色づく世界の明日から 第8話感想 成果と過程。

あの日からたったひとつのことを願いつづけてきた。私は魔法でみんなを幸せにしたい!

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(主観的)あらすじ

 琥珀は自分の魔法でみんなを幸せにしたいと願っていました。
 だから、たとえば瞳美の目に色を取り戻せないものか実験する日がありました。
 だから、たとえばいつか瞳美が未来に帰りたくなったときのために時間魔法を研究してもしました。
 色の問題は全然でしたが、時間魔法については多少の成果がありました。対象の時間を少しだけ巻き戻す魔法を使えるようになって、琥珀はまた少し自信をつけたのでした。

 一方で瞳美は最近笑顔を見せることが増えていました。
 こちらの生活に慣れてきて、こちらで出会った様々なものに愛着を持ちはじめて、毎日が楽しくなっていました。
 いつか帰ることになってしまうのかもしれないけれど、せめてそれまでに自分が好きだと感じるものひとつひとつを胸に刻みつけておきたいと思っていました。
 正直なところ未来に帰りたくないと思いはじめていました。

 ちょうどあさぎのカメラが壊れたので、琥珀は修得したばかりの時間魔法を使ってあげました。ところが琥珀の魔法は実はまだ不完全で、一晩持たずにすぐ解けてしまうのでした。
 あさぎはそれでも喜んでくれました。けれど、これは琥珀が目指した結果ではありません。
 また、瞳美が今のまま変わらずここにいたいと思いはじめていることを知りました。色のこともそのうちなんとかなるんじゃないかと楽観している気持ちも。
 それでは琥珀の魔法の出番はありません。全部独りよがりの余計なおせっかいだったのかもしれません。
 魔法で人を幸せにするのは難しいことだと、改めて思い知らされました。

 これまでいくつもの小さな出来事を積み重ねて、瞳美は少しずつ今ここにある幸せを見つけてきました。それは瞳美だけではなく、彼女の周りのみんなも同じ。みんな、少しずつ、少しずつ心が満たされていって、なんでもない毎日がとても楽しいものになっていました。
 もういっそのこと、この毎日が永遠に続いてくれたらいいのに。

 琥珀のしていることはけっして間違いではありません。これからどうなるにしろ、彼女が準備していること全て、いつか絶対に必要になります。
 だって、どう抗おうとも明日は来るのですから。
 これから文化祭です。それが終われば3年生は部活を引退、試験勉強に集中して、そのあとは卒業。お別れです。瞳美が幸福に感じているこの毎日はそう遠くないうちに終わりを迎えます。そうなったときの用意を今のうちに整えておくのは絶対にムダではありません。

 けれど、今がいつまでも続いてほしいという思いも確か。
 そういう素朴な祈りに逆らってまで未来を見据えることは、はたして本当に意味のあることなのでしょうか?

同じだけど、ちょっと違う。違うけど、ちょっと同じ。

 「あなたの悪いクセよ。瞳をそらさないこと。せっかく行くんだから楽しんでいらっしゃい」(第1話)
 お婆ちゃんは見かたを変えろと言って送り出してくれました。

 「海は変わらない?」
 「今の方がキラキラしてる気がする。感じ方の違いかな。そういうのも確かめてみたくて。ひとつひとつ」

 果たして変わりました。
 瞳美の瞳に映る景色は2078年の未来より、あるいはほんの数ヶ月前この2018年に来たばかりのころより、美しく思えました。

 「瞳美の写真、前とイメージ変わったよな。人物写真が増えたからかもだけど。はじめは『光なんて要らない』って思ってるような写真が多かった。でも、最近は光を感じる写真が増えた」
 以前の瞳美の写真を見ているわけではないので比較することはできませんが、言われてみれば確かに陽光の使いかたが印象的な作品が多いように感じますね。
 画面の奥に夕日が眩しく輝き、主題となる人物に光を浴びせています。この時間を過ごせる喜び。未来への楽観。そういったものを感じさせます。まるでドラクロワやモネの絵画のごとく、全体を染めあげる光そのものに撮影者の熱情と祈りが込められているかのようです。

 「『私は大丈夫』『ひとりでも平気』。言いつづけているうちにだんだん本当になっていく。これも魔法のせいなのかもしれない。自分を守る、ささやかな魔法」(第1話)
 単純に写真中に人物が登場しているだけでなく、そこに陽光を浴びせていること。光差す世界に周りの人とともにいられることを喜んでいること。今回の瞳美の作品の面白さはそこにあります。
 まあ、さっきから瞳美の人物評ありきで語っているので、仮に写真単体で見たならまた違った評になるのかもしれませんけどね。

 「写真をどういう仕上がりにしたいのかは、自分にどう見えているのか、どう見たいのかで変わってくる」

 「わあ。見て、きれい!」
 「ホントだ。空の色絶妙」
 「梅干し色」
 「鴇色じゃないですか?」
 「もう少し空が見えるところに行こう」
 「・・・大丈夫。ひとりでも平気」
(第1話)
 かつて瞳美にとって陽光とは自分に無関係なものでした。だって空の色が青かろうが赤かろうが、どっちにしろ彼女の目には同じモノクロにしか見えないんですから。
 それがつまらなくてひとりで過ごすことを好むようになったのか、それとも自分の殻に閉じこもるようになったから色彩の感動を他人と共有できなくなったのかはわかりません。ともかく瞳美にとって色が見えないという問題はいつも孤独感とともにありました。

