えんどろ~! 第7話感想 好きな人ってどういう人だっただろう?

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・・・えー? それって誰ー?

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(主観的)あらすじ

 歴代998編の勇者物語を愛読するローナ姫はある日はたと気付きました。そういえば、今代の勇者の物語を彩るべき仲間たちのことをまだよく知らない。それはいけない。だって自分は今代の勇者を愛する姫なのだから。現勇者をいっそう魅力的に思うためにも、彼女の仲間たちと交流を持たなければ。
 そういうわけで、ローナ姫はユーシャの友達ひとりひとりに密着して人となりを観察することにしました。はじめはセイラ、次はメイ。ふたりともたいがいトンチキな子たちでしたが、ローナ姫の目には「さすが勇者様のお仲間!」と納得できる人物として映りました。だってふたりとも、歴代の勇者物語に綴られた逸話とどこか似ているところがあったんですから。

 3番目のファイはちょうど旅行に出かけるところでした。森で育ったという彼女はときどき野生の勘を取り戻すべく、こうして身ひとつの旅に身を置くのだそうです。
 イヤな予感を感じつつ同行してみると案の定。木登り、飛び降り、河渡り。たいへんハードでアスレチッキーで、それでいてローナ姫の力では途中離脱することすらままなりません。しんどい思いをしながらも最後まで付きあうしかありませんでした。
 旅の途中、ファイはローナ姫に尋ねます。ユーシャのことが好きなの? もちろんローナ姫はうっとりとして自分がいかに勇者を愛しているか滔々と語ります。凜々しく、力強く、頼りがいがあって――。ファイにはローナ姫が誰のことを話しているのかよくわかりませんでした。

 旅の最終日はとある村を訪れました。アンデルメロンという果物の特産地で、この時期ちょうど大食い大会を催しているそうです。もちろんファイもこの大会がお目当て。ローナ姫とチームを組んで参加しました。
 ところが、実はローナ姫はこの果物が大のニガテ。最初のうちは食いしん坊のファイがひとりで他のチームを圧倒していましたが、優勝を目前にしてさすがにお腹がいっぱいに。このままでは負けてしまいます。ちょっとだけ残念そうな顔をするファイを見て、ローナ姫は覚悟を決めることにしました。

 ローナ姫がひとつ食べきったことが決め手となり、ふたりはみごと大食い大会に優勝することができました。ファイにとってはローナ姫が自分のためにがんばってくれたことが特別に嬉しかったらしく、大はしゃぎしています。
 ローナ姫も自然と嬉しく感じますが、ふと、自分がどうしてこんなに嬉しい気持ちで満たされているのか、少し戸惑うのでした。

 日常モノでありながら、なんだかんだで物語の根底に太いスジがあるこのアニメ。こういうところ、最終話までの連載回数を定めずに描かれる連載マンガ原作とは違う、オリジナル作品ならではの強みですね。企画時点で結末までの道のりがカッチリ定まっているぶん、テーマにもブレが出にくいというか。色々と伏線やら何やら仕込みやすいというか。
 今話のローナ姫は第5話序盤の印象にちょっと逆戻り。・・・逆戻りというとちょっと違うか。彼女はあのとき自分がユーシャのどういうところに惹かれたのか、どうやら自分で自分の気持ちにまだ整理がついていないようです。そのあたり、今話と次話でじっくり解きほぐしていく感じでしょうか。

とりとめなく

「歴代勇者様のご活躍が素晴らしいのはもちろんですが、そのお仲間のみなさまもみな個性的で、それがまた勇者様の魅力をさらに高めるのです」
 今話のローナ姫の行動原理は純粋にファイたちを知りたいというより、ユーシャをもっと好きになりたい、そのために周辺の仲間たちにも詳しくなりたいというものです。ファイたちを通してユーシャを見ようとしているにすぎません。なかなかけっこうに失礼なお話。
 ローナ姫にはその自覚がありません。じゃあ、どうして彼女がこんなことに自分で気付けなかったのかと考えてみると・・・。(だいぶ下の方に続く)

「交流って何するの?」
「仲よくするってことじゃないっスか」
「じゃあいつもと同じだね」

 のほほんと仲よく暮らす日々がユーシャたちにとっての日常です。今回のローナ姫と違って、彼女たちには仲を深めることの先に何か別の目的があるわけではありません。けっして魔王を倒すために仲間になっているわけではありません。
 その意味でも、第1話冒頭のような結末をエンドロールと呼ぶわけにはいきません。

「あなたたちの誰かが必ず忘れるからでしょ。おかげで教科書2セットずつ持ってるよ」
 昨今は教科書類が増えすぎ・ランドセルで持ち運ぶには重すぎということで、いわゆる“置き勉”を容認すべきではないかという議論が広まりつつありますが、この世界ではどこ吹く風。だってカルタードに収納すればいいんだから。
 「お前そんなのどこに持ち歩いていたんだ」というヤボなツッコミを回避する設定として、つくづくカルタードというアイディアは優秀だと思います。なんといっても夢がありますもん。私も欲しい。

