
なりたいならさ、なればいいんだよ。プリキュアに!
(主観的)あらすじ
前話の戦いでララたちのロケットが故障してしまいました。当面の住居としてひかるが自分の部屋に招待してくれましたが、ララは自分がいることで彼女に負担をかけてしまうことに負い目を感じ、結局ロケットのところへ戻ってしまいます。
ララはロケットを修理しながら、自分がプリキュアになれる確率を演算してみます。0.000000012%。落ち込みます。ララには責任がありました。彼女は故郷の星では立派な大人。だからフワとプルンスを守るのは、本来なら大人である自分の役目だったのです。
試しにひかるがプリキュアになれる確率も演算してみました。0.000000012%。不思議なことに、ララと同じ確率でした。
そのひかるは奔放な子でした。出会ったばかりのララたちのことを友達と呼ぶわ、家族にバレたら叱られることを承知で部屋に招き入れるわ、初めて見た宇宙の食べ物を平気で口に入れるわ。おまけに、地球人なのにもう何百回と宇宙に行ったことがあるといいます。ただし、頭のなかでの想像ですが。
ララは呆れました。フワとプルンスのことは任せて、とひかるは言いますが、ララの目にはとても責任感があるようには見えません。どうしてこんな子がプリキュアなんだろう。どうしてこんな子にフワたちを守れる力が与えられたんだろう。・・・自分ではなく。
ララのぼやきを聞いたひかるは「なりたいならさ、なればいいんだよ。プリキュアに!」と言います。これもまた、呑気な言いかたで。
昨日に引きつづき、またノットレイダーがフワを狙ってきます。
ひかるがプリキュアに変身して立ち向かいますが、幹部のカッパードだけでなく手下のノットレイダーまでいっぺんに襲ってくるとさすがに手が足りません。必然的にララがフワを守ることになり、しかしプリキュアじゃない彼女では力及ばず、次第に追い詰められてしまいます。
「プリキュアになって!」 ひかるが叫びます。ララもなりたいと思いました。データなんて関係ない、自分がプリキュアになって、自分の力でフワを守りたいと、心から願いました。
2人目のプリキュアはこうして誕生したのでした。
全ての人はそれぞれ為さねばならない大切な役目を担っています。
お母さんがご飯をつくってくれないとみんなお腹を空かせてしまいます。お父さんが仕事をしてくれないとみんな欲しいものも買えません。お爺ちゃんが叱ってくれないと世のなかの大切なことを知ることができませんし、お婆ちゃんが見守ってくれないと安心することができません。子どもは・・・元気な良い子になって、みんなを笑顔にすることが役目でしょうか。
誰もが誰かのためになる大切な役目を担っています。特に大人の人は自分の役目をよく自覚していて、ときどきその責任の重さに苦しんでしまっていますね。
けれど、その“役目”を自分に課したのって、そもそも誰だったでしょうか?
誰があなたに「みんなの役に立ちなさい」って言ったのでしょうか?
想像してみてください。
あなたが自分の役目を為し遂げたとき、一番得をするのって、いったい誰なんでしょうか?