 「この子はどんな色してるの?」
 「白と黒ですよ。瞳美ちゃんが見てるのと同じです。こっちの子は下のクチバシと耳のあたりと胸元が黄色っぽいオレンジ色をしてます」
 「そうなんだ」

 今は違います。前話で秘密を打ち明けて以来、瞳美は色が見えないなりに、友達と色彩の感動を共有できるようになりました。
 もはや色が見えないことは孤独感とセットの概念ではありません。モノクロ世界に属する瞳美にだって、色彩鮮やかな世界のみんなと同じ話題を共有して笑いあうことができたんです。
 「いつからだろう、花火を楽しめなくなったのは。母と一緒に観た花火は、赤、青、黄、緑、オレンジ、全てが美しかったのに。私が大きくなって、大事な人は遠く離れて、いつの間にか、世界は色を失っていた」(第1話)
 色を失ったのと同時に無くしたもうひとつのもの、そろそろ取り戻せたでしょうか。

 「こうして写真に撮りながら、焼き付けておきたいの。みんなのことをずっと忘れないように」

刻よ転

 「この前瞳美の話を聞いてからずっと考えてたの。瞳美が自分にかけたかもしれない、無意識の魔法について。私はね、色が見えないのって、瞳美が自分に魔法をかけたせいじゃないかと思ってるんだ。――わかってるよ。だから無意識だって言ったでしょ。大事なのは最近ときどき色が見えるってところ。つまり、魔法が綻びはじめているのかもしれない」
 おかしなことに、瞳美の色を取り戻すことに熱心になっているのは、本人よりもむしろ琥珀の方になっていました。
 そりゃあそうです。これまで瞳美が色が見えなくて一番辛かったこと――他人と感動を共有できない孤独感は、おおむね解決してしまったんですから。今の瞳美は色が見えないことにさほど困っていません。

 ハンディキャップとはそもそもそういうものです。
 例えば左利きの人も両利き対応の器具を使う分には特段不便を感じないように、例えば道路に段差がなければ車イスの人でも気軽に外を散歩できるように、それによって生じる不都合さえ解消できてしまえばハンディキャップとは共存できるものです。
 もちろん根本的に無くせるものなら無くすに越したことはありませんが、共存できるのなら必ずしもムリに無くす必要は生じないんです。

 「ちゃんと間に合うといいんだけどね、そのときまでに。未来の私が魔法で瞳美をこっちの時間に送ったんだもん。瞳美が戻りたくなったときは私が責任を持って帰してあげたい」
 未来に帰る話もそう。
 少なくとも今のところ瞳美に未来に帰る理由はありません。むしろあちらでは仲が良かったのがお婆ちゃんくらいのものだったので、こちらに来る前ですら執着するものがほとんどありませんでした。

 「みんなと一緒なら、いつかモノクロじゃない写真も撮れるかな。琥珀に言われてからずっと考えてたの。未来に帰りたいかどうか。――ここにいたいな・・・」
 だから、今この瞬間についてだけ考えるなら、それらは琥珀の盛大な空回り。必ずしも解決しなければならない問題ではないのかもしれません。

 けれど――。
 「変わったのかな、私」
 けれど、忘れてはいけません。瞳美が今の幸福感を享受できるようになったのはごく最近のことです。この時代に来てからいくつかの出会いがあって、いくつかの転機があって、その先に今の瞳美がいます。
 どうして今この瞬間の幸せがいつまでも続くと信じることができるでしょうか。
 いくつもの試行錯誤の果てに、たまたまやっとこの幸福にたどり着けたばかりのくせに。

 「“相変わらず”が続くのって、辛くないですか」
 今のこの瞬間に満足できていない人がいます。
 「瞳美。――なんでもない。何か俺に手伝えることがあったらいつでも言って」
 今のこの瞬間を変えるべきか迷っている人がいます。
 瞳美が幸せを感じている“今”は、必ずしも最善ではありません。瞳美の友達になった人たちがまず葛藤していますし、それを抜きにして考えても、瞳美自身もやっぱり色が見えるに越したことはありません。
 そもそもこの幸せな時間は間もなく終わりを迎えます。文化祭。3年生の引退。卒業・・・。
 現状に満足して足踏みを続けることは、はたして瞳美にとって本当に幸せなことなのでしょうか。

 「こんなにステキなものを自分が使えるってことが嬉しくて。世界中に叫びたいくらいの『ありがとう』って気持ち。あの日からたったひとつのことを願いつづけてきた」
 琥珀にとって幼いころに目覚めたばかりの魔法はとてもステキなものでした。周りの家族にとっても。
 たとえ襖を穴だらけにしてしまうハタ迷惑な魔法であっても、間違いなく幸せな時間でした。
 「私は魔法でみんなを幸せにしたい」
 この魔法の力を育てていった先に、今よりもっと幸せな未来が訪れることを予感させてくれたからです。

 「私は魔法でみんなを幸せにしたい。でも、魔法で人を幸せにするのは、本当に難しい・・・」
 今は誰もこれ以上を望まないかもしれません。幸せを得ようとして余計な不幸まで呼び込んでしまうかもしれません。
 けれど、歩みを止めずに前へ進みつづけることは、きっといつか、絶対に必要になることです。
 「瞳美ちゃんに声かけたのは、私に似てるって思ったから。――だけど、そうじゃなかった。私も変わりたいな」(第5話)
 だってそれは、現に瞳美自身がひたむきに証明してきたことなんですから。

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