先生。・・・いえ、魔王。なぜこのようなことを?
(主観的)あらすじ
ユーシャたちが最近メキメキと実力をつけています。ローナ姫も精神的に成長し、マオちゃん先生は彼女たちが先へ進みつつあることを実感していました。
ならば自分も教師として一歩新たな道を進んでみようと考えたマオちゃん先生。さしあたってユーシャたちへのご褒美に手料理をふるまってみました。ところがその料理ときたらファイナルデッドエンド味。あまりに破滅的な味わいに、チビちゃんがなんか色々吐き出してしまいました。
チビちゃんが吐き出したもののなかにはなぜか魔王の側近であるメイドゴーレムも混じっていました。どうやら記憶を失っているようですが、もし彼女の素性が明らかになったらマオちゃん先生はたまったものではありません。監視がてら傍に置くことにしました。
メイドゴーレム(縮めてメイゴ)はかいがいしくマオちゃん先生の身の回りの世話をしてくれました。魔王時代と違って、一緒にご飯を食べてもくれるのでした。
ある日、ローナ姫が記憶を蘇らせるカルタードを持ってきました。そのカルタードを使うとメイゴではなく、ユーシャたちの記憶が蘇りました。本当は彼女たちもマオちゃん先生といっしょにタイムリープしていたようです。
どちらにせよこれでメイゴの正体が明らかになってしまいました。魔王の関係者を放っておくわけにもいかず、メイゴはラパネスタ王国の管理下に置かれることに。
ずっと何かをしなければという漠然とした焦りを抱えていたマオちゃん先生は、これをきっかけとして若気の至りをひた走り、なぜか魔王復活を宣言してしまうのでした。
本来あるべき姿のようで、いざ実現してみると誰も嬉しくない、ずっと先送りにされていた勇者と魔王の決戦が始まります。
こうしてみるとマオちゃん先生もなかなかメンドクサイ子です。つまらなかった魔王としての日々から解放され、教師として市井に暮らす生活にも喜びを見出していたくせに、ひとたび「自分にできることは何か」と悩みはじめると結局魔王に逆戻りすることを選んでしまう。
いったい何のために教え子にご褒美をあげようとしたんでしたっけ? どうして手料理をふるまおうとしたんでしたっけ? 何がしたくてメイゴを庇ったんでしたっけ?
その目的はむしろ、魔王に回帰することと正反対だったのではないですか?
――と、いうところで次回最終話。
ロールに縛られるほど本来望んでいた幸せから遠ざかってしまうこの物語。はたしてロールに固執している筆頭のユーリア・シャルデットは、己の迷走に気付き、今度こそエンドロールへたどり着けるのでしょうか。
ホップ、ステップ、
「なるほど。ユーリア・シャルデットたちといい、勇者マニアだった姫といい、たしかに成長しとるのじゃのう」
気がつけば教え子たちは着実に成長していました。・・・では自分は?
「これもマオちゃんが色々教えてくれたからだよ」
「そうか。これが教え導くということか」
少なくとも誰かの役に立ててはいるようです。なんて素晴らしいこと。
突然この時代に放り出されて路頭に迷ったとき、以前魔王熱にかかってユーシャたちの看病を受けたとき、マオちゃん先生は人の善意や好意を受け取るうれしさを実感しました。心がぽかぽかになる心地でした。それが、今回は自分が教師として与える側に立てたというのです。こんな喜ばしいことはありません。
だから、それを実感した瞬間、少し欲が出ます。
「あー。上級クエストをクリアしたことじゃし、特別にご褒美でもやろうかのう」
教育にはアメとムチが必要だそうです。教師として生きる喜びに目覚めたマオちゃん先生は、だからここでもう一段階ステップアップしてみたいと思いました。
ユーシャたちやローナ姫が成長してみせたように、今度は自分も。
ところが新しく挑戦したステップアップはうまくいきませんでした。
ご褒美――。ユーシャたちにせがまれて招待した我が家はゴミの山。ならばと発憤してつくってみた料理はファイナルデッドエンド。
「いかん! このままでは我の教師としての威厳が地に落ちてしまう」
「そう。寿命の長さにあぐらをかき、『いつか本気出す』と言わんばかりに女子力を捨てきっているこのエルフ娘がごとく、我の威厳が超ピンチ!」
「――ここは教師の威厳を挽回せねば!」
マオちゃん先生は教師としての成長につまずいてしまいました。
ステップ、ストップ、ターン、
「我にも矜持がある! 忠実な部下を切り捨てて何が魔王か!」
マオちゃん先生は教師としての成長につまずいてしまいました。
だったらどうすればいいでしょう?
