映画プリキュアオールスターズF 感想その2 Fantastic. 未知なる思いに出会って。

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ああ。そうだよ、ボクもプリキュアさ。

このブログはあなたが視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

Side SUPREME

大きな出来事2

メインキャラクター:シュプリーム

目標

 プリキュアを理解する。

課題

 シュプリームは自分が最も強いことを確認するため、いくつもの世界を滅ぼしてまわる存在だった。
 彼にとってプリキュアはこれまで戦ってきた相手のなかで最も強い相手だった。もっとも、結局はシュプリームが勝ったのだが。

 シュプリームはプリキュアに興味を持った。どうしてなのかははっきりとしない。自分は強さにしか興味のない存在なのだから、おそらく彼女たちが強かったからだろう。
 シュプリームは自分の姿をプリキュアそっくりにつくり変え、滅ぼした世界の残骸をプリキュアが活躍しやすい環境に改変し、プリキュアを理解するための実験を開始した。

解決

 実験してみたところで結局シュプリームにはプリキュアが何なのか理解できなかった。何故か蘇っていたプリキュアたちと行動をともにし観察もしてみたが、それでもわからなかった。
 理解することを諦めたシュプリームはもう一度プリキュアを滅ぼすことにする。が、どういうわけか今度は勝つことができない。彼女たちは絆の力で世界を元どおりに直すことすらやってのけた。プリキュアの力はまったく想像を超えていた。

 力を合わせた78人のプリキュアとプーカに打ち負かされたとき、シュプリームはようやく全てを理解する。
 プリキュアの強さの理由を。そして、自分がどうしてプリキュアに興味を持ったのかを。
 シュプリームはつまるところ、大切なもののために戦うプリキュアたちの姿に憧れていたのだ。

虹がかかるその瞬間を

 「愛? そんなもので強くなれるわけがない!」
 「なれるよ」

 愛の価値を否定するシュプリームに、みなぎる愛のプリキュア・キュアハートが応じます。

 キュアハート / 愛田マナは幼いころ正義の人でした。周りのみんながよりよく暮らせるよう自ら率先して正しいことを行い、また、素行のよくない子を見つけるたび正しい行いを呼びかけつづけました。
 ただ、そのせいで彼女は素行不良な子たちに復讐されてしまいます。さらにはマナの涙を見た友達が悔しさのあまり暴力で復讐し返してしまう事態に。誰も幸せにならないその惨状を見て、彼女はこのままではいけないと思い直しました。
 中学校に進学したマナは生徒会長になりました。自分のことを好きでいてくれる子なら自分の思いも歓迎してくれる。そうじゃない子たちはむしろ憎しみを募らせてしまう。だったら、まずは自分がみんなに好かれる人になればいいのだと。
 無闇に正しさを呼びかけるのではなく、自分の手の届く範囲で自ら人助けしてまわることに努めました。手の届かない部分は――、周りのみんなの善性を信じて任せることにしました。
 そうすることで、彼女の思いは幼いころよりもむしろ広く受け入れられることとなり、素行不良な生徒たち含めた誰もがマナを信頼してくれるようになったのでした。

 「私ね、マナと会ってからおかしくなっちゃったみたい。マナに優しくしてもらうと胸がドキドキするようになったの。マナが辛そうな顔をすると胸がズキズキするようになったの。ねえ、何なのかな、この気持ち」
 「それは人を思いやる気持ち、愛だよ」
 「愛・・・。これがそうなんだ」
(『ドキドキ!プリキュア』第21話)

 背景に映し出されているのは敵首領の娘・レジーナが仲間に裏切られ、処刑されようとしていたところにマナが駆けつけたシーン。ところが文字通りの命綱は2人分の重さに耐えられそうになく、レジーナはマナを生かすため自らマグマへ身を投じます。
 マナはその選択を許しませんでした。離れゆくレジーナの体を再度掴まえて、彼女は言います。

