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プリンセス・プリンシパル 第5話感想 止まった時計を動かす悲劇。

この記事は約8分で読めます。

私の時間は2年前からすっかり止まってしまっている。十兵衛を討ち果たさなければ涙すら流れてくれないからな。

――自ら悲劇に突き進む少女の「ごまかし」

 今話は細かく段階を踏んで各キャラクターを描写していく脚本が秀逸でした。

日本使節団とプリンセスの交流

 アルビオン王国において日本人は歓迎されているとは言いがたい立場のようです。
 「まあ、怖・・・」
 「なんだあれ。日本人って・・・」
 「アジアの国よね。ハラキリ、とか・・・」

 ハラキリて。まるっきり蛮人扱いですね。和装にマゲという宥和っ気ゼロないでたちで訪れた使節団にも非はあるのですが。
 あげく王国ノルマンディ公や共和国コントロールからも外交的重要性をまるで評価されておらず、完全に招かれざる客といった印象です。
 「変わってるわ。日本人って」
 ダメ押しに我らが主人公からも率直な感想を。

 そんな思いっきりアウェイな日本使節団を、ただひとりプリンセスだけが笑顔で迎えてくれるわけですよ。
 「初めまして、堀河公。ようこそアルビオン王国へ」
 末席とはいえ王族。護送には王室専用列車。ウェルカムフラワーは白バラ。日本文化たる枝垂れ桜に朱塗りの衝立まで用意した、真心の行き届いたおもてなし。
 白バラは豪奢でありながら、どんな色にも染まりうる奥ゆかしさも兼ね備えた花です。花言葉は「深い尊敬」。王族としての威光を保ちながら、割とへりくだった友好を示しているわけです。
 もてなす態度として当たり前ではあるんでしょうけれどね。しかし先に見てきたように、アルビオン王国民の日本人を見る色眼鏡はなかなかにキツく、不平等条約の件もあって、日本使節団の立場は心細いものでした。プリンセスが十人並みに扱ってくれたことがどれだけありがたいことだったか、想像に難くありません。

 「現在の条約はあまりに不平等・・・」
 堀河公が思わず場所をわきまえない語りをしてしまったのもむべなるかな。
 しかしプリンセスはそんな非礼すらも柔らかく受け入れ、逆に個人として最大限協力することを確約してくれるわけです。
 「私には何の決定権もありませんが、おばあさまにお引き合わせすると約束しましょう」
 そりゃ使節団の表情もやわらぐわ。

 わずか5分にも満たない短いやりとりですが、こうして日本使節団とプリンセスは個人レベルで大いに友好を温め、間もなく舞い込む暗殺事件に対してスムーズに協力関係を敷けるようになりました。
 ひいては共和国への鞍替えも。(正確には両天秤にかけられた状態ですが) アレ絶対ドロシーの色仕掛けの成果というよりかプリンセス個人への信頼の方が大きいですよね。国力で考えたら王国を捨てて共和国に取り入るのは日本にとって下策でしかないはずですが、プリンセスの勝ち得た信用がそれを覆したわけです。

ちせと十兵衛を繋ぐもの

 ちせと十兵衛というふたりのキーパーソンを描くにあたって、さりげなく良い動きをしてくれたキャラクターがいます。
 大島です。日本使節団のなかで唯一マトモな洋装をしていたヒゲのおっさんですね。

 「待たれい! その者は暗殺者にあらず! しばし待たれよ!」
 ちせを受け入れるために最も心を砕いたのは彼でした。
 「連れて行くだけだ。戦働きは・・・」
 「『相棒』ということだ」

 彼のちせに対する口調はとても気安いものです。個人的に親しい関係にあると見て取れます。
 「十兵衛殿・・・」
 「大島か。許せ」

 同時に、彼は十兵衛とも親交があったことを伺わせます。
 大島を間に挟んだ、新政府派のちせと旧幕府派の十兵衛の奇妙な接点。これがあるから、後にちせが涙をこぼしたとき、昔はどんなだったんだろうかと思いを馳せちゃうんですよね・・・。

 この年齢で親と敵対してまで新政府を選んだちせにはいったいどれほどの大義があったんだろう。あるいはもっと個人的な信念か。親だった頃の十兵衛は彼女にどんな教えを施したんだろう。
 家族も友人も振り切ってまで潰えた幕府に忠義を尽くした十兵衛とはいったいどんな人物だったんだろう。こんな自爆テロ同然の手口で堀河公を暗殺せしめたところで幕府が蘇るわけでもあるまいに、娘への愛情よりも優先させてしまった感情のうねりとは。
 プリンセス・プリンシパルの物語としてこのあたりの過去を掘り下げる必要は、必ずしもありません。だって、どう考えたってこれはアンジェには関係のない物語です。ですが、やっぱり、キツいなあ・・・と。
 プリンセス・プリンシパルは普通の少女にはおよそ似つかわしくない“スパイ”という生き方に身を汚す少女たちの物語です。普通の少女が普通じゃない生き方をするにはやはり相応の理由があるわけで、まあ、何かにつけキツい物語ですよね。

 「私の時間は2年前からすっかり止まってしまっている。十兵衛を討ち果たさなければ涙すら流れてくれないからな」
 果たしてその言葉は真実でしょうか。
 誰かを騙してはいないでしょうか。
 「いたいのいたいのとんでけ。いたいのいたいのとんでけ。・・・おかしいな。父上のおまじない、効かないよ。胸の痛み、全然取れないよ」
 涙は流れました。ですが、それは本当にちせの想像していたような涙だったんでしょうか。本当に流さなければならない涙だったんでしょうか。
 堀河公の前で父を討つことを誓うちせの横には枝垂れ桜の衝立がありました。シダレザクラの花言葉は「ごまかし」。

アンジェとちせの友情

 「アンジェ。あなたはちせさんとバディを組みなさい」
 プリンセスは私たち視聴者にすらなかなか本心を読ませてくれないクセモノです。今回もまたなんとも道理に合わない無茶を言ってくれます。私この子好き。

 アンジェが主張するように、この時点のちせは状況的に見てとても信用のおける人物ではありません。
 信用できる人物に監視させるというのは一見道理に適っているようにも見えますが・・・そもそもがですよ、プリンセスはアンジェをこそ大切に思っているはずなんです。これまでのエピソードからもそれは明らかに見て取れます。なのにどうして、そんな大切な人をあえて危険人物の傍に置くんでしょうか。

 アンジェにはプリンセスの考えていることがわかりません。あまりにも意味不明すぎて、大勢の前だというのに思わず「アxxx」と、目の前の友人の本名が出かかってしまうほどに。
 蓋を返してみれば、ちせとの出会いはアンジェにとってすこぶる有益なものだったわけですけどね。プリンセスはどこまで理解したうえでアンジェとちせを繋いでみせたんでしょうね。

 別記事に書いたような腹の探り合いから始まったふたりの関係を崩したのは、家族の話題でした。
 「何をしたの?」
 「父上直伝の東洋のまじないだ。かつて私もよくやってもらった」

 第1話の「嘘」を事実と信じるなら、アンジェはすでに両親と死別しています。王女としての生活を失いスパイに身をやつしている以上、それが事実である可能性は高いでしょう。
 そんなアンジェの前で言葉を弾ませて語る、ちせの思い出話。嫉妬か羨望かあるいは共感か、アンジェの表情がわずかに動きます。敵か味方か、信用に足るかどうかという尺度でばかり観察していたこの東洋人に対して、初めて個人としての興味を抱きます。
 「なぜそんなに十兵衛のことを?」
 「十兵衛は私の父を殺した」

 そして直後に聞かされる残酷な事実。ちせとアンジェはよく似た境遇でした。アンジェの表情がもう一度動きます。

 「私の時間は2年前からすっかり止まってしまっている。十兵衛を討ち果たさなければ涙すら流れてくれないからな」
 アンジェがスパイとして生きてきたのは、古い友人であるプリンセスとともに幸せな日々を取り戻すためでした。プリンセスが予想外のことを言いだしたので現在その達成はおあずけとなっていますが・・・時間が止まっているのはアンジェも同じです。彼女は10年前に奪われたものを取り返すために今を生きています。
 「Like a gear in sync inside a clock」「When the clockwork moves and starts to shine」「For it’s time rise」
 オープニングテーマ『The Other Side of the Wall』には時計のモチーフが何フレーズか歌われています。いずれも「止まった時計を動かそう」といった感じの意味合いで。
 止まった時計を動かしたいのはアンジェも同じです。理不尽に奪われた過去を取り戻し、幸せだった日々を再開させるのが、彼女がスパイに身をやつしてでも果たそうとしている夢。
 全てを果たすまで、アンジェは無邪気に笑うことすらできやしない。
 ちせの生き様はアンジェとそっくり同じ。ちせが十兵衛を打ち倒す未来はアンジェの目指すべき到達点そのものです。

