ぐらんぶる 第1話感想 汚いプリキュア。

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大事なのはお前が興味を抱いているかどうかだろ。

(主観的)あらすじ

 親元を離れ伊豆大学に進学した北原伊織20歳は、この春から親戚の古手川の家に下宿することになりました。古手川家はダイビングショップを営んでおり、海にほど近く、実に爽やかなロケーション。否応なく明日からはじまる大学生活への期待に胸がふくらみます。
 「今までとは違う環境で、俺はどんな出会いをするのだろう」
 花の大学生活第一歩目の扉の向こうには、輪郭線の太い体育会系男子どもの全裸祭りが待ち構えていました。
 酒。酒。酒。全裸。酒乱。乱痴気。トンチキ。筋肉。イッキ。イッキ。全裸。パンイチ。フルチン。全裸。
 この日のために今日から我が国は義務教育期間を2年延長していました。何の問題もなく20歳ということになった北原伊織の大学生活への憧れは木っ端に打ち砕かれ、めでたく真っ裸で大学デビューを飾ることとなるのでした。
 「最初から自分ができるモノだけ選んでいたら何もはじまらない。大事なのはお前が興味を抱いているかどうかだろ」
 大抵いつも全裸の先輩は、伊織の胸に響く良いことを言ってくれました。この言葉とともに北原伊織の大学生活ははじまります。酒宴8割ダイビング2割のインカレサークル・Peek a Booにて。
 なんか成し崩し的に入会することになっていました。やむをえずガイダンスで知り合った美形のイカレアニメオタク・今村耕平を巻き込むことにしました。

 原作者曰く、この作品は“汚いあまんちゅ”だそうです。ええ、ええ。確かにダイビングを取りまく若者たちの日常を描く物語という意味では共通しています。あんまり潜りませんが、一応ダイビングに対しては真摯な原作マンガです。絵面が汚いというのも間違っていません。いうまでもなくむしろそここそ真骨頂。
 ですが困ったことに、私にとってこの『ぐらんぶる』はむしろ“汚いプリキュア”なのです。彼らは自発的な自由意志を尊重し、飽くなき挑戦を賞揚しています。「みんなの夢を守りたい」という意志はプリキュアです。「諦めない、負けない」がプリキュアの合言葉です。ファッキンなことに、Peek a Booの思想はプリキュアとよく似ているのです。
 ならば、私は北原伊織らをプリキュアとして認めなければなりません。実際この先の伊織はちょいちょいカッコいいのです。基本はアルコールと全裸と卑怯と自堕落に脳を冒されたダメ大学生なのだけれど。いわゆるピンクプリキュアってやつなのです。(激しく語弊)

大きくなったら何になりたい? 両手にいっぱい全部やりたい!

 「10年ぶりにやって来た海沿いの街。聞こえてくる潮騒と照りつける太陽――。今までとは違う環境で、俺はどんな出会いをするのだろう」
 「せっかく男子校を卒業したんで距離を取りたいんですよ。・・・それは、こういう男子校のノリってやつからですよ!」

 北原伊織は大学生活に憧れを抱いてやって来ました。
 女日照りの男子校では発散されぬリビドーを悶々と溜めつづけていたからです。チューとかハグとか気軽にやってたであろう共学生のリア充どもに対する遅れを取り戻すべく、(主に女子と)ウェーイでキャッキャウフフな青春の日々を送るべく大学生になりました。

 従って、桃色総天然色(だいぶ黄土色寄り)な絵面の男連中のなかで青春を浪費することは本意ではありませんでした。
 「世の中に無駄な経験なんてモノは存在しない」
 「減るもんじゃないし」

 するのです。減るのです。
 「断固拒否します。やりません。俺はそんなノリには絶対に染まりませんから!」
 青春タイムは限られているのです。ただでさえ後れを取っているのです。酒に呑まれて股間に黒丸をつけている暇はないのです。

