色づく世界の明日から 第5話感想 私から見たあの子と、あなたの知るあの子。

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瞳美ちゃんに声かけたのは、私に似てるって思ったから。――だけど、そうじゃなかった。

(主観的)あらすじ

 あさぎは悩んでいました。琥珀の占いによると恋愛運が最悪みたいです。今のままだとライバルが現れてカレの気持ちが遠のいてしまう、だとか。思い当たることがありました。幼馴染みの山吹はがんばり屋が好きらしく、最近色々と新しいことに挑戦している瞳美のことをしきりに褒めるのです。
 引っ込み思案のあさぎにはそんなこと恥ずかしくてできません。幼いころからあさぎの手はいつも山吹が引っぱってくれていました。だから好きなのに。
 瞳美のことは自分に似ている気がして親近感を持っていました。けれど全然違いました。魔法が苦手なくせに、あきれるほどたくさん失敗を繰り返して、はじめての星砂づくりを立派に成功させていました。
 彼女を見ているとあさぎも変わりたいと思えました。ほんの少し勇気を出して、ウサギの写真のポストカードをつくってみたいと山吹に告げると、彼は喜んで手伝うことを約束してくれました。

 一方、葵も自分の絵に迷っていました。
 彼の助けになりたくて瞳美は星砂づくりをがんばっていたわけですが、正直なところ葵にとってはその期待が重荷でした。自分の絵にだけ色が見えるという不思議な巡りあわせに、いつになく熱っぽく話す彼女の様子に、自分のために努力してくれたというその熱意に、かえって葵は気分を沈ませるのでした。

 今話は瞳美を外側から見つめる人たちの物語となります。
 瞳美は新しいことに挑戦したがるアクティブな性格ではありません。むしろできるだけ平穏に慎ましやかに暮らしていきたいタイプ。もし本人に聞く機会があれば、おそらくそういう自己評価をするでしょう。
 けれど、周りの人たちの目にはそういうふうに映りません。第一印象はともかく、普段の彼女を知れば知るだけ、実は努力家だったんだなという印象を抱きます。私も同じ印象です。
 本人はただ必死なだけなんですけどね。慣れない生活環境で学ばなきゃいけないことが多くて、色が見えないハンディキャップのせいで普通の生き方を許されなくて。あくまで外的な問題のせいでやむを得ず努力しているだけです。
 けれど彼女以外の人にはそんな事情なんて関係ないわけですよ。彼らの目に映るのは、ともかく彼女ががんばっているという事実だけ。表に現れている部分だけを見てその人となりを判断します。そんなものです。

 あなたの内面まで看破してくれる他人なんてめったにいません。というか、まあ、いません。
 あなたが自分を見つめる瞳はいつだってあなたの顔にひっついていて、他人がその眼球を共有してやることはできません。誰もがそれぞれ自分自身の瞳だけで世界の有り様を見つめています。あなたと全く同じ視点を持ってくれる人なんて、本当は、絶対に、いません。

 それがどういうことかわかるでしょうか?
 “あなたらしさ”というものは、必ずしもあなたの知っている姿だけが正解ではないということですよ。
 他人には絶対見ることのできないあなたの視点があるように、あなたにも絶対見ることができない他人の視点があるんです。幸せなことですね。仮にあなたが自分を嫌いになってしまっても、誰かがあなたの代わりにステキなところを見つけてくれるかもしれないということです。
 あなたが自分をどう思おうと、誰かにとってあなたはすごくカッコいい人かもしれません。あなたがどんなに「それは違う!」と感じても、その人にとってはその印象が正解なんです。
 “あなたらしさ”は、あなたを見つめてくれる人の数だけあるんです。そう考えると少し救われたような気がしませんか?