大人の責任
「ララちゃんってすごいよね。ロケット操縦して、修理までできちゃうんだもん」
「いい大人ルン。できて当然ルン」
「え、大人って? いくつなの?」
「地球の年齢だと・・・」
「13歳と249日です」
そういえば惑星ごとに自転周期も公転周期も異なるわけですから、年月の数えかたも惑星ごとに違っているのが当たり前なんですね。
本作はこういう何気ないところでピシッとSFしてます。
「私の星では13歳で大人ルン。だから、ロケットを直してプルンスたちを連れていくっていう、大人の責任があるルン」
公式サイトの羽衣ララの紹介ページでは当初から「惑星サマーンでは大人扱い」という表記がありました。
正直、どうしてこんな設定があるのかずっと疑問でした。 だってプリキュアは子どもが憧れる変身ヒーローです。変身すれば子どもでも大人顔負けのすごいパワーを持てるっていうところが大きな魅力のひとつなんです。大人がプリキュアに変身したってあんまり面白くありません。大人はもともと強くて当たり前です。プリキュアという物語はずっとそういう描きかたをしてきました。
だから、いくらひかると同い年の13歳とはいえ、どうしてあえて「大人」という設定をわざわざ設けたのか不思議でした。
「なんであなたがプリキュアルン。データを分析してもわからないルン。フワと一緒にいた時間なら私の方が長いのに・・・」
この展開のためだったんですね。
「ありがとうルン。この子を守ってくれて・・・」(第1話)
ララは前話の終わりからずっと何かに落ち込んでいました。その理由は今話に入ってもなかなか明らかにされませんでしたが、どうやらひかるがプリキュアであることを自認するたび、密かに表情を曇らせているようでした。
「私が? キラやばー!」
「それがプリキュアでしょ?」
「私もがんばるからね、プリキュアとして」
「よーし、任せて。私、プリキュアがんばるから!」
「軽く言うルン。なんであの子が・・・」
ララには自分が大人だという自覚がありました。大人であるからには助けを必要としているフワやプルンスを守らなければなりません。だって、大人というのは自分の周りにいる子に対して責任を負うものです。どこの家のお父さんもお母さんもそうであるように。
一方で、ララから見たひかるは明らかに子どもでした。無鉄砲で、考えなしで、危なっかしくて。フワたちを守るなんていう大きな責任を負わせていい相手とはとても思えませんでした。 ・・・なのに、ひかるはプリキュアでした。
フワたちをノットレイダーから守れる力を持っていたのは、ひかるでした。
ララではなく。
大きな責任を負わせるべきではない子どもに、それでも任せざるを得ない。
「あ、フワとプルンスは任せてね! 私もがんばるからね、プリキュアとして」
「あ・・・。ルン。頼むルン・・・」
それは、大人としてとても情けないことのように思えました。
「――ねえ。私がプリキュアになれる確率はどのくらいルン?」
できることなら大人である自分がフワたちを守ってあげたい。
自分に課せられた役目はきちんと自分で果たしたい。
そうあるべきだ。
「ララ様がプリキュアになる確率は0.000000012%です」
なのに、できない。
自分が悪いんだろうか。自分が大人のくせに力が足りていなかったせいで、あんな子どもにまで迷惑をかけてしまっているんだろうか。
「じゃあ、星奈ひかるの確率は?」
「その確率は0.000000012%です」
――いいえ。
「ルン!? 私と全く同じルン!」
あなたが自分の役目を為せずにいるのは、あなたが情けない大人だからではありません。
ひかるの想像力
「キラやばー! やっぱり宇宙人だよね、何それ、触角!? かわいー!」
「グイグイ来る! この地球人、宇宙人とか怖くないでプルンスか!?」
「星座と宇宙、宇宙人とか大好きなの! あと、UMAにオカルト、それに――」(第1話)
ひかるは物怖じしない女の子です。コスモグミだろうがサマーン星式挨拶だろうが、何でもかんでも喜んで受け入れます。
どうしてこんなにも押せ押せでいられるのかといえば、それは日頃から培ってきたイマジネーションのたまもの。
「本を開くと頭のなかが楽しい想像でいっぱいになるの。宇宙なんて何十回何百回も行ってるよ」
それだけあちこち出かけていたのなら、ちょっとくらい不思議なものに出会ったくらいじゃ動じないのも当然ですよね。
心のなかは宇宙だといいます。広さでいうなら空に広がる星の世界にだって劣りません。
アホっぽい言動ばかり目立ちますが、これでひかるは聡い子でもあります。
「私の星では13歳で大人ルン。だから、ロケットを直してプルンスたちを連れていくっていう、大人の責任があるルン」
これまで慣れ親しんできた地球の常識とは全然違う異星の常識にすら、ひかるはただちに適応します。
「そっか。――これ、夜食にしてね。外に出てるのわかったら叱られるから帰るね。・・・あ、フワとプルンスは任せてね! 私もがんばるからね、プリキュアとして」
見た目も実年齢も自分と同じにしか思えないララが実は大人としてものごとを考えていたことに、ひかるはちゃんと気付いてあげられます。
相手が大人であることに敬意を払い、自分は子どもとして身の丈に合った行動を選びます。自分と相手の立場が異なることを正しく認識します。
もし何か手伝ってあげたいことがあるとしても、それはあくまでこの前提を踏まえて検討すべきこと。
ひかるに宇宙船の修理を手伝う技術はありません。夜遅くまで付きあってあげられる身分でもありません。
代わりに、フワとプルンスを自宅に泊めてあげることくらいならできます。
プリキュアとしてみんなを守ることも。
「なんであなたがプリキュアルン。データを分析してもわからないルン。フワと一緒にいた時間なら私の方が長いのに・・・」
唐突に漏れたララのぼやきの真意にも、少し考えただけでちゃんと気付いてあげることができます。
前夜、ひかるはララがプルンスたちを気にかけているという話を聞いています。彼女が責任感の強い人であることも。
その前提から考えるなら、どうして自分がプリキュアであることに彼女が不平を感じているのかにも想像が及ぶわけですね。
「ねえ。ララちゃんもプリキュアになりたいの?」
つまり、この人もプリキュアになって自分の手でフワとプルンスを守りたいんだ!