 「クソっ! どうして俺が中心の女子高生美少女ハーレムサークルがないんだよ!」
 「大学に来たら新世界が広がって、夢のような生活が待っていると思っていたのに!」

 一方、今村耕平も大学生活に憧れを抱いてやって来ていました。
 彼は拗らせていました。彼の過去は今ひとつ語られる機会が少ないのですが、現在の彼がオタク趣味を隠しているつもりでいるということが彼のすべてを表しています。彼は満たされないオタクライフを過ごしてきました。それを環境のせいだと確信していました。だから、大学に入ればすべてが変わると無邪気に信じていました。

 従って、現実の大学生活は彼にとって本懐を満たすものではありませんでした。
 「現実は冷たいんだ。どいつもこいつも『寝ぼけるな』だの『大学に女子高生がいるか』だのとわけのわからないことばかり・・・!」
 理解できません。納得できません。こんなものが憧れていた大学生活であっていいはずがありません。
 一般的に、大学生活とはもっと気軽にファンタジーな事件が起きるものなのです。高校生活は意外と地に足がついていて、天使だの悪魔だのロボ娘だのがクラスメイトにいる以外は普通の学校行事のなかであれこれ展開されるものなのですが、大学生になるとガチャガチャで引いたフィギュアが動きだして色々エロいことをしてもらえたり、偶然超法規的な風俗店の経営権を押しつけられて女子高生たちに性技を仕込むハメになったり、はたまた魔法少女の女子小学生の身体に乗り移って悪の触手どもと戦うことになってしまったりと、割と気軽に嬉し恥ずかしな事件に巻き込まれやすくなるものであるべきなのです。耕平が何をモデルに理想の大学生活をイメージしているのかは知りませんが、とりあえず私はエロゲでそう学びました。
 青春タイムは限られているのです。目指すものへの道はただでさえしらばっくれられているのです。酒に呑まれて股間に黒丸をつけている暇などないのです。

 青年たちは大学生活に憧れを抱いていました。
 大学生になれば、きっと、何かが変わると信じて。

DATTEやってらんないじゃん。ストレスよりロマンスでしょ?

 「ダイビングに興味は?」
 「ありますよ。でもやる気はありません。俺、泳げませんから」
 「――ははは。さてはお前、国語が苦手だろう。だって“やりたい”か“やりたくない”に、“できる”“できない”で答えるなんて」

 大学生になればそれだけで何かが変わるだなんて、そんな都合のいいことありはしません。
 少なくとも私は変わりませんでしたね。高校の部活と同じ活動のサークルに所属して、友達といえば高校からの持ち上がりのメンツばかりで、基本的には本を読むかゲームするかしてひとりで過ごして。変わったことといえばお酒を覚えたことくらい。

 「最初から自分ができるモノだけ選んでいたら何もはじまらない。大事なのはお前が興味を抱いているかどうかだろ」
 環境を変えたところで、そんなものはきっかけにすぎません。本人が変わろうとしなければ何も変わりませんとも。
 たとえばダイビングに興味があったとしても、自分が手を挙げなければいつまで待っていたってダイビングはできません。
 「やりたいと思っていたわけじゃないし」などとあなたはうそぶくでしょうか。それならそれでもいいでしょう。それも一面の事実であることは本当です。正論です。ですが、“やりたいと思わなかった”ことは果たしてあなたに何をもたらしたでしょうか。あなたはその結果に満足しているでしょうか。
 変わりたがっているあなたが、変われなかったことに満足するでしょうか。

 「いいか、伊織。お前は食わず嫌いが多いように思える。やったことがないのに文句を言っているんだから」
 やりたいと思わなければ何もできません。まずは自分が変わろうとしなければ何も変わりません。
 「それは良くないな。やったこともないのに『全裸で公道を走るのは良くない』などと」
 「それはこっちが正しくないですか!?」