「新入荷の確認ができればいいんスよ。それにゆっくりしている時間もないっスから。この街にあるカルタードショップ全部まわるっスよ」
 オタクの習性・・・というか悲哀というか。あまり収集癖のない私ですら、ネット通販ができる前はマンガやライトノベルを買うために近隣3市くらいの主立った書店の傾向をひととおり把握していました。特に出初めのころのライトノベルなんか常設の棚スペースがすっごい狭くて、新刊として平積みされている期間を逃すともう二度と入荷されなかったりして。なにせアニメイトすらないド田舎でしたから。
 マイナーなシリーズだとそこまでしてもちょくちょく歯抜けが出てしまっていたので、古本屋に流れるのを待って数ヶ月スパンで集めたりもしていました。Amazonは偉大。

「待てい! それを受け取ってしまったらカルタードコレクターとしておしまいじゃぞ」
 逆に収集家としてのこだわりはないので、私はこのへんの感性がよくわからなかったり。手に入れられることこそ絶対正義。Amazonは偉大。

「でも、ファイ様の荷物はどこなのですか?」
 むしろ武器も旅道具も食材すらもカルタードに収納できる世界にトランクケースがあることの方が驚きですが。

「いえいえ。充分交流できましたし、ファイ様のこともよくわかりましたし」
 この時点でローナ姫にファイのことを理解できたという実感はほとんどない(歴代勇者パーティの逸話との齟齬がどんどん大きくなってきている)はずです。それにも関わらず彼女は途中で切り上げようとしました。
 単純についていくのが大変だという事情もありますが、それ以前にファイへの興味がだいぶ薄れてしまっているのでしょう。以後、ローナ姫はファイの言動を歴代勇者パーティの逸話に当てはめることをやめてしまいます。あれだけ「第○○○代目勇者パーティの~」と繰り返していたくせに、このシーンを境にバッサリ。
 結論:ファイは規格外。これ以上ファイを知ったところで、ユーシャを歴代勇者の系譜として理解する役には立たないでしょう。

「なんというサバイバル知識! さすがは愛しいユーシャ様のお仲間のファイ様」
 というわけで、「第○○○代目勇者パーティの~」という枕詞を使うのをやめるとこんな言い回しになります。
 今回、ローナ姫はファイたちを通してユーシャという人物を知ろうとしました。もちろんユーシャのことが好きだからです。第5話で「私だから」と言い切ったユーシャの言葉、あれが彼女の胸に強く響きました。
 けれど同時に、ユーシャはローナ姫が幼いころから憧れていた“勇者”のイメージとは絶対的に異なる人物でした。なにしろそもそもが女の子です。そのギャップがあったからこそ、ローナ姫は今回ことさらにファイたちを歴代勇者パーティに当てはめようとがんばったわけです。
 自分が今大好きなユーシャは、やっぱりずっと昔から憧れていた“勇者”様なんだって、自分を納得させるために。
 ・・・なのに、ファイが規格外だと気付いてなお、ローナ姫はファイがステキな長所を持っていることを嬉しく思います。ファイはちっとも勇者パーティらしくない人物だというのに、ファイみたいなのが仲間じゃユーシャはますます勇者のイメージから遠ざかってしまうのに、不思議と。

「凜々しく、力強く、頼りがいがあって、たまに荒々しく、それでいて私を優しくエスコートしてくださる素晴らしいおかた!」
「・・・えー? それって誰ー」

 それは明らかにユーシャではなく歴代勇者の話です。ローナ姫は無自覚にユーシャを歴代勇者と同一に見ようとしてしまっています。
 ローナ姫がユーシャを好きになったきっかけって、むしろ「私だから」と勇者らしさにこだわらないところだったはずなのにね。どうしてこんな奇妙なねじれが生じてしまうのかといえば・・・まあ、そのあたりの心情は次話あたりで語られるのでしょう。
 ですが、以降のファイとの関わりかたを見ていると、なんとなく察せるものがありますね。

「大好きなんだ。噛むとあんこが出てくるアンダスメロン!」
 アンダスメロンはアンダス村特産だからこういう品種名になったのだと思われますが、実は元ネタのアンデスメロンの方は意外にもアンデス山脈と一切関係ありません。“安心ですメロン”というクソダサな命名案を縮めて“アンデスメロン”と呼ぶようになったんです。
 ちなみに大玉のメロンの重量は皮まで含めると1個あたり1kgほど。10個で10kg、39個食べたら39kgですね。ファイの胃袋は4次元空間にでもつながっているのでしょう。

「ただいまよりアンダスメロン大食い大会決勝を行います! 10分に10玉というハードルが高かったのか3組が時間切れで失格。今年決勝に進んだのはこの2組です!」
 全参加チーム同時参加の予選という闇。(闇ではない)