 私は瞳美のことを努力家だと思っています。すごくカッコいい女の子だと思います。

そんなの私らしくない

 「お前、せっかく写真うまいんだからもっと見てもらえばいいのに」
 「そんなの、恥ずかしい・・・」
 「お店のギャラリーに飾るとか、ポストカードにしてみるとかさ。やってみないとわかんないじゃん」

 それはあなたが私をわかってくれていないだけ。
 たとえば水を氷点下まで冷やせば氷になる、だなんて当たり前のことをわざわざ実験する人がいないように、充分に理解していることなら試さずとも未来予測できます。

 「やってみないとわかんない」なんてことはありません。
 試さずともあさぎは知っています。自分はできない子だと。
 大好きな人がそれをわかってくれていないというのは、だから、ただただ悲しい。
 「できないよ、私・・・」

 ↑の水の例えで「過冷却水というものがあってだな・・・」とか思った人、そのとおりです。今話はそういう物語です。

 「瞳美って星砂に魔法を込めるの初めてだっけ。練習してコツさえ掴めばできると思う」
 「そんなのム――」
 「否定文禁止! これは瞳美にとっても大切な問題なんでしょ」

 瞳美は知っています。自分は魔法がヘタクソだということを。
 けれど琥珀は知っています。瞳美には大きな才能が眠っていることを。

 見る人が変われば事実は変わります。カラフルなこの世界が瞳美にはモノクロに見えてしまうように。
 瞳美には試す前からムリだとわかりきっていることであっても、琥珀からすれば瞳美になら絶対できるようになると信じられます。
 だから、たまには自分の視点を疑ってみるのもいいのではないでしょうか。
 「――うん。やってみる」

 魔法写真美術部の懇親会。ティーパーティーのテーブルに添えられた花はおそらくツツジですね。花言葉は「慎み」となります。
 「こんにちは。準備を手伝おうと思って早めに来ちゃいました」
 あさぎは慎みの強い人物でした。昔から引っ込み思案で、たとえば早めの準備やお菓子づくり、自分にできるとわかっていることなら積極的にできますが、たとえばギャラリー展示やポストカードづくり、新しいことにはとたんに尻込みしてしまいます。

 「友達は将くんだけでした。幼馴染みの私を、将くんはいつも引っぱってくれたんです。昔から面倒見がいいんですよね、将くんって」
 だから好きになりました。いつもリードしてくれる彼の傍でなら、臆病な自分らしいままでもやっていける。
 あんまり一緒にいすぎてクラスメイトにからかわれてしまうこともありました。それでまた遠慮して、敬語口調になって。けれどそれはそれで自分らしい。
 山吹の隣でなら、あさぎはいつもあさぎらしくいられました。
 ツツジの白い花には特に、「初恋」という別の花言葉もあります。

 「あさぎも。これからは先輩になるんだし自覚持てよ。もう少し積極的に――」
 「瞳美ちゃんみたいにですか。・・・わかりました、部長」

 今まではそれを許されていたのに、どうして今さら「変われ」だなんて言うんでしょうか。
 わかっていたことではありました。彼は鈍感でマイペースで、だからこそいつも手を引いてくれていたわけだけれど、同時にこちらの気持ちなんて構いやしないところもある人だって。
 ティーセットやクッキーを並べた華やかなテーブルの上に無遠慮に揚げ物を広げるような人でした。それだけならまだ構いません。こちらも慎み深く用意していたティーセットを片付けて、紙コップでソフトドリンクを飲むスタイルに合わせるだけです。
 「“今のままだと”恋愛運は最悪。ライバルが現れて彼の気持ちが遠のいていきます」
 ・・・それだけなら自分らしさを守ったままで合わせてあげられるのに、どうして“らしさ”にまで干渉してくるのでしょう。

 それは、だって、山吹は新しいことにどんどん挑戦するタイプの人だから。そういうのを好む人だから。そういう人だからこそ、あさぎも彼のことを好きになったのだから。
 「――私も変わりたいな」
 こんな自分のままじゃ彼に好きになってもらえないって、本当はわかっていました。

思っていたあなたと違ってた

 「瞳美ちゃん、はじめて星砂つくったって」
 自分と同じで、できない人だと思っていました。けれど違っていました。
 はじめて知り合った彼女は地図とにらめっこしながら所在なさげにしていました。不思議なくらいおどおどしていて、何を聞いてもぽつりぽつりとしか話してくれませんでした。
 よく道に迷っていたり、当たり前のことを知らなかったり、魔法使いなのに魔法を失敗したり、そういうダメなところのたくさんある子だと思っていました。
 けれどいつの間にかちゃんと居場所をつくっていて、彼女の方から入部したいって言ってくれて、新しい魔法も成功させて、本当はいろんなことができる子なんだって段々わかってきました。