――簡単なことです。ひとつのことでうまくいかなかったら、別の道を探ればいい。
人生は苦難の連続。生ける道ことごとく茨道。しかして人の可能性とは阿弥陀籤のごとく、地平の向こうで無限に広がりゆくもの。
マオちゃん先生が演じるべき運命(ロール)が冒険者学校の教師だけと誰が決めた。あるではないか。教師の他にもうひとつ、ずっと確実に、誰よりも上手に演じきれるロールが。
「あの魔法でも記憶が戻らなかった以上、もう我の正体を思い出すこともあるまい。これで我の平和な生活も安泰じゃ。悪く思うでないぞ。なに、あの姫のことじゃ。手荒なまねはせんよ」
平和。平和。平和。そういえば教師になったのは安定した生活基盤を得るためでした。平穏な日々をおびやかすメイゴがいなくなるのはむしろ本意のはず。
けれど。
「落ち着くのじゃ、我。見た目こそ人間じゃが、ヤツはしょせんゴーレム。生命を持たず、命じられたことしかできぬ、ただの。ただの・・・」
けれど、ついこの間までマオちゃん先生は何を望んでいたでしょうか。何に焦っていたでしょうか。
「――何も、心配なさらずに」
「なら倒さなきゃ。だって私は勇者だから!」
教え子たちの成長を目の当たりにして、自分も成長したいという欲が湧いたのでした。
知らないうちにメイゴまで以前とはどこか変わっていました。
取り残されていたのは自分だけ。平和な日々にあぐらをかいて、何者かになろうという努力を放棄していたのは自分だけ。愚直なほどにまっすぐなユーシャの決意がまぶしく思えます。
だから。
「我にも矜持がある! 忠実な部下を切り捨てて何が魔王か!」
それなら、――あるじゃないか。少なくとも成長できない教師という無様よりははるかに上手に演じられるロールが。かつて立派に演じてみせていたじゃないか。
魔王。
マオちゃん先生にとって一番最初のロール。
・・・結局それが最善だというのなら、どうして今まで辞めたフリをしていたんでしたっけ?
ジャンプ――。
「先生。・・・いえ、魔王。なぜこのようなことを?」
その答えをマオちゃん先生は持ちません。自分で選んだことのくせに、持ちません。
「やつらがまたあの調子で魔王となった我の前に現れたなら、歴史は再び繰り返されるのか? 我はまたあやつらに振りまわされるのか? そうなるぐらいなら――うん! 我もう魔王やーめた!」(第2話)
だって、かつて自分で否定したことなんですから。
時間を巻き戻したおかげでとっくに理解しているのですから。
魔王として生きる未来に、今さら新しい展開など起こりえないと。
なのに、選んでしまいました。
「・・・いっときのテンションに駆られてうっかりやってしもうた」
焦っていたんです。
教え子たちの成長を気にして。教師としてのつまずきを気にして。
このままじゃダメだと心がはやるばかりに、ろくに考えもせず、とうの昔に見限ったはずのダメ確定ロールに縋ってしまいました。
「そうじゃの。こやつに勇者としての矜持があるように、我にも――」
少なくとも現時点に限っていえば、こちらのほうがまだ多少はプライドを守ることができるから。
ろくな結果にならないとわかっていて、それでも何かに執着してしまう人がいます。
もっとステキな才能を持っているにもかかわらず、延々とひとつのことに固執してしまう人がいます。
事情は様々。かける思いも様々。それでもひとつ、彼らに共通する病理があります。
思考停止。
「どうした、ユーリア・シャルデット。いや、伝説の勇者よ。魔王を倒したいと願ったのはおヌシであろうに」
「マオちゃん、なの・・・?」
「それは“勇者様だから”、ですか?」
「それとはちょっと違う・・・ぽい? えーと、えと、・・・“私だから”! かな?」(第5話)
本来ユーシャらしさと呼べるものは勇者であることと全然関係ないところにありました。
「ユーシャさん、どうしたっスか」
「えっとね。前にも思ったけど、こうやって冒険の準備をするのって楽しいよね」(第4話)
本来ユーシャが幸せを感じることは勇者であることと全然関係ないところにありました。
「魔王超倒したい」
なのに、そういった自分本来の性質をガン無視して、大した理由もなく最初に選んだロールに固執しつづけてきた少女たちがいます。
『えんどろ~!』とはそういう物語です。
誰も幸せになれない、そもそも自分すら幸せにできない、そういうつまらないエンドロールを一旦白紙に戻すかたちでこの物語がはじまりました。
たとえばマオちゃん先生。たとえばローナ姫。たとえば、ユーシャ。
今度こそちゃんと考えなければなりません。何を選べば自分らしくあれるのか。何を為せば自分を幸せにできるのか。
自分が果たすべき役割の先にある未来、エンドロー“ル”はそこからはじまります。
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