
・・・綺麗事だな。それは、生ある者の論理だ。

(主観的)あらすじ
血と鉄の匂い立ち込める同窓会。
いつか見た光景が5年越しに繰り返されようとしていました。ただし、今度は本当の殺しあいとして。
炎の塊が降り注ぎました。無数の矢の雨も。視界の外から赤黒い槍が差しのばされ、斧が退路を砕き、正面ではいびつに潰れた剣が陽光を反射して鈍く輝きます。・・・ひどい乱戦でした。3つの陣営すべてが、自身が孤立していると考えていました。生き残るためには他の二者を潰し合わせ、隙を突いて勝利をかすめ取るしかないと。かつて同じ学び舎で1年間を笑って暮らした子どもたちは、今、お互いを血の海に沈めるため獣の形相で地図を読んでいました。
結局最後に残ったのは5年前と同じ、青獅子の学級。ただしあのころと違って勝利を祝福してくれる友人たちは隣にいません。不運な者たちは平原のそこかしこに肉の塊となって転がり、そしてもっと不運な者たちは憎悪とともに自身の領地へ撤退せざるをえませんでした。
そしてもうひとり、平原の中央に所在なく立ち尽くすディミトリの後ろにも不運な者が――。
背に凶刃が突き刺さり、そしてもうひとつ穴を穿たんとする光景を眺めて、ディミトリは安堵しました。・・・これでようやく辻褄が合う。これは俺が受けるべき報いだ。
けれど、2度目の刃はディミトリの背に届きませんでした。鋼のように堅い肉の壁に阻まれて、その刃は先端すらもディミトリの身に届いてくれませんでした。
肉は小さく笑います。
「・・・ご無事でしたか、殿下。もしや、余計なお世話、でしたかな・・・?」
その笑顔は、ディミトリを安心させるためのものではない、ただ本当におかしくて自然にこぼれた笑みのように見えました。
陽の光にも似た、見るだけで心のなかのあらゆる苦しみが溶かしつくされるような、慈愛に満ちた微笑でした。

感想
「おい・・・。悪いことは言わん。早くあの猪を檻にでも繋いでおけ。上の空なのか知らんが、剣も精彩を欠く。あのまま放っておけば死にかねんぞ」
5年前、教師はひとりの生徒の訴えに対して充分な対応をしてやることができませんでした。
幸運に恵まれ、死なせてしまうことだけは避けられましたが、生徒の友人である、獣の目をした少年を見守りつづけることは叶わず、それから5年もの長きを孤独にさまよわせてしまいました。
久しぶりに再会した少年はもはや人語を解さぬ獣に成り果てており・・・。
――そんな結末はイヤだと、教師は思いました。
だから、獣を人間として扱いつづけました。
どんなに吠えられても、噛みつかれても、昔と変わらず人の言葉で語りつづけました。
「・・・なあ、教えてくれ、先生」
結局のところ、彼女ひとりで少年を人間に戻すことは叶わなかったのだけれど。
思いを同じくするロドリグ卿が命を賭して語りかけてくれ、それでようやくディミトリに人の声が届くようになりました。
教師として不甲斐なさを感じざるをえません。けれど、これでやっと5年越しの宿題が片付いた気がしました。
「どうしたら彼らの嘆きは止む? どうしたら・・・、俺は、彼らを救ってやれる?」
宿題が終わったら次は新学期。学校での学びに終わりというものはありません。
「自分を許してやればいい」
人の声が届くようになった少年に、教師は今度こそキレイゴトを謳って聞かせます。
教え子全員が健やかに生きられるように。
それぞれの人生に納得して死ねるように。
血なまぐさい戦場の真ん中で、シンファニカはおとぎ話よりも高潔な夢物語を、現実を生きる少年たちのために授業します。
・・・そもそもが、死に瀕した人間に正常な思考なんてできるもんかって話ですよ。
「・・・討て。仇を討て。俺たちを殺した者を。殺せ。絶やせ。滅ぼせェッ・・・!!」
父王は今際の際に呪詛を残しました。そのせいで、ディミトリは長いこと苦しみながら生きることになってしまいました。
けれど本来の父王は慈愛に満ちた父親だったはずでした。
「あいつは聡い。たとえ父親がいなくとも、きっと真っ当に育つだろう。だが・・・もしいつか、あいつが道を誤ったなら、そのときはロドリグ、お前が――」
たったひとつの言葉で、たった一瞬の表情で、その人間のすべてを解することなんてできません。人間は複数の側面を持つ生きものです。いい人だったり、ロクデナシだったり、面白い人だったり、くだらないことしか言えなかったり、時と場合によっていろいろです。
ロドリグだってそう。
彼は明らかにディミトリに対して臣下の義理を越えた愛情でもって接していました。そんな彼が今際の際に言い残します。
「殿下・・・。あなたはひとつ・・・思い違いをしている。誰も・・・あなたのために死んだのではない。私は、私の信念のために・・・、死ぬのです」
彼が自分の信念のために死んだのは間違いないにしても、それはそれとして、ディミトリのために死のうとした思いが本当になかったかというと、たぶんそんなことはないと思います。
けれど、そんな確かめようのない真実なんてどうでもいい。
「あなたの命は・・・、他でもない、あなたのものだ。それは・・・あなたの信念のために、お使いなさい」
ディミトリの心を苛みつづけた亡者の呻き、あれはディミトリにしか聞こえていませんでした。彼らが本当に、ディミトリが確信していたような復讐を求めていたかどうかは、誰にも確かめることはできません。死人に口なし。なにせ今際の際に居合わせたディミトリですら、父親の本心に触れることができなかったくらいなんですから。
亡者が何を思っているかだなんて誰にもわかりません。本当は。ディミトリだってそのあたりはよくわかっていたはずなのに。
「たとえどれほど無念であっても、彼らは復讐を望むことさえできない。生き残った者が、彼らの意志を――無念と憎悪とを、背負わねばならない」
結局のところ、ディミトリに妄執を強いていたのは、他でもないディミトリ自身。そもそも死者は何も思えない。思うことができるのは生者だけの特権です。
・・・だからこそ、シンファニカは教え子たちに、人生に納得するまで生きつづけてほしいと願います。
「それだけがあなたの為すべきことだとは限らない」
「妄執から解き放たれたいなら、自分を許してやればいい」
「あなたは自分の信念のために生きていい」
「本当に・・・そんな生き方が許されるのか? 人殺しの化け物に成り下がった俺に・・・。あの日、生き残ってしまった俺にも・・・自分のために生きる権利が、あるのか・・・?」
知らない。
だって、許す権利があるのはディミトリ自身。シンファニカにどうこう言える権利はありませんし、言うつもりもありません。私の教え子なら自分の人生に自分で納得してから死ね。死ぬまでは生きろ。できればめいっぱい愉快に生きろ。
きっとそれでいいんだと、生者であるシンファニカが雑に保障します。
このゲーム、思っていたよりシリアス展開がどっしり続くので忘れがちでしたが、本来この主人公は割といいかげんな享楽主義者としてロールプレイしていたはずでした。
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