 「瞳美って魔法が苦手だから星砂つくるのもすごく大変だったんだ。どれだけ失敗したと思う?」
 自分と同じで、できない人だと思っていました。けれど全然違っていました。
 できることがどんどん増えていったのは、彼女の努力に裏打ちされた結果でした。
 山吹みたいに子どものころからなんでもできたわけじゃない。琥珀みたいなわかりやすい才能を持っているわけでもない。
 見ず知らずの土地でゼロから努力を積み重ねていける。へこたれない、諦めない、努力の才能みたいなものを持っていることがわかってきました。
 ますます自分とは全然違って見えました。

 「瞳美ちゃんに声かけたのは、私に似てるって思ったから。――だけど、そうじゃなかった」

 部活のみんなと打ち解けた。星砂づくりを成功させた。しかもその裏では新しいことに挑戦するためのすさまじい努力を重ねていた。
 あさぎの視点から見た瞳美は大変な努力家です。逆立ちしたって自分には到底マネできない、すごいことをしているように見えます。

 けれどそれはあくまであさぎの視点。
 「きっと大丈夫。そのへんは占わなくてもわかるから、私」
 琥珀の視点から見た瞳美はまた違った姿をしています。
 彼女はいつも自信なさげで、いつも否定的なことばかり口にしていて、やってみればできそうなことにもいちいち腰が重くて。今回の星砂づくりだって、“葵の新しい絵を見たい”という明確な目的があってやっと挑戦する気になってくれたほど。
 むしろあさぎに似ているくらいに思えます。

 「――うん。やってみる」
 「――私も変わりたいな」

 今の自分を変えたいという思いを抱くふたりは、なるほど、よく似ています。
 だったらきっと大丈夫。瞳美はちゃんとできたのだから。
 あさぎの視点から見た瞳美と琥珀にとっての瞳美がそれぞれ違っているように、あさぎにとっての“あさぎらしさ”と琥珀から見た“あさぎらしさ”もまた、少し違っています。

 白いツツジの花にはさらに別の花言葉も託されています。たとえば「あなたに愛されて幸せ」。
 「将くん。私、ウサギのポストカードつくってみようかな。・・・将くんも手伝ってくれる?」
 「おう。もちろん」

 あなた好みの私になるためなら、こんな私にだってきっと自分を変えられる。自分と似ていた瞳美みたいに。

 さっきから都合よくいろんな花言葉を引用していますが、花言葉って割とそういうものです。
 いろんな人がひとつの花のいろんな個性にいろんな意味を見出して、それぞれ勝手にいろんなメッセージを託しています。
 ものの見えかたは同じひとつのものでも人によって様々で、ときどき他人の視点に触れては新たな道が開けたり心が救われたりすることがあります。

そして今週のヒロインボーイ

 すっかりヒロインムーブが板についた葵は今週もメンドクサイ子です。
 どうやら自分の絵に行き詰まりを感じているらしい様子の彼は、瞳美が新しい絵に期待しているという話をするたびに複雑な表情で視線をそらします。
 光栄なような、荷が重いような、嬉しいような、苦痛なような。

 「私、もう何年も色がわからず過ごしてきました。空の色も、花の色も、夕日も虹も。だからいろんなものを諦めてて。でも先輩の絵を見たとき、目の前が色であふれて。まるで私に『色を思いだせ』って言ってるみたいで。どうしてかはわかりませんが、私にとって先輩の絵はとても大切なもののように思えるんです」
 「・・・そっか」

 重い。
 瞳美が思いを込めてつくった星砂には、星空を出す魔法だけでなく、以前葵が描いた金色の魚まで封入されていました。彼女にはよほど感動が深かったのでしょう。金色の魚は葵のいつも使っているタブレットへと泳いでいきます。まるで次の絵を催促しているかのように。
 あさぎにとって瞳美のがんばる姿はあさぎ自身の救いになりえましたが、葵にとっては今のところ重荷として感じるところが大きい様子。

 次回予告を聞いた感じ、そろそろ爆発するっぽいですね。
 今まで隠されてきた葵の新たな一面を見ることになって、さて、瞳美はいったい何を思うのでしょうか。

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