 「諦めちゃダメ! 『でも』も『だって』も要りません! こんなの全然ピンチじゃないよ。私を誰だと思ってるの? 私は――、大貝第一中学生徒会長よ!」
 「・・・それってすごいの?」
 「すごいよ。生徒会長はみんなの笑顔のためなら、レジーナのパパよりも強くなれるんだから!」
(『ドキドキ!プリキュア』第21話)

 プリキュア・ラブリンク。生徒会長としてみんなと信頼関係を築いたことが彼女の誇りです。
 キュアハート / 愛田マナは、より多くの人に自分の愛を受け入れてもらうために強くなろうと努めたプリキュアでした。

 他方、キュアブロッサム / 花咲つぼみは様々な愛のすれ違いに向きあってきたプリキュアでした。
 つぼみ自身もそういう悲しみを経験してきた子です。両親とも仕事が忙しく留守がちな家庭だったため、彼女は小さいころからずっと寂しい思いをしていました。聞きわけのいい子だった彼女は両親を気遣って自分の寂しい気持ちを包み隠していたのです。・・・気持ちを伝えてさえいれば、彼女の両親はすぐにでも仕事を辞めて家庭を優先してくれる人たちだったのに。
 他のプリキュアの仲間たちも、大好きなお姉さんと自分を見比べて密かに劣等感を募らせていた子、病弱なお兄さんの代わりに家を守るべく少女趣味を封印して男装していた子、大切な人たちを立てつづけに失った経験から後輩プリキュアに厳しい態度で接するようになっていた子と、せっかくの深い愛を心の奥にしまい込んだせいで辛い思いをしていた子ばかり。

 「デューン。悲しみが終わらないのは私たちの力が足りないから。憎しみが尽きないのは私たちの愛がまだ足りないから。だから、だから――」
 「だから、私たちは力を合わせましょう」(『ハートキャッチプリキュア!』第49話)

 尊い思いは最初からそこにあって、なのにひとりの思いだけではあまりにか細く、頼りなく、何かを変えることもできず。
 だからこそ、彼女たちは心のなかにしまい込んでいた思いを積極的に伝えあうよう努め、気持ちを受け取ってもらえる喜びを学び、お互いの絆のあいだで愛の効力を高めていく道を進みました。

 「憎しみは自分を傷つけるだけ。――食らえ、この愛」(『ハートキャッチプリキュア!』第49話)

 憎しみによる分断ではなく、愛による協調を。プリキュア・オープンマイハート。
 キュアブロッサム / 花咲つぼみは、今ここに愛があることを明らかにすることによって、みんなで強くなっていくプリキュアでした。

 シュプリームは「愛で強くなれるわけがない」と言いましたが、ここで対峙している2人のプリキュアはまさに愛の力で強くなったプリキュアです。

 シュプリーム自身、見ていたはずです。

 最初のプリキュアとの戦い。
 これまで様々な世界で戦ってきたどんな戦士よりも手強く、シュプリームに初めて滅びの力を使わせた78人のヒーローたち。
 力の差は歴然。それにも関わらず、彼女たちは何度でも立ち上がってきました。

 お互い、手をつなぎあって。

 世界を滅ぼす直前にシュプリームが見ていたのは、プリキュアたちが手と手を取りあい、励ましあいながら敵に立ち向かう姿でした。

胸の奥の奥、光を当てたら

 「ボクはシュプリーム。あらゆる世界でボクが最も強い存在だということを確かめている」

 シュプリームはこれまでたくさんの世界を滅ぼしてきた存在でした。
 目的はシンプル。自分が最も強い存在であることを確かめるため。

 古いゲームに出てくる魔王のように世界征服を目論んでいたわけではありません。
 少年マンガの主人公のように戦いを通してさらなる強さを得たかったわけでもありません。
 ただ、確かめたかっただけ。

 「驚いたよ。本当に強かった。だからボクは君たちに興味を持った」

 「本当にすごいよ。それでこそボクが欲した力。君たちを倒してボクがプリキュアになる!」

 つまり、彼はプリキュアに興味を抱いた一番最初の段階で、もうすでに自分の感情を正しく理解できていなかったことになります。

 プリキュアは多少手強い敵だったかもしれませんが、最終的にはシュプリームが勝っています。力比べに決着がついているんです。
 それなのにどうしてプリキュアに興味を抱いたんでしょうか?
 あまつさえ、どうして自分よりも弱いことが明らかなプリキュアになろうとしているんでしょうか?

