メルクストーリア 第5話感想 誰がシャオリンを閉じ込めたのか。

くだらない同情なんぞでお前みたいなシチメンドクサイ泣き虫の面倒をここまで見るか!

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(主観的)あらすじ

 紅禍の星のもとに生まれたシャオリンは屋敷のなかでいつもさびしい思いをしていました。禍を他人に移してはいけないから、実の兄とすら関わらないようにずっと生きてきました。ただひとり、教育係として傍にいてくれたシージェを除いては。
 一生誰とも触れあえず、一生誰の役にも立てない。そんな運命はイヤでした。だからシャオリンは屋敷を抜け出して、一生の幸福を授けてくれるという神獣様を探すことにしました。

 後から追いかけてきたシージェが言うには、実はシャオリンに紅禍の星を占ったのは彼の父だったそうです。・・・それはつまり、シージェは責任を感じてシャオリンの傍にいてくれていたという意味でしょうか。
 悲しくなりました。やっぱり紅禍の星はみんなを不幸に巻き込んでしまう。
 シャオリンはシージェと離れてひとりで神獣様を探そうと考えます。けれど、知り合ったばかりのメルクがその手を掴んで離そうとしません。幸福はみんな一緒じゃないと叶えられないからと。

 外の世界には恐ろしいモンスターがいっぱいいました。けれど、癒術士としていくばくかの経験を積んだユウが言うには、モンスターも理由がなければ暴れないんだそうです。
 夜の森で出会ったモンスターにおやつを分け与えてしばらく一緒に過ごしてみると、朝の光に照らされたそのモンスターの毛並みが白銀色に輝きはじめました。そのモンスターは神獣様だったのです。
 折しも屋敷にはモンスターの大群が迫っていて一触即発の瀬戸際。シャオリンが神獣様の助けを借りてその場を収めます。屋敷に押しよせていたモンスターは、実ははぐれた子どもを迎えに来ただけだったのでした。

 こうして紅禍の星の生まれという評判を払拭したシャオリンは、最後に自分の兄と向きあいます。彼女の兄には秘密がありました。彼は周りの人々の気を奪ってしまう特殊な体質で、実はこれまでシャオリンを遠ざけていたのはそちらが原因だったです。
 ひとりで不幸を背負い込むさびしさ、みんなで幸福を分かちあう暖かさを知ったシャオリンは迷わず兄の手を取ります。周りにある禍を全部無くしてしまうために。

 主だった出来事をひととおり拾っていくとやたらあらすじが長くなってしまいますが、実際描かれた物語はごくシンプルです。ひとりぼっちで不幸だった少女は、みんなと触れあうことで幸福を掴みました。めでたしめでたし。
 ゼノブレイド2やゼルダの伝説BotWなどの感想を書いていて(+これまでのゲームプレイ経験で)気付いたことなんですが、ゲームシナリオって(ダンジョン攻略などを挟む都合で)長尺なので、どうしても作品テーマ的に重要なシーンがあっちこっちに分散しちゃうみたいなんですよね。
 シージェとの意思疎通、神獣様との意思疎通、モンスターの群れとの意思疎通、兄との意思疎通。今話はたった30分の間にこんなにもたくさん段階を重ねていったわけですが、こういう重ねっぷりはしみじみゲーム的。もうアニメを観ているだけでゲームをプレイしている感覚になっちゃいますね。
 そんなだからゲームはアニメの原作に向かないなんていわれちゃうんですが。

 ただ、それでもアニメ版『メルクストーリア』はうまいことがんばっている印象です。
 この作品って毎話徹底的に、それはもうガチガチにテーマを固めてあるんですよ。アニメの限られた尺に落とし込むと少々とっ散らかった印象になってしまいがちなゲームシナリオですが、このおかげでストーリーの軸だけは絶対にブレません。原作未プレイでも何を描こうとしているのかわかりやすいですし、クライマックスではちゃんと登場人物たちに共感して感動できるつくりになっています。
 元が短編連作になっているおかげもあって、毎話バリエーション豊かなテーマを扱えているところもいいですよね。それでいて全体としてはユウの視点を通して対話と成長の物語としてまとまっていますし。
 このアニメのそういうところすごい好き。ユーザー(?)フレンドリー。別に脚本家じゃないけど見習いたい。