想像力。
これまで知りえなかった宇宙の常識に適応することも、自分と違う考えかたの他人の心中を理解することも、実は意外とよく似ています。
それらはどちらも、これまで知らなかった新しいことに触れようとする行為です。
空の向こうの外的宇宙に踏み出すか、他人の心のなかの内的宇宙に踏み込むか、たったそれだけの違いでしかありません。
こと宇宙のことに関してなら星奈ひかるはベテランの冒険者です。すでに何十回、何百回と広い宇宙を旅してきました。
「過去と比べられてもこれから何が起きるかなんてわかんないし。私は私だし。ララちゃんはララちゃんだよ」
ひかるの自由な想像力は知っています。どんぐり座。ビッグフット座。ドーナツ座。UFO座。グレイ座。そしてフワ座。存在しないとされるどんなものだって、人の外側と内側とに広がる果てない宇宙のどこかにならきっと、ありえないなんてことは絶対にありえないんだって。
汝の為すべきことを為せ
「ララちゃん。プリキュアに・・・、プリキュアになって!」
現実に可能かどうかなんてわかりません。
ララにプリキュアに変身できる力があるのかなんて、他人にも本人にもわかりっこありません。
けれどひかるは知っています。
フワたちを守ることは、ララが自分に課した役目なんだと。
本当は自分の手でフワたちを守りたいと願っているんだと。
そしてララも知っています。
フワたちを守ることは、自分で自分に課した役目なんだと。
本当は自分の手でフワたちを守りたいと望んでいるんだと。
全ての人はそれぞれ為さねばならない大切な役目を担っています。
けれど、その“役目”を自分に課したのって、そもそも誰だったでしょうか?
誰があなたに「みんなの役に立ちなさい」って言ったのでしょうか?
「私はフワを、フワを・・・フワを守るー!!」(第1話)
自分です。
誰かを喜ばすことのできる自分になりたくて、だからみんな、それぞれ自分に役目を課すんです。
「ララちゃんはララちゃんだよ! データなんて関係ない。思い描くの、なりたいララちゃんを!」
それはあなたが決めた、あなたにしかできない大切な役目です。
だから、諦めていい、仕方がないと言うことができるのも自分だけ。ここにあるのは自分自身の問題です。客観的な事実ごときに個人の主観的な認識をねじ曲げる力なんかありません。
「私は、・・・守りたいルン。私はフワを守りたいルン。私の力で!」
自分の意志だけが目の前にあるたったひとつの真実。
為したいのなら為せばいい。
為したいというなら為せるまで諦めなければいい。
為したいというなら為せるまでがんばりつづければいい。
そうして、為せばいい。
「だから私は、――私はプリキュアになるルン!!」
プリキュアはいつだってそうしてきました。
「ララちゃんならプリキュアになれると思ってたよ」
「・・・『私は私』と言ったけど、違うルン」
ただまあ、そんなふうに「自分の思いこそ正しいんだ!」みたいなことばかり言っているのもさすがにさびしすぎるので、最近のプリキュアはもう少し違った論理も掲げています。
それは『Go!プリンセスプリキュア』を救った夢追う同志であり、『魔法つかいプリキュア!』が信じた世界の祝福であり、『キラキラプリキュアアラモード』が束ねたバラバラの個性であり、『HUGっと!プリキュア』が示した応援の力であり。
「星奈ひかる。あなたがなれたから、私もプリキュアになれると思ったルン」
そして本作『スタートゥインクルプリキュア』においては、多様性の受容として表れるものなのでしょう。
客観的な事実をつっぱねることと、信頼できる他人に助けてもらうことは矛盾しません。
コメント