えんどろ~! 第8話感想 “勇者らしさ”を求める心の迷走。

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そなたに問う。なぜ姫を求める。富か? 地位か? 名声か? では勇者だからか?

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(主観的)あらすじ

 このあいだのあれこれも良いきっかけとなって、ローナ姫とユーシャたちとの距離はますます近くなりました。ローナ姫の胸に日々の充実感がじんわりと宿ります。けれど、同時にはたと気付くのです。ユーシャって、なんだか全然勇者っぽくない!
 そこでローナ姫はマオちゃん先生を巻き込み、一計を案じることにしました。

 朝。突如ユーシャたちのもとに悲痛な知らせが届きました。ローナ姫誘拐。犯人は復活した魔王。ユーシャたちにとってローナ姫は大切な友達です。もちろんすぐ救出に向かうことを決めました。・・・ついでにもちろん、これはローナ姫が仕組んだ茶番劇です。
 魔王城には幾多の罠やモンスターたちが待ち受けていました。マオちゃん先生プロデュースの、安全に配慮されつくした逸品揃いです。けれどユーシャたちの勇者らしい活躍が見たかったローナ姫は不満顔。もっと危険でハラハラする試練が欲しいと主張します。
 実際、ローナ姫が加減なしにプロデュースしたニセ魔王四天王はユーシャたちを絶体絶命にまで追い詰めました。傷つき倒れ、しかしけっして諦めずに戦いつづけるユーシャたち。それは間違いなくローナ姫が幼いころからずっと見たいと思っていた光景でした。けれどどうしてでしょう、なんだか胸がチクチク痛むのです。

 ついにたどり着いた玉座の間ではマオちゃん先生自ら魔王の姿に変化し、ユーシャたちの前に立ち塞がります。そして斬り結びながら、マオちゃん先生はユーシャに問います。姫を助けようとするのは何のためか? 富か、名声か、はたまた勇者の使命によるものか。ユーシャの答えはシンプル。ローナちゃんは私たちの大切な友達だから! だから助けるんだ!
 ここに至ってローナ姫はようやく自分の間違いに気付きます。ユーシャたちに憧れの勇者物語を重ねて見てしまっていた。本当の彼女たちを見ようとしていなかった。本当のユーシャたちも物語の勇者たちに負けないくらいステキな子たちだったのに。

 後日、この件のお詫びとして、ローナ姫はユーシャたちに昼食をふるまいました。生まれてはじめて自分の手でつくったお弁当。素朴すぎてお姫さまらしくないかもしれませんが、ユーシャたちはおいしい、おいしいと大喜びで頬張るのでした。

 おおむねそういう感じにまとまるだろうなあと思っていた展開を、思っていたよりもステキな感じに、思っていたよりも綿密に描ききってくれた第8話。
 これで魔王も姫も(テンプレ的な / これまで998代続いた / そして第1話アバンで描かれたような)勇者物語に否定的な立場となりました。よほどのことがないかぎり、今後ユーシャが魔王討伐という本来の責務を果たす日は来ないでしょう。
 いったい誰の意志によるものか、物語は本来描かれるべきだったエンドロールを踏み越えて、魔王を討伐しない結末の向こうへと進もうとしています。

 勇者になりたいユーシャは、さて、何をもって勇者と名乗ればいいのでしょうか。
 本人は今のままでも気にしているそぶりを見せませんが、たぶんこのことってユーシャにとってすごく大事なんだと思うんですよね。
 彼女は勇者の使命にこそこだわりませんが、一方で勇者として認められること自体は強く望んでいます。本来ありえた魔王討伐後の未来ではその願いは当然叶えられたことでしょう。たくさんの人に喜ばれ、声援を受け、祝福されて。
 けれど、今描かれつつある物語の未来ではそうなりません。魔王を討伐しないこの物語は本来ありえた顛末より絶対にステキで、これからもより多くの人を幸せにすることでしょう。けれど、このままでは“ユーシャだけは”本来より不幸せです。本来なら叶えられたはずの願いを、少なくとも彼女だけは叶えることができません。

 そんなんでいったい誰のためのエンドロールか。『えんどろ~!』の主人公はあくまでユーリア・シャルデットです。彼女にとっての“めでたしめでたし”が訪れるまで、この物語はエンドロールを迎えようにも迎えられません。
 (いやまあ、第3話とか第4話あたりで落としどころらしいものはすでに提示されているんですけどね)

心のメイロ

 「のう、姫よ。お主はあやつらを危険な目にあわせたいのか?」
 「え? だって“勇者”には危険がつきものじゃないですか。――あら? ですが、勇者様たちにそんな危険なことをさせるのは・・・。あら? あらら?」