私の望むものを誰もくれない理由

 「で、でも、みんなに認めてもらえるとは思えないの。結局みんな星読みの予言を気にするわ。だから・・・兄様だって・・・ふええ。みんな私のことが嫌いなんだー!」
 シャオリンは“特別な存在”でした。特別な宿命を負っているとされ、生まれたときから他の人とは違う特別な扱いを受けてきました。要するに忌み子で、要するにひとりぼっちでした。
 生まれつき特別なので、他の人みたいに何かをがんばったところで、他の人と同じに認めてもらえる気がしませんでした。
 生まれつき特別なので、何を望んだって、どうせ一生他の人と一緒にさせてもらえないんだと塞ぎ込んでいました。

 「神獣様の背中に乗って、一人前のお姫さまにしてもらおうかなって」
 シャオリンは生まれつき特別でした。だから、同じ“特別な存在”に救いを求めるしかありませんでした。
 だって特別だから。私は他の人とは違うから。
 だって特別だから。今のままだと誰も私に何もしてくれないから。
 特別じゃなくなるまで、普通の人からは望むことを何ひとつしてもらえないんだから。

 「僕が教育係に左遷されたときから言ってただろ。お前を誰もが認める一流の姫君にしてやる、と」
 「他人の力に頼るんじゃない」

 唯一傍にいてくれるシージェは全部自分でどうにかしろと言ってきます。現実問題、シャオリンが特別な存在ゆえに誰の助けも借りられない以上、たしかにそうするしか状況を変える方法はありません。正論なのかもしれません。
 けれどシャオリンにはそんなこと到底できっこないと思うのです。だってシャオリンが特別なのは“紅禍の星”という宿命ただそれだけであって、実力や才能が特別なわけではないんですから。

 「優しい兄様。この身が忌まわしき星のもとに生まれさえしなければ――。兄様・・・」
 「白銀色をした神獣様は、私たちの祖先と協力し禍を追い払ったっていう、この村に伝わる伝説の存在」

 シャオリンは自分の“特別”が、大嫌いでした。

私の望みを誰も聞いてくれない理由

 「ダメだ! 屋敷に立ち入らせるなとの命を受けているのだ!」
 「それにモンスターを連れている人間など信用できぬ! 早く王国に帰るがいい!」

 ユウはこの少数民族の国においては特別な存在でした。
 ユウはシャオリンと違って特別な生まれというわけではありません。癒術士の力を持っていることくらい、あるいはモンスターと共存していることくらい、王国ではそこまで珍しいことでもありませんでした。
 ただ、この国ではそれが“特別”に見えてしまうというだけで。

 「イヤー! そこの人たち、逃げてー!」
 シャオリンにとってモンスターは恐るべき存在でした。だって言葉が通じないんです。姿かたちが見るからに自分と違うんです。
 意思疎通できっこない、最初から自分とは別の存在なんだって思っていました。
 「あのモンスター、尻尾踏まれていたかったみたいだ」
 「モンスターの気持ち、わかるんだ」

 けれどユウにとってはそうではありませんでした。癒術士にとってモンスターはコミュニケーション可能な相手でした。自分たちと同じで理由がなければ襲いにきたりしないし、説得だってできるんだと知っていました。

 「モンスターってみんな怖いものだと思ってた」
 「理由もなしに暴れるわけがないんだ」

 「ご、ごめんなさい。私、シージェ以外の人とあんまりしゃべったことなくて」
 「――それは、私が星詠みに紅禍の星だって読まれたから」

 シャオリンは自分が特別な存在だと思っていました。だって周りのみんな、自分に対して特別な扱いしかしてくれませんでしたから。
 けれど、ユウは違いました。屋敷の人たちと違ってこの人はちゃんとシャオリンの話を聞いてくれました。神獣様の話にも興味を持ってくれて、一緒に探してくれることを約束してくれました。

 それは、ユウがシャオリンと同じ“特別な存在”だからなのでしょうか?
 いいえ。ユウに自分が特別であるという自覚はありません。それに先の門番たちならともかく、シャオリンはこれまでのところ彼に特別な態度で接してもいません。シャオリンとユウの間に特別な違いなんてひとつもありません。
 いったいどうして?