 シュプリームはプリキュアの力を研究するため、一度破壊した世界を再構成して箱庭をつくりました。
 大ボスを頂点に置いた強い敵集団と、弱くて救いを求めるだけの人々がたゆたう世界。
 プリキュアが自分と対決した瞬間の姿だけでなく、案外彼女たちの来歴についてもよく調べていたようです。プリキュアが強きを挫き弱きを助け、その戦いのなかで力をつけてきたことまでは理解できていたんですね。
 そういう箱庭のなかで自らプリキュアとしてふるまい、彼女たちのような強さを手に入れられるものか検証してみました。

 結果は、否。

 アークたちを強敵に設定したといってもシュプリームが苦戦するほどではなかったので、当たり前といえば当たり前。
 そもそもプリキュアはシュプリームに比べると劣る存在なんですから、そもそもこの検証でどういう強さが観測しうるのか根本的なビジョンをはっきりさせていません。
 ただただ無意味な時間が過ぎていきました。

 シュプリームはそもそものところから大きな勘違いをしていたのでした。
 彼がプリキュアに興味を持ったのは、その強さじゃない。
 本当に興味を持ったのはプリキュアたちが手と手を取りあい、お互いに励ましあいながら立ち上がる姿。
 つなぐ手と手。
 固く結ばれた絆。

 シュプリームの興味の対象は最初からそっち。
 自分の研究の動機を見誤っていたから、実験環境の設定から観察すべき視点まで肝心のところが諸々ズレていて、だから得るものが何もなかったんです。

 「どうして他人のことにそこまで盛り上がれるんだ・・・?」

 冷静に、自分を客観視することさえできていれば、自分が本当は何に疑問を感じているのか分析する機会は何度もあったでしょうに。

キミがいる

 シュプリームの手で消滅させられたはずのプリキュアはどういうわけか復活を果たしました。

 それはプリキュアが諦めなかったからこそ起きた奇跡だったのかもしれません。
 あるいは、創世者たるシュプリームが無意識にその存在を渇望していたのかもしれません。

 どちらでも同じことでしょう。
 いずれにせよ、この再会は双方ともにとって望ましい結果になったんですから。

 「このあたりの食材もだいぶわかってきたね」
 「ていうか、私たちずっと食べてませんか?」
 「言えてるー」

 シュプリームが出会ったのはキュアスカイたちのチームでした。
 4チームのなかでもダントツでお気楽な旅をしていたバカ3人。騒いで、食べ物を探して、みんなで食べてみて、おいしかったり酸っぱかったり悲喜こもごも、そしてよく笑う。
 プリキュアは哀れな弱者を救うため日々強敵と死闘を繰りひろげているものではなかったのか? 戦いの日々をシミュレーションする箱庭までつくったシュプリームにしてみればさぞ肩すかしだったことでしょう。けれどこれこそがプリキュアらしい、いつものありかた。
 シュプリームだって、プリキュアが日々戦ってきたことを把握しているのなら、彼女たちが普段からこういうふうに何気ない日常を楽しんでいた姿も合わせて調べていたはずです。今さら無意味だったと落胆するような話ではありません。

