどうか」なんて、ユウ以外はそもそも問題にすらしていないんです。

 そこのところユウはわかっていません。
 サローディアとはちょっと違う方向から、彼もまた想像力が足りていません。
 彼はまだ想像することに慣れていません。
 自分が誰かの役に立てている瞬間のイメージを。

 本当はけっこういろんなところでいろんな人の役に立っているのにね。普段からそういう姿を見ているからこそメルクは“できる”と信じてくれるわけで。

足りていないけれど

 「その心意気、買った! 俺も手伝うぜ。勇敢な一族、ガランドルの名にかけて」
 「いいえ、殿下。スガロルの私めをお使いください。いざというとき逃げだすヤカラよりお役に立つはず」
 「――で、お姫さんはどっちと旅に出たいんだ?」
 「ここはひとつ、我々のためにもどちらかひとりをお選びください」

 事情はよくわかりませんが、祖先が何かやらかしたようです。その事実が彼らにとってどれほど重いことなのかは・・・たとえ事情を知れたとしても共感してあげられる気がしませんね。超どうでもいい。
 だからサローディアは「選べ」と言われて選びません。
 「もう! ・・・じゃあふたりセットで! ど、どちらもついてきなさい!」

 サローディアはウカツでなにかと想像力が足りていませんが、良い子です。
 「ああー! 私には母さまみたいな力なんてないもん! そうよ。だから私には関係ないわ。きっとさっきの癒術士がなんとかしてくれるはずよね。うんうん。・・・でもこれって霧を鎮めるのに必要なものよね。癒術士に渡した方がいいんじゃ・・・」
 彼女なりに想像力が及ぶ範囲でなら自分のやるべきことをイメージすることができ、しかもそれは誰かの役に立つことです。自分の過失がバレるリスクはなるべく減らしつつも、やらなければ他の誰かが困るとなれば逃げることだけはしません。本質的にお人好しな子です。

 「んだと!?」「やるか!?」「上等だ!」「ぐぬぬぬぬ・・・」
 どちらも選びませんでした。ここで選んでしまったらどちらかが大きく傷ついてしまうから。あと、余計な恨みを買ってしまうかもしれませんしね。そのくらいのことはサローディアにも想像できました。
 そこまでは誰にでもできることです。ですが、彼女が「ふたりセットで」と言ったときメネライアとパリストスは心底驚いたような顔をします。
 どちらかが傷つくだろうことは誰にでも想像できるでしょう。けれど、そうならない方法を考えることは誰にでもできることではありませんでした。両一族の歴史を詳しく知っているメネライアたちにすらも。普段からいがみあっているふたりはむしろ相手が傷つくことに配慮するという発想がありませんでした。
 この点に関しては知識とか関係なく、サローディアの善性あってこそ。

 知識を学べば想像力も得られ、様々な状況に適切に対応することもできるようになるかもしれません。
 けれど、もしそれが足りないにしても、彼女には他にもできることがありました。

 まだ第3話だからということもありますが、ユウは得意の癒術よりも別のことでよく感謝されてきました。
 癒術はユウにとって重要な特技ですが、別にそれだけが彼の価値ではありません。仮に癒術がなくたって彼はステキな人物です。
 それと同じ。今話においてサローディアは知識と想像力の不足によって苦労しました。ですが、それが彼女のすべてではありません。たとえ知識が足りていなくたって、彼女には他にもステキなところがあります。
 きっととても大切なことだと思います。ひとりの人間のステキさがたったひとつの要素だけに囚われないことって。

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