 ・・・そういえば、もうひとりシャオリンと普通に接してくれる人がいました。
 「紅き禍の星。私がいると禍が起きるの。でも、そんなのウソだってシージェが言ってくれて。その代わり私は一流のお姫さまにならないといけなくて」
 シージェはシャオリンを特別扱いしていませんでした。むしろ特別扱いされてしまう現状を終わらせる方法を考えてくれていました。
 シージェも“特別な存在”なんかじゃないのに。
 「私は神獣様を見つけるまで帰らないから!」
 「なら、あらかじめ下調べをして道の見当ぐらいつけておけ。こっちだ」
 「・・・シージェ?」
 「課外活動なことに変わりはない」

 意外に思ってしまいました。なんとなく、シージェが自分のお願いなんか聞いてくれるわけないと思っていました。
 けれど彼はまるで当たり前であるかのような顔をして、ユウと同じくシャオリンのお願いに付き合ってくれました。
 シージェがシャオリンを特別扱いしたことなんて、一度もありませんでした。

 どうして?
 どうしてこの人たちは特別扱いしないでいてくれるの?

あなたが望みを聞いてくれていた理由

 ひとつ、悲しいことがありました。
 「僕は星読みの一族の末裔。といっても血が薄く、片目にわずかに能力が宿っているだけだが。体力はかなり消耗するんだ」
 「――この際だ。言っておく。お前を禍の星、紅禍と読んだ星読みは僕の父なんだ。お前は僕の父のせいで好きな兄から引き離され、ひとりでさびしく過ごすしかなかった」

 シージェは少しだけ特別な人でした。
 いいえ。そんなことどうでもいい。今突きつけられた事実はそんなのよりももっとずっと悲しいこと。
 シージェにはシャオリンを“特別扱いしない”理由があったんです。シャオリンにはそれが何よりショックでした。

 自分が“特別な存在”なのがイヤでした。
 みんなに特別扱いされないようになりたいと、ずっと思っていました。
 だからこそシージェやユウが普通に接してくれたことを嬉しく感じていました。
 こんな私でもいつか本当に普通になれるのかもしれない、そんな希望が見えた気がして。

 でも、シージェが“特別扱いしない”でいてくれたことには、結局“特別”な理由があったんです。

 ・・・いいえ。
 またしても、いいえ。
 「シージェ。私はシージェに何もしてあげられないのに、なんで? 罪滅ぼしだって言うんでしょ! シージェのお父さんのせいだって。そんな同情や罪悪感で傍にいてほしくない!」
 「誰が! くだらない同情なんぞでお前みたいなシチメンドクサイ泣き虫の面倒をここまで見るか!」

 その程度のことが特別な理由であってなるものか。
 「全部な、全部、お前が好きだから――と言うとでも思ったか、バカが! 全部僕の出世のために決まってるだろ」
 そんなくだらない“特別”なんかより、もっと大切な理由がある。
 「いいか。物わかりの悪いお前にはっきり言ってやる。僕は見込みのないやつの面倒を見たりなんかしない。お前は僕と一緒に成り上がるんだ」
 ただ自分が一緒にいたいと思ったから、だから普通に接してきたんだ。

 シージェが特別扱いしないでいてくれるのは、父親のしたことに負い目があるから?
 いいえ。話を聞いただけではそれが理由かと思ってしまいましたが、実際には違いました。