 「――ふむ。では、今日のあやつらを見てどう思った」
 「え? ――来てくださったときは本当に嬉しかったです。罠のときはハラハラして、戦うお姿は本当にステキでドキドキしました。ですが・・・どうしてでしょう、胸がチクチクします。あんなにも憧れた勇者様の活躍ですのに」

 ローナ姫の心には矛盾がありました。ずっと長いこと2つの矛盾する気持ちを抱えていました。
 「勇者様のお嫁さんになるのが夢でした。その勇者様とこうして本当に出会うことができるだなんて!」(第5話)
 ひとつは勇者物語に対する憧れ。ユーシャに“勇者らしさ”を求めようとしたのが前話と今話でした。
 「“勇者だから”ではなくて、“自分だから”。・・・あら? あらら? ――あら?」(第5話)
 そしてもうひとつはユーシャという個人への憧れ。勇者を名乗ろうとしているくせにちっとも“勇者らしさ”に頓着しない自由な精神。ローナ姫はユーシャに出会って、まずそこに惹かれていました。

 どうしてローナ姫がそういう自由な在りかたに惹かれたのかまでは詳しく語られません。たぶん、今後も今話で語られた以上のことは語られないんじゃないかなと思います。
 ですがまあ、王女様なら当然色々あるでしょうからね。そこは想像に難くない範囲。キャラクターのロールを示すだけでおおよその背景を察することができるのがこの手のテンプレRPGパロディ作品のいいところです。
 「我ら4人、姫様が幼きころよりお仕えしてきた。姫様の幸せこそが我らの願い。あれほどまでに姫様を思ってくれるとは・・・。良いご友人ができましたね、姫様」
 ニセ魔王四天王のこのセリフだけで充分伝わってきますもん。

 「ありがとう! ファイのためにがんばってくれたんだね。姫ちゃん、ありがとう!」(第7話)
 前話においてローナ姫は、ユーシャ以上に全然勇者パーティらしくないファイに翻弄され、そして自分もちっともお姫さまらしくないがんばりを示すことで、不思議な充足感を感じていました。
 それこそが今の彼女が憧れているもの。
 「お姫さまだからとか、勇者だからとか、そんなの関係ない。ローナちゃんは、――ローナちゃんは私たちの友達だから! だから助けるんだ!」
 それこそが“勇者らしさ”ではない“ユーシャらしさ”。

 今回になってようやく、ローナ姫は自分がユーシャのどこに惹かれていたのかをはっきり自覚します。
 「いえ、あの・・・。はじめてつくったんです。お口に合えばよいのですが・・・」
 “らしく”なってみたい。たとえお姫さまらしくなかったとしても、それでも大好きな友達の前で胸を張っていられるような、自分らしさ。

 ローナ姫が好きになったユーシャはそういう子でした。
 勇者物語に描かれるような勇者らしさはあんまり・・・だけれど、それでもステキだと自信を持って言える憧れの人。ローナ姫の心に矛盾なんて最初からありませんでした。ずっとずっと、出会ったときからもう長いこと、彼女のそういうところが好きでした。
 私のユーシャ様。

 ・・・ただ、ユーシャが本当に“勇者らしさ”に頓着していないのかというと、別にそんなことはないんですけどね。
 「でも、そっか。魔王はいなかったんだね」
 勇者の使命を果たすことにはこだわっていないくせに、みんなに勇者と認められることは強く望んでいます。
 自分の行動理念に勇者であることが一切関係ないことを自覚しているくせに、みんなに勇者らしくないと言われることをとても気にしてしまいます。

 ユーシャの心は矛盾しています。
 ローナ姫の矛盾は今話で解消されましたが、彼女の心は、今もなお。

 こうやって長々と感想文を書いているとつくづく思うのですが、この子のことが一番よくわかんないんです。
 どういう勇者になりたいんだろう。どうして勇者になりたいんだろう。この子にとって勇者って何なんだろう。彼女の言葉を聞いても今ひとつはっきり見えてこないんです。彼女の語る勇者像ってすっごいふわふわしているんです。それこそ、私たちが漠然とイメージするテンプレRPGのテンプレ勇者くらいに。
 たぶん、彼女自身まだ明確にイメージできていないんじゃないかと思います。自分がどうなりたいのか。何を目指しているのか。何を為せば自分に納得できるのか。だから語る言葉がふわふわしている。自分が矛盾していることに気付けない。

 今話までのローナ姫と同じくらい、本当はユーシャも自分自身の心を理解できていないんじゃないかと思うんです。

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