誰が好きなのか、どうして好きなのか

 「私、幼いころからずっと勇者様に憧れていたんです。勇者様の冒険に胸を弾ませ、もし本物の勇者様が現れたら――なんて、いつも考えていました。そして勇者様のお嫁さんになるのが夢でした」(第5話)
 ローナ姫は勇者という存在に憧れていました。いつか結婚したいとずっと夢見てきました。
 「でも私たち、女の子同士だよ」(第5話)
 けれど、実物は憧れとずいぶん違っていました。根本的な話、勇者は女の子でした。
 「愛の前には些末なことですし、法律程度ならなんとでもなります。お願いします。私を、ローナを、どうか勇者様のおそばに」(第5話)
 外的な障害はどうとでもなるでしょう。残るは自分の気持ちの問題です。けれどその自分の気持ちこそが何よりも難しい。

 ローナ姫が愛読していた物語の勇者は男性でした。ローナ姫が憧れていた結婚相手は男性でした。けれど、ユーシャは女の子。
 愛さえあれば法律程度どうとでもなります。けれど、そもそも自分の心に愛は芽生えているか。
 「“勇者だから”ではなくて、“自分だから”。・・・あら? あらら? ――あら?」(第5話)
 芽生えていました。間違いなく。けれど、それでもやっぱり、その人は憧れていた人とはちょっと違う。
 けれど。けれど。けれど。

 「はあー。何度読んでも勇者物語は最高です」
 憧れは、ユーシャを好きになった今もなおこの胸に。

 「さすが勇者様パーティのエレノワール様。第18代目勇者パーティの聖者様も――」
 「さすがエレノワール様。第132代目勇者パーティの聖者様も――」
 「さすがエレノワール様。第571代目勇者パーティの聖者様も――」
 「さすが勇者様のパーティの一員、メイザ様。第36代目勇者パーティの魔法使い様も――」
 「さすがメイザ様。第888代目勇者パーティの魔法使い様も――」
 「素晴らしいです! 第337代目勇者パーティの戦士様も――」

 探してみれば見つかるものです。今自分が好きな人と、ずっと憧れていた人との共通点。
 あの人のことを好きになったのは間違いじゃなかったんだって、安心できます。自信が湧きます。
 今好きな人はずっと憧れていた人。今の私は子どものころ憧れていた未来の自分そのもの。私は一貫して何も間違っていない。

 「な、なるほど。第674代目勇者パーティの戦士様も――」
 「ななな、なるほど。第70代目勇者パーティの戦士様も――」
 「・・・なるほど。第92代目勇者パーティの戦士様も――」
 「そ、そうですね。第927代目勇者パーティの戦士様も――」

 けれど、やっぱりどうしても共通点とは言いがたい部分も見つかります。さすがに野生児であることとイルカに乗って戦ったという逸話は遠すぎる。そもそもセイラやメイに見出した歴代との共通点だってハタから見たら大概なもの。
 じゃあ、ユーシャはあなたが好きになるべき人ではなかった?

 「なんというサバイバル知識! さすがは愛しいユーシャ様のお仲間のファイ様」

 いいえ。それでも好きだという気持ちだけは確かです。
 たとえ歴代勇者パーティとの共通点をちっとも見出せない子が仲間だとしても、それでも愛しいと思えるくらいには・・・?

 いいえ。
 「それは“勇者様だから”、ですか?」
 「それとはちょっと違う・・・ぽい? えーと、えと、・・・“私だから”! かな?」
(第5話)
 そもそもローナ姫が好きになったユーシャは、むしろ勇者らしさに固執しない子でした。友達といっしょに勇者っぽいことができればそれで満足で、そのくせ勇者としての義務感で自分を縛ったりはしない、肩肘張らない、心の自由な女の子でした。
 「荷物なんて持たないよ! 野生を思い出す旅なんだから!」
 「やっほー! いい眺めー!」
 「次はこれね。やっほー!」
 「やっぱり野生は楽しいよねー!」

 “私だから”を大切にする人。“私だから”で何でもできる人。
 ローナ姫が好きになったユーシャは――むしろ、今目の前にいるファイに似ているかもしれません。

 彼女はまだ自覚していないけれど。
 「凜々しく、力強く、頼りがいがあって、たまに荒々しく、それでいて私を優しくエスコートしてくださる素晴らしいおかた!」
 「・・・えー? それって誰ー」

 子どものころからの憧れに縛られてしまって、彼女は自分がどんな人のどんなところを好きになったのか、自分の気持ちをまだ正しく理解できていないけれど。

 ローナ姫が好きになったユーシャは“私だから”を大切にして、“私だから”で何でもできる人。
 勇者なのに、勇者であることに縛られず、心の自由な人。
 「――いいえ。まだです! やあー!!」
 お姫さまなのにはしたなくドレスを破り、お姫さまであることに縛られず口元をあんこまみれにして、今、ローナ姫は自分がしたいと思ったことのために踏み出しました。

 そのありかたこそが今の彼女が好きになった人と同じ姿。
 子どものころとは少し変わったかもしれないけれど、今の自分にとっての新しい憧れ。
 「ありがとう! ファイのためにがんばってくれたんだね。姫ちゃん、ありがとう!」

 「――あら? なんで私、こんなに嬉しいのでしょうか?」

 彼女に自覚はまだありませんが、ローナ姫はこの日、憧れていた人の憧れていたありかたに、少しだけ触れることができました。

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