 モンスターは言葉の通じない恐ろしい存在?
 いいえ。それはシャオリンがよく知らなかっただけで、本当はわかりあえる相手でした。

 王国の癒術士であるユウは特別な存在?
 いいえ。この国では多少珍しい存在かもしれませんが、少なくともシャオリンには普通に見えました。

 じゃあ、紅禍の星の生まれって“特別な存在”?
 いいえ。

私がひとりぼっちだった理由

 「シージェ。ごめんなさい。やっぱり私は禍をもたらしてばかり」
 「シャオリンさんは悪くないのですよ」

 紅禍の星のことをよく知らない人たちは気にせず普通に接してくれました。

 「シャオリンは自分が禍の星だって信じているのか?」
 「シージェは気にするなって言うけど、村では星読みの予言は絶対だもん」

 でも、紅禍の星のことを知っている人のなかにだって普通に接してくれる人はいました。
 気にしていたのはむしろ自分の方でした。

 「私がみんなを不幸にするなら、ずっとひとりでいい」
 自分が。そう、自分が、自分を不幸に追いやっていたんです。
 「幸福はひとりじゃ叶えられないのです。みんな一緒でないと叶わないものなのですよ」
 ひとりぼっちはさびしい日々でした。それがイヤで、“特別”から抜け出してみんなと一緒にいたくて、神獣様を探すことにしたのでした。シャオリンは幸福になりたいのでした。
 幸福になりたいくせに、自ら不幸に身を置いていたのでした。

 何のために?
 さあ。今となってはいったい何のためだったのやら。

 いろんなことを知りませんでした。
 いろんなことを知ろうとしてきませんでした。
 「で、でも、みんなに認めてもらえるとは思えないの。結局みんな星読みの予言を気にするわ。だから・・・兄様だって・・・ふええ。みんな私のことが嫌いなんだー!」
 確かめもせず勝手に思い込んでいました。
 試しに周りの人の心に触れてみれば、本当は誰ひとり自分を嫌っている人なんていませんでした。

 「・・・お腹が空いてたみたいね。いいものがあるわ。途中で食べようと思って持ってきてたの。あなたにあげる」
 もう一度勇気を出して確かめてみます。
 やっぱり。あれだけ恐ろしく思えていたモンスターすらも、本当は私を嫌ってなんかいませんでした。

 白銀色の神獣様は森に住むモンスターの一種でした。太陽の光を浴びることで体毛の色が変わる不思議な性質を持っているのでした。
 そんなこと今まで誰も知りませんでした。
 誰も知ろうとしてきませんでした。
 あれは恐ろしいモンスターなんだと、最初から決めつけて。

私が“特別”だった理由

 「来るぞ! 弓を構えろ!」
 「早く逃げなさい!」
 「何だ!?」
 「攻撃しましょう! でないとこちらがやられて――」

 心には門がありました。
 だって、よく知らないものは怖いですから。
 信じられない他人と自分とを隔て、身を守るためには門を閉ざすことが必要でした。
 だから誰も近くに来てくれなかったんです。門を閉ざしていたのは自分だから。開けることができるのは自分だけだったから。
 「今すぐ兵を引け。事情を知らぬままモンスターと争ってはならない」
 わかりあうことさえできれば、お互いを隔てる門なんて必要なかったのに。

 「星読みが私の生まれた日に“紅禍”と読んでから、私はみんなに迷惑をかけないように屋敷のなかだけで育てられたの。だから、兄様とまともに話したことがないの。遠くから眺めていただけで」
 大好きな兄と触れあえないのは自分の生まれのせいだと思い込んでいました。
 自分の“特別”があまりにも大きく見えていて、他にも理由があるだなんて想像もしていませんでした。
 「違うのだ、シャオリン。すべての原因は私なのだ。――私に触れた者はみな不幸になる」
 兄には兄の特別な事情がありました。周囲の気を自動的に奪ってしまうとかなんとか。
 でも、そんなことどうでもいい。
 だって“特別”なんてものはシャオリンにも、シージェにも、みんなそれぞれにあったんですから。

 そんなものは特別でも何でもない。
 そんなものはひとりぼっちになる理由にならない。
 そんなもののために自分を不幸に追いやる必要なんてない。
 今回のことでシャオリンは学びました。

 「どうしてひとりで背負い込むのです。なんで話してくれなかったのですか。私は兄様の責を分かちあいたい。みんなで手を取って、つなぎあえば、不幸なんてきっと無くなってしまいます!」
 心に門がありました。
 ひとりで閉じこもって、勝手にさびしい思いをしていました。
 今ならわかります。外の世界は想像していたよりずっと優しくて、暖かいところなんだと。
 今なら伝えることができます。かつての自分のように門を閉ざしている人たちに、この幸福な世界のありようを。

 生まれたときからずっと憧れていた外の世界は、憧れていたとおりステキなところでした。

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