 だけどきっと、そのときはまだ見えていなかったんでしょうね。
 全然大事なことだと思っていなかったから。
 シュプリームにとっては強いかどうかが全てだったから。

 「本当にすごいよ。それでこそボクが欲した力。君たちを倒してボクがプリキュアになる!」

 プーカの力を借りたとはいえ地球までも再生してみせる。一度手合わせしてなお想像が及ばなかった力の発現に、シュプリームは改めて歓喜します。
 ああ! やはりプリキュアになりたい!
 この力だ。自分はやはり、プリキュアだけが持つ、自分には持ちえない力に興味を引かれていたんだ。彼女たちがこれほどの力を持っていたとはあのとき知らなかったけれど。強者であるシュプリームが弱者であるはずのプリキュアの力に恋い焦がれます。
 そのあからさまな矛盾に彼は気づきません。
 ずっと、途方もなく長い時間、たくさんの世界を渡り歩きながら、強さだけを尺度として生きてきましたから。

 「悲しみが終わらないのは私たちの力が足りないから。憎しみが尽きないのは私たちの愛がまだ足りないから」

 「こんなの全然ピンチじゃないよ。私を誰だと思ってるの? 私は――、大貝第一中学生徒会長よ!」

 彼は理由もなく最強の存在でした。
 彼は戦う理由もないのに戦いつづけてきました。
 彼は強くなりたい理由を持つ者たちの思いなんて、これまで考えたこともありませんでした。

 「何なんだ! 何なんだ、お前たちは!?」
 「私たちは!」「プリキュアです!!」

 つまるところ、彼はプリキュアの、強くあるための理由を手にして戦う姿にずっと憧れていたのでした。

 プリキュアにうち負かされ、ついに最強の力を喪失するシュプリーム。
 彼に残されたのはプリキュアを模倣してつくった虚飾の肉体。あのときプリムと呼んでもらえたもうひとりの自分の姿。

 「ボクはあの姿に憧れていたんだな――

 憧れを目指して、プリムの新しい旅路が今ここから始まります。

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    コメント

    1. ピンク より:

      シリーズ全体では初期でも近作でもなく中間に位置するキュアハートを、比較的矢面に立たせたのはちょっと驚きました。
      「どうせキュアブラックがたくさん喋るんだろぉ?」とか思ってました。まあ実際割と台詞量はありましたけど。

      一緒に観に行った弟が帰り道「シュプリームを最後あのままにして良かったのかな?」と言ってきたのに対し、私もすぐには話を飲み込めてなかったので一瞬詰まってしまいましたね。

      その場では「プーカがいるから大丈夫だよ多分」と答えときましたが、あちこちのレビューや感想を読むうち、なんとなく理解できた気がします。
      彼の言い分を鵜呑みにしすぎて、客観的な事実が上手く見えてなかったようでした。一度自分に負けた相手の秘密を調べるなんて、言われてみれば『最強であることだけ』を指標にしてたら無意味かもですw

      ……ところでシュプリームのことを大体の人がナチュラルに『彼』と言い表わしてるっぽいの、なんかもう本当にプリキュアの定義が広がったんだなーと改めて感じますね。

      • 疲ぃ より:

         シュプリームとプーカは本当に面白いキャラクターでした。最初はこんな長々書くつもりなかったんですが、2回目、3回目と映画館に足を運ぶたびどんどん魅力的に見えてくるんですもん。これは語りたくなります。シュプリームの気持ちがわかってくると、あそこでキュアハートをぶつけてきた東堂いづみプリキュアに詳しすぎだろ、とかまたいろんな味わいも見えてきて。
         いつもだとオールスターズ映画でもその年のシリーズのテーマ性は必ず織り込んでくるはずなので、プリキュアたちの様子を見ていて「あれ? 全然“憧れ”の話にならないな・・・?」って不思議に思っていたんですよ、1回目。それがエンディング間際になって「実は憧れの感情を持っていたのはシュプリームとプーカでしたー」ですもん。あ! あー! あの違和感ある言動全部そういうことだったのね!!っていう。しかも憧れの対象が斜め上!

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