 正論、正論。だが知ったこっちゃありません。そのツッコミは論点が著しくズレています。現実に“できる”か“できない”かを問うているのではないんです。憧れとして“やりたい”か“やりたくない”かが重要なんです。
 まずは自分が変わろうとしなければ何も変わりません。もっとも、論点をすり替えてまで言い訳を重ねる気持ちはよくわかりますけどね。だからこそ伊織は“環境を変える”ことに頼ったんですから。
 自分では自分を変えられないからこそ、環境を変えることによって自分を変えてもらえることを期待するんです。まあ、大学生だったころの私の身にはそんな都合のいいことは起きませんでしたけどね。

 ところが伊織は私とはちょっと違います。
 「とりあえずこれを飲んで、野球拳からはじめてみるべきだろう」
 「何事も経験だ」
 「世の中に無駄な経験なんてものは存在しない」
 「騙されたと思ってやってみろ」
 「そこをなんとか!」
 「減るもんじゃないし!」

 彼は幸運なことに、押せ押せでしつこく食い下がる先輩たちと出会えました。
 環境を変えることで、自分を変えてもらえるチャンスを得ました。
 まあ冷静に考えてちっとも美談なんかじゃないんですけどね。
 酒を飲んだところでなんになる。全裸になったところでなんになる。
 そんなことで伊織は変わりたかった自分に変わることはできません。
 そこまで都合のいい話はありません。
 やっぱり変わりたい自分があるのなら、最後には自分で変わるしかないんです。
 そこはどうしようもありません。

 ですが、それでも伊織の現実はちょっとだけ変わりました。
 「やるじゃねえか伊織!」
 「3人抜きたあ恐れ入ったぜ!」
 「早く負けて俺のご立派様をお披露目したいです!」

 あれだけ毛嫌いしていたものが楽しくなってきました。
 「伊織がこんな頭の悪い人間になっているとは思わなかった」
 あと、久しぶりに会った従妹に心底軽蔑されました。
 ろくなものではありませんでしたが、現実として伊織は少しだけ自分を変えることができました。

さあ咲かそう、こころの花。元気よく!

 お酒を飲むのは楽しいことです。
 特に大学生の時分にとっては最高に楽しいことです。
 だって、とりあえずお手軽に変わることができるから。
 無意味にテンションが上がって、無駄に気持ちが大きくなって、普段は話せないようなこともベラベラ語れるようになって、人目を気にせず素直にキャストオフすることもできて、いつもと違う自分を演じて。
 楽しかったですよね。

 やってることはろくでもないですが、とりあえず伊織はきっかけをモノにして変わりました。
 変わることの楽しさを経験しました。
 一夜にして彼はどこに出しても恥ずかしさしかないPeek a Booの尖兵となりました。

 「――あるさ。新世界も夢の生活も。ただお前はその入口に気付いていないだけなんだ。どうだ。一緒に夢の入口に踏み込んでみないか」
 伊織はすでに知っています。変わりたいという意志がどんなに素晴らしいものか。変わろうとする挑戦心がどれほど素晴らしいものか。
 知っていて、微妙に望まれていない方向へと耕平を引きずり込みました。自分が先輩にやられたことと同じように。言葉巧みに。きれいごとを駆使して。いたいけな純情を利用してうまいこと騙して。
 おかげで耕平は変わることができるでしょう。絶対にろくでもない人間として。
 変わることの、楽しさを知ることでしょう。
 伊織と同じように。

 大学生活に憧れを抱いていた青年ふたりは、まずは変わることを知りました。
 その変化はまったくもってろくでもないものでしたが、それでも自分は変われるということを彼らは知りました。
 スーパー絵面の汚い全裸でバカなヒーローは、さて、これからどれだけのつまらない現実を変えていくのでしょうか。
 はたして彼らは自分の本当に望んでいたような大学生活をつくることができるのでしょうか。
 楽しい物語の開幕です。

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