 なんて。
 「十兵衛は父親だったのね」
 ちせはひとつ「ごまかし」ていました。止まった時間を取り戻すための手段が、別の悲劇であったことを。
 父と過ごした想い出の時間を取り戻すためには、今の父を殺すしかありませんでした。本末転倒。結局どうあったって、2年前の時間が取り戻される日は永遠に訪れません。ちせはそのことを初めからわかっていました。
 「同情なら不要だ。私はむしろ誇らしい。父を超えることができたのだからな」
 だからせめてもの救いを見繕い、それをもって止まった2年間の代価としました。しようとしました。
 けれどそんなものではとても割に合わなかったのは、このあとの彼女の涙を見てのとおり。結局のところそんなものはただの「ごまかし」です。自分に対する「嘘」です。普通の少女に似つかわしくない生き方なんて、普通の少女にとって割に合う生き方なわけがありません。

 ちせが十兵衛を打ち倒した姿はアンジェの目指す未来のかたちそのものです。
 そのどうしようもない残酷さはアンジェにも痛いほどよくわかるものでしょう。彼女はプリンセスたちに声をかけて、ちせをひとりにしてあげます。それから。
 「ちせ。プリンセスを守ってくれてありがとう」
 それから、せめて少しばかりの「ごまかし」を。運命の先達が成し遂げた、とても割に合わない悲劇に、感謝という名のはなむけを。

 これから先のアンジェの道行きはどう考えたって暗いです。王国と共和国の2国をまるごと敵に回そうとしているようなものですから。普通の少女が対峙していい相手ではありません。
 その無謀に、果たしてプリンセスはどんな介入をしようというのでしょうか。女王を目指すという荒唐無稽な野心に続き、日本とちせを味方につける働き。その意図とは。彼女が灯そうとしている小さな輝きに、今は希望を託しましょう。

コメント

  1. 10 より:

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    「アxxx」は字幕か何かで確定できる要素でしたか?
    さすがに10年近く訓練を受けていて、仲間と見知らぬ日本人のいるところでそれを上回るミスをアンジェがするとは思い難いのですが。

  2. 疲ぃ より:

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     いいえ。未確定です。

    ・狼狽して身体を後ろに引く→声が出る→意識的に顎を引くというプロセス(=とっさに出かかった言葉を慌てて押し殺していると解釈)
    ・声優が普段よりオクターブ高い演技をしている(=少なくとも平常心は失っていると解釈)
    ・会話の流れとして「あ!」などの驚きの感嘆詞が出るタイミングではない(直前のプリンセスの説明ではアンジェを納得させられない)

     このあたりを根拠に、取り乱して思わず本名で呼びかけたのだと推察しました。

     ちせを受け入れるプリンセスの判断は不合理かつ不可解で、護衛任務中のスパイの見識からでは到底納得できるものではありません。
     安全面を考えるならばアンジェの言うとおり、即座に列車から降ろすか兵士たちの詰める別車両に移すなど、可能な限りプリンセスから遠ざけるべきでした。ちせひとりのために手勢少ないプリンセスの護衛に穴を開けるのではむしろ不利益しかありません。
     実際、それまでのアンジェはプリンセスのいる車両にずっと同乗していたにも関わらず、ちせとバディを組んで以後は別車両の見回りばかりしています。(そしてそのせいで、いざ十兵衛の襲撃があったときにプリンセスの傍にいられませんでした)
     マトモな感覚ではプリンセスの真意を解することができず、感情面に答えを求めてうっかり友人としての表情が出てしまったものだと考えます。

     そもそも私はアンジェのことを(スキルはともかくメンタル面では)根っからのスパイだと考えていませんしね。彼女への評価については根本的な見解の相違があるのではと思います。
     私の知るアンジェはスパイである前に年齢相応のあどけない少女です。
     

  3. 10 より:

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    これまでのインタビューやコメンタリでも上記疑問点を探しておりましたが、5話BDが発売されたところで、キャストの口ぶりですとやはり(台本上や指示等では)「ア~」ではなさそうですね。
    言葉足らずの投げかけだったこともありますが、少なくとも二人きりの時以外では、ちゃんと歯止めスイッチが効いていて自分的に良かったです。

  4. 疲ぃ より:

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     おや。そうなんですか。
     私は劇外で語られた内容は論拠にしない主義なのでそこらへんへの言及は避けさせていただきますが、あなたが納得のいく答えを得たことについては